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スイス国立銀行総裁の不思議な翻意

 今日時点でも、スイスフランショックは続いています。
スイスが自国通貨スイスフランを事実上ユーロにペッグするのを止めた理由としては、近いうちに欧州中央銀行(ECB)が金融緩和に踏み切り、一段とユーロ安になると予想されたためという報道があります。
ユーロ安が拡大すれば、ユーロを中心に保有する外貨準備が毀損し、スイスの中央銀行に当たるスイス国立銀行の資本が毀損するとの判断から、為替市場での無制限のスイスフラン売り介入を断念したのかもしれません。

しかし、もたらされた結果は、対ユーロで3割ものスイスフラン増価。結果からみれば、外貨準備の毀損に拍車をかけただけとなり、スイスに本社を置く、ネスレ、ロシュ・ノバルティス(共に製薬会社)、オメガ・ロレックス(共に時計製造メーカー)などでは輸出が一挙に不利になりました。

スイス国立銀行はどう行動すべきだったのでしょうか。
実はその答えはスイス国立銀行総裁自身が3年前に書いているのです。

スイス国立銀行が無制限スイスフラン売り介入を始めたのは2011年9月でした。
その直後の2011年11月にスイス国立銀行のトーマス・ジョーダン総裁(写真)自身が無制限スイスフラン売り介入の正当性を説いたとも取れる記事を書いていて、ブログ「道草」ではこれを日本語で読むことができます。*1

以下はその骨子です。(詳細は原ブログでご覧ください)

「道草」スイス中央銀行に資本は必要? by トーマス・J・ジョーダン 

  • スイス国立銀行でも2010年には大きな損失が計上され、莫大な資本減少が発生した。
  • 重要な事は、中央銀行が資本不足に陥った場合、民間会社や金融機関とは異なり、それで大きな問題が発生するわけではないということ。
  • 民間会社で、資本不足になれば、多くの場合短期の支払いが滞るようになり、ついには必要な資産の一部を二束三文で売ってでもキャッシュに変える必要が発生し、更に資本不足が深刻化し、ついには破綻する。

 ・ブレトンウッズ体制が崩壊した1970年にはスイスフラン高騰により外貨準備が大幅に減価し、大きな損失となったが、5年後には通貨発行益によりバランスシートは回復。
 ・1978年にも同様に外貨準備の大幅減価と、それに続くバランスシートの回復が生じている。

  • 債務超過に陥いるにも関わらず、スイス中央銀行は全てのオペを行う能力がある。また公的資本注入なども必要なく、最近の損失を気にしすぎることはない。
  • 最後に結論として述べたいことは、一時的に債務超過になったとしても、中央銀行流動性制約とならないために、十分に行動する能力を保持し続ける。
  • 債務超過になっても法的手段を取られることはなく、民間企業とは異なる。さらに、通貨発行権によって、中央銀行は通常時に利益を生む。

不思議な話ですね。
スイス国立銀行の資本毀損を気にする必要はないと説いていた総裁本人が、今になって突然対ユーロレート上限撤廃を発表し、スイスの輸出企業や、スイスフラン建て債務を抱えるという中東欧諸国に突然の大幅損失を強いるなんて。

ジョーダン・スイス国立銀行総裁が何を考えて行動したのか、少なくともIMF首脳に相談した形跡はありませんし、恐らくECB総裁ら関係中央銀行との連携もなかったようです。

ジョーダン氏の会見は、今のところ上限撤廃を発表した1月15日が最後のようで、その際には上限撤廃策の妥当性しか述べず、市場を混乱に陥れています。

ジョーダン氏の不思議な翻意の原因は一体何だったのでしょうか。
次回の総裁会見が待たれるところです。

*1:執筆時点ではスイス国立銀行副総裁