シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

中央銀行が債務超過に陥ればどうなるのか

先進国で中央銀行の資産が毀損して債務超過になれば、貨幣価値はどうなるのでしょうか。
最近、この疑問に対する答えが出ている国があります。

その国とはスイスです。

スイスでは今年1月15日にスイスフラン高対策として2011年以来設定してきた対ユーロ・スイスフランの上限目標1.2を突然撤廃しました。 そのためスイスフランはユーロ、その他の通貨に対して暴騰したのは記憶に新しいところです。

問題は、スイスの中央銀行スイス国立銀行(SNB)では昨年末段階で、資産の9割以上がユーロを中心とする外貨建て資産だったことです。

SNBの昨年末時点でのバランスシートはウェブサイトに公表されています。

(1)SNBのバランスシートが昨年末と現段階で変動しておらず、(2)外貨建て資産は全てユーロ建て
という仮定を置いた場合、ユーロ・スイスフラン相場から現時点でのバランスシートの時価評価を計算することができます(図1)。

スイス国立銀行は現在債務超過である可能性が高い
スイス国立銀行(SNB)の資産
出所:SNBウェブサイト(2014年末)
2015年については本文の仮定を置いて筆者推定

図1には表示していませんが、SNBの自己資本は2014年時点でも0.7%程度しかありませんでした。
その後、対ユーロの為替上限撤廃によりユーロは1.2スイスフランから現在の1.09スイスフランに減価した(スイスフラン高)ため、現在のSNBの資産の9割以上を占める外貨資産は自己資本を大幅に超えて時価が減価していると推定されます。

スイスの中央銀行の資産が毀損したら、スイスフランは価値が目減りするのか…、といえば現在のユーロ・スイスフランチャート(図2)でみてもわかるように、全くそのような事実はありません。


図2 ユーロ・スイスフランレート推移
SNB資産が毀損しているはずの現在、超スイスフラン安などは観察されず、
逆にユーロ・スイスフランは安値(フラン高)のまま推移している。

経済学者、とりわけ財政学者やエコノミストの間から、中央銀行の資産価値の毀損によりハイパーインフレが起こる、といった極端な教条主義的主張をみることがありますが、現実世界では中央銀行の資産価値が毀損したからといって通貨価値に悪影響を与えるわけではないことがわかります。

通貨価値の源泉とは何か。 
これは一見深淵な問いのようですが、答えは単純で、その通貨で購入できる商品・サービスが現実に供給されるかどうかです。
スイスに関してはスイスフランと引き換えに商品・サービスが引き渡されないということはありえないことをスイス国内外で理解されているのでスイスフランの暴落もあり得ません。

日銀が保有する国債などの資産と日銀券の価値との関係についても全く同じことが言えるでしょう。

[3/8 追記]
ブコメで知りましたが、ハイパーインフレを経験し、USD他5種の外貨のみが国内で使用できる通貨となっていたジンバブエでは昨年暮から債券に裏付けられた独自コインをジンバブエ中央銀行が発行したが、受取拒否が続出しているとか。
これなどは、スイスの事例と裏腹で、中央銀行が裏付けを持った通貨を発行しても、その通貨で商品・サービスが引き渡されるという確実性が疑わしければ通貨として通用しない、ということですね。

ジンバブエ準備銀行中央銀行)は、先月独自の硬貨を発行したが、国民は使用を渋っている。

同国では、過去にジンバブエドルを発行したものの、使用されなかったため2009年に廃止した経緯がある。

新硬貨は債券に裏付けられていることから「ボンドコイン」と呼ばれ、南アフリカで鋳造したものを輸入した。米国セントと同等の価値があるが、ジンバブエ国内でしか使えない。

店舗でガムやペンなどを購入する際に使用する目的で導入されたものの、国民の間では、受け取っても使えないとの懸念から使用を拒否する例が続出。路上で受け取りを拒否する相手と怒鳴りあう事態が起こるなどしている。

    ジンバブエが独自コイン発行、国民はそっぽ ロイター 2015年 01月 9日