シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

「国債とは銀行向け定期預金と同じ」か?

 

以下は昨日Twitterでアンケートした問い掛けです。

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これに対するシェイブテイルの見解は「賛成」です。その理由はなんでしょうか。

(なお、ここでの「国債」とは、政府支出に伴って銀行が引き受けた新発国債に話を限りましょう。)

 

シェイブテイルが「国債とは銀行向け定期預金と同じ」と捉える理由としては、単にレイの「入門書」p474にたった一文、これと同様のことが書かれているから、というだけではなく、また、リッキーさんのブログのMMT紹介のいの一番に書かれていた*1というだけでもなく*2 、財政支出の会計を眺めているとそうとしか思えなくなってくる、というのが最も大きいのです。

 

財政支出の会計を深堀りするまえに、まず「信用創造」について考えてみましょう。

私のブログの読者には改めていうまでもありませんが「信用創造」とは預金者の預金を又貸しするといった経済学の教科書に載っているものではなく、正しい理解はいわゆる「万年筆マネー」ということで、銀行が誰かの負債と見合いで自行の預金を創り出すことですね*3

 

万年筆マネーでの、民間銀行信用創造は非常に簡単です(図1)*4

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図1 民間銀行での信用創造と信用破壊の仕訳図

 このように、民間銀行で信用創造が行われるときに創り出されるお金、銀行預金は私たちがつかえるお金「マネーストック」(MS)の一種ですね。

一方、中央銀行信用創造が行われると、やはり同様に信用創造がおきるものの、作り出されるお金は準備預金(「マネタリーベース」;MBの一種)で、準備預金は私たちMSをつかう経済世界には出てこられません。

 

さて、問題は財政支出です。ここでは民間銀行に新発国債*5を買い取ってもらって財政支出するケースを考えます(図2)。

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図2 財政支出の仕訳

財政支出は(a)政府預金調達フェーズと(b)政府預金からの支出フェーズの二段階になるわけですが、(a)政府預金調達フェーズでは無金利の準備預金*6と交換に、国債を民間銀行を買い取ってもらわねばなりませんので、新発国債をあるパーセンテージ以上の表面利率で発行することになります。これは、国債購入銀行の立場でみれば、利率固定の定期預金(ただしMB世界での)だということになります*7

 

従って、ここまでみた範囲の中でも「信用創造」の種類は少なくとも以下の3つがあることになります。

  1. 民間銀行による民間債務見合いでの信用創造(MS、図1)
  2. 中央銀行による民間銀行(あるいは政府)債務見合いでの信用創造(MB)
  3. 財政支出。つまり民間銀行による、政府債務見合いでの信用創造(MS、図2)

 

ローンを組んだ人の預金口座に、民間銀行が預金を振り込む、ということは、視点を銀行側に移せば、ローンを組んだ人の債務には流動性(あるいは第三者受領性)がないのを、自分の銀行が固定債務を引き受けて流動債務(=お金)に変換したとみることもできます。

 

一方、財政支出(図2)での、(a)政府預金調達とは、政府が自由に創ることができる固定債務、国債(=MB世界の定期預金)を民間銀行の、流動性のある準備預金と交換してもらっていることになります。そして(b)政府預金からの支出は、流動性をMB世界からMS世界に転送することを意味しています。

 

こう考えてくると、財政支出には、それに先立ち、中央銀行流動性を供給しなくてはならないといった主張は、国債がMB世界の定期預金だということに気がついていない人の主張に聞こえてきます。

 

蛇足ながら、金融世界をよくみれば、私たちが何気なくお金をA銀行からB銀行に転送する時にさえ信用創造と信用破壊は関係していますので、信用創造が3種と考えるのはひとつの考え方で、もっと多いという捉え方もあるでしょう。

 

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こうした銀行間会計のお話を簿記の知識なしに解説したのが、先日Amazon電子書籍として発刊した拙書「図解!MMT現代貨幣理論の基盤」です。

米豪MMTerたちはこうした会計的なお話はMMTの研究成果以前の常識と捉えて本をかいているため、例えばせっかくランダル・レイ「MMT現代貨幣理論入門」などの書籍を読んだのに、会計知識に乏しいために、そこで挫折する読者も多かったようです。

ーーーーーーーーーー(ちょっと自著の宣伝でしたw)

 

 

*1:))https://blog.goo.ne.jp/wankonyankoricky/e/0703a2e62f1fd15d621657b63f5c6130

*2:リッキーさんは、経済学者たちを含めて、おそらく日本で最もMMT現代貨幣理論に詳しい人物と思われます

*3:最近、ウィキペディア日本語版でもようやく正しい 信用創造 - Wikipediaに書き換えられました。

*4:仕訳の表記法については拙書「図解 MMT現代貨幣理論の基盤」を参照ください。

*5:政府短期証券という名前の短期国債

*6:最近の日本の準備預金は3階層となって、無金利以外に付利された部分と、逆にマイナス金利になっている部分もあります。

*7:国債流通市場ではこのMB定期預金が売買されるのはMS定期預金とは異なっています。