変質アベノミクス
2012年12月に第二次安倍内閣が発足し、最重要課題としてデフレ脱却を掲げ、その主要施策を3本の矢とするアベノミクスが始まりました。
しかし、消費税を上げた現在当初の目論見とは違いアベノミクスは大きく変質したようです。 (この図はイメージです)
アベノミクスでは2%のインフレ目標を掲げ、日銀による長期国債の大量保有によるマネタリーベースの二倍化によりデフレ脱却を目指していました。
財政政策でも、国土強靭化計画を掲げ、自民党国土強靭化総合調査会では、「今後10 年間で総額200 兆円規模のインフラ投資が必要だとの提言を発表しました。
ところが、最近の物価動向、特に東大日次物価指数を見ますと、デフレ脱却が容易ならぬ状況になってきたことが分かります(図表1)。
4月以降、消費者の価格志向が強まった
図表1 東大日次物価指数 2014年8月21日時点
出所:東大日次物価指数プロジェクトウェブサイト
東大日次物価指数は、スーパー等から得られるPOSデータで、
商品売れ筋情報も加味して重み付けされた物価指数。
総務省指数はPOSデータに対応する消費者物価指数
東大日次物価指数は、昨年は一貫して上昇を続けてきましたが、消費税が上がった4月以降一転して下降するようになっています。 総務省指数(ある時点での商品バスケットでの物価;東大日次物価指数とともに税抜きベース)はそれなりに高止まりしているのに、売れ筋商品で重み付けしている東大日次物価指数は下落し、両者の差が拡大しているということは、消費者は価格志向を強めていることも分かります。
ではなぜアベノミクスは期待通りの効果をあげなくなってきているのでしょうか。
1.金融政策
アベノミクスでの金融政策では、日銀当座預金高を劇的に増加させることで、株高及び円安が起き、これらが民間に波及すると考えられています。
まず株価の状況を見てみましょう。 図表2は日経平均株価を半年前の株価と比較したものです。
アベノミクスの株価への影響は昨年4月にピークアウトしている
図表2 株価の変化
日経平均株価の月末値を半年前と比較。 縦軸=ポイント。
アベノミクスが発表されるや、安倍内閣が発足する前から株価はウナギ登りに上昇しました。
ただ、昨年春に公的資金と思われる方面から売り浴びせを受け、株価は調整し、その後現在まで小康状態です。
売買手口は昨年春とは打って変わって、現在は公的資金が大きく買い超しています。
それでもようやく半年前と同等の株価ですから今から買いに行く向きとしては利益を残すのは難しいかも知れません。
ドル円相場は米国の景気回復もあり、米国金融緩和縮小期待から円安傾向が続いています。
ただ昨今の日本では、円安になっても主に通信機器などの貿易赤字が大きくなっていて、円安→輸出増→国内雇用増加といった過去のパターンは当てはまらないようです。*1
2.財政政策
アベノミクスでの財政政策の目玉は国土強靭化計画だったでしょう。
自民党国土強靭化総合調査会では、「今後10 年間で総額200 兆円規模のインフラ投資が必要だとの提言を発表し、『国土強靭化基本法案』ではそのための具体的な投資対象を例示した」としています。*2
しかし、国土強靱化政策大綱をみても、10年間で200兆円という数字は消えています。*3
ちなみに、今年度の歳出内訳を見ると、公共事業関係費が前年度比0.6兆円増えたことになっています。
ところが、そのうちの大半を占める0.5兆円は特別会計からの付替えです。
要するに名目を変えただけで、実質的には公共投資は前年度比で殆ど増えない予算となっているのです。
では財政政策全体の指標として、名目GDPに対する公的支出比率の増減をみてみましょう。(図表3)
アベノミクス「機動的な財政支出」は名ばかり
図表3 GDPに対する公的支出比率の増減
出所:内閣府SNA 名目GDP季節調整系列
四半期GDPを前年同期と比較した差。縦軸=ポイント
アベノミクスが始まったのち、公的支出は年0.5%程度の増加。
金額で言えば2.5兆円。
アベノミクスが始まった後では公的支出は増えていますが、その伸びは社会保障費の自然増で大半が説明出来る程度で、国土強靭化計画10年で200兆と謳われた触れ込みとは大差があります。
一方、安倍内閣が決断した8%への消費税増税の方は、年金保険料増額などとも相俟って年間8兆円規模で民間マネーを政府に吸い上げているとされています 消費税3%は実質2%程度国民の可処分所得を押し下げますので、民間マネー吸い上げの大半は消費税増税の効果といえるでしょう。
これらを併せて描けば、国民は冒頭に描いたスキームのようになるでしょう。
もはやアベノミクスは消費税増税を経て既に変質して、デフレ脱却策どころかデフレ深化策に堕ちたとみて良いのではないでしょうか。
今年暮れには消費税10%への増税が再び決断され兼ねない状況ですが、安部首相自身アベノミクスが既に相当な緊縮財政に変質していることに気がついていないとすれば、安倍政権の今後は危ういと言わざるをえないでしょう。