シェイブテイル日記2

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スイスの為替政策から学べること

今日の日経に興味深い記事が載っています。
日経が日経・CSISバーチャル・シンクタンクというものを立ち上げ、為替レートの安定化に何が必要かを議論した結果、まずデフレを止めないと円高も止まらないという結論に至った、という記事です。*1 提言の内容そのものは、筆者等リフレ派から見れば当然の内容ですが、掲載された次のグラフには目が釘付けとなりました。


図1 各国のマネタリーベース(2007年1月を1として指数化)
日経新聞2012年5月22日

この図1ですぐに分かる通り、リーマン・ショック期以降、アメリカ・EUの金融政策当局は大幅な金融緩和を実施し、マネタリーベースが急増させたのに対し、日銀はお座なり以上にはベースマネーを増やそうとしなかったことはよく知られています。 
ただ、スイスがこれほどマネタリーベースを急増させているとは筆者は不覚にも知りませんでした。

 スイスでは、昨年8月には1ユーロ=1スイスフランに接近したスイスフラン高に対抗すべく、昨年9月スイス国立銀行中央銀行:以下SNB)はスイスフランの対ユーロ相場に1.20の上限目標を設定し、無制限のスイスフラン売り介入を発表しました。 しかも介入した資金は市場で非不胎化させるとしました。 *2
 そうなると、SNBの意図が為替の安定化であったとしても、物価を引き上げる効果があったかどうかが気になるところです。
最近のスイスの物価指数(CPI)の対前年比(月次ベース発表)は次のグラフのようになります。


図2 スイスのCPI対前年比推移
矢印はSNBが無制限スイスフラン売り・非不胎化介入発表時点。

SNBスイスフラン売り・非不胎化介入したのが昨年9月(矢印)。その後、スイスの物価は上がるどころか、マイナスで推移しています。 今回SNBスイスフラン安を意図したのであり、主にインフレ誘導を目指したわけではない、とは思いますが、図1に示したような膨大なベースマネーを市場に放置しても、物価高がもたらされなかった、ということでしょうか。

スイスの経済規模は、2008年のGDPで約50兆円。 昨年9月から二ヶ月間での為替介入額が16兆円ですから、日本で同様の為替介入をするとすれば、160兆円の円売り、非不胎化介入に匹敵します。

筆者シェイブテイルは、数日来このブログでも述べてきたように、リフレ派であり、そのリフレ派の中でも敢えて分類するならば、昭和恐慌時の高橋財政型の「直接民間にマネーを配ってリフレ」派です。
リフレ派の中で、「金融機関に円を積み上げてリフレ」派の方たちはこのスイスフランの動きについてどのように解釈されるのか、伺ってみたいところです。

*1:日経2012年5月22日「特集・日経・CSISバーチャル・シンクタンク提言」

*2:不胎化は、簡単にいえば、為替介入の結果市場に残る自国通貨の影響をオペレーションで消すこと、非不胎化は為替介入の結果残る自国通貨の影響をそのまま残すこと。