日銀緩和と農水天下り団体の力比べ?
今日の市場は、黒田東彦日銀総裁の衆議院財務金融委員会での「さらなる円安はありそうにない」との発言を受け、円高株安の黒田逆バズーカショックに見舞われました。
今のところ黒田総裁の発言の真意は分かりませんが、一部では金融緩和による円安政策を米国が嫌っていて、その意を受けた発言という解釈や、最近の物価上昇傾向を踏まえて、出口戦略を意識したものという解釈もなされているようです。
確かに速報性の高い東大日次物価指数でも直近では0.75%の上昇(6月8日時点)とアベノミクス開始以来最高の物価水準を記録しています。
これをみる限り、黒田総裁がそう遠くない将来の出口戦略に向けた布石を打ち始めた、という解釈が有力のようにも思えます。
ただ東大物価指数の内訳も見てみると、また別の解釈があることが分かります。
図表1は東大物価指数プロジェクトで公表されている品目別の物価寄与度から作成したものです。
図表1 東大品目別月次物価指数
出所: 東大物価指数プロジェクトウェブサイト
品目別物価寄与度を、全215品目中で乳製品9品目とその他に分けて表示。
直近の東大月次物価(5月)は、+0.21%の上昇となっています。
ところがその内訳は乳製品9品目で+0.24%で、その他206品目は-0.02%とマイナス圏です。 最近のスーパーなどでは物価上昇のほぼ全てが乳製品の上昇によるものなんですね。
乳製品だけがなぜ上がっているのかについては最近いくつかの解説記事が出されています。
乳製品について、品不足は主にバターだけで、その他の品目は特に不足していないという情報もあります。
バターの品不足の理由については、農水省天下り団体「農畜産業振興機構」によるバター輸入独占業務にあるという解説もあります。 *1
それによれば、通常の乳製品なら民間業者が海外製品を輸入すれば供給が増えるのに、バターについては天下り団体が独占輸入のペーパーワークだけで、毎年10億円以上の収入を得て、2億円近くある同機構の役員報酬の原資になっているのだとか。
仮にそうであれば、他の乳製品の値上がりは便乗値上げの結果ということになりますね。
それはともかく、最近の物価上昇がこうした原因によるものであるならば、遅かれ早かれ利権団体が不足製品の輸入を再開することで、需給が緩んで物価上昇も止むでしょう。 東大物価指数プロジェクトの渡辺努先生も現在の指数上昇は一時的という見方をされているようです。
スーパーで販売される製品の大半の価格は上がっておらず、また最近発表された5月の卸売物価指数はマイナス2%と、インフレ転換には程遠い状況に思えます。
日銀が2%物価目標の下、マネタリーベースを2倍の300兆円に増やす金融緩和を実施したことによる物価上昇効果は、もしかすると農水省天下り団体の役員報酬を得るためのペーパーワークの副次的効果に劣っているのかも知れません。
冒頭書いた通り、黒田総裁の発言の真意はわからないのですが、現在のアベノミクスが金融緩和+緊縮財政(前年比8兆円)で、その金融緩和については日銀は円安はもはや狙っていないとすれば、アベノミクス全体として、一体どうやってインフレ転換を図ろうとしているのか、首を傾げざるを得ません。