シェイブテイル日記2

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四半世紀に渡る経済政策の誤ちがわかる1枚の図

最近ピケティ本ブームで、高所得者低所得者の所得格差が話題を集めています。
ただ、そこにもうひとつデータを追加してみると、日本では政府が大きな政策の誤りを犯していることが見えてきます。

早速ですが図1をご覧ください。
この図で折線グラフは平均年収が高位10%グループの平均年収と残りの低位90%グループの平均年収推移を2010年水準を基準に実質化して示したものです。 
それに加えて、棒グラフで日本全体の実質GDPの推移を示しています。


図1 日本での高位10%・低位90%平均年収とGDP推移
出所:年収=The World Top Incomes Database、GDP=IMF
年収・GDPともに2010年を基準に実質化している。
高位10%の人たちの年収は同じグラフに収めるために、
1/4にスケールダウンして描いた。
殆どの期間で実質GDPは伸び続けているにもかかわらず、
所得高位10%グループの所得はバブル崩壊以降足踏みを続け、
所得低位90%グループの2010年所得はピークだった1992年の2/3の水準。

このグラフをみると日本の実質GDPはそれなりに伸びてきているのに、1990年ころのバブル崩壊後、低位90%グループの年収は一貫して減り続けていることがわかります。 ちょっと不思議なのは、実質GDPの伸びに、高位10%グループの年収さえも追いついておらず、足踏みを続けていることです。 

GDPを分配面から見れば、
GDP ≡ 家計の収入 + 企業の収入 + 政府の収入
ですから、実質GDPが伸びているのに、家計(高位10%+低位90%)の所得は減っているということはバブル崩壊以降、家計、とりわけ低位90%の人々の年収が、自然人ではない企業法人と政府とに吸い上げられているということなのでしょう。

低位90%グループの2010年時点での実質所得水準はピークだった92年の2/3にまで落ち込んでいます。

日本よりも経済格差が大きいといわれる米国でも同様の図を描いてみました。

図2 米国での高位10%・低位90%平均年収とGDP推移
出所:図1に同じ。

米国の場合、確かに所得上位グループと下位グループでの差は大きく、またそれが広がりつつありますが、所得上位グループでは国全体のGDPの伸びとほぼ同様に所得が伸びており、低位グループでもリーマン・ショックからは多少水準が落ちたものの、2010年での所得水準はピーク時(2002年)の9割を維持しています。

日本では、バブル崩壊後、バランスシートが不良債権で傷んだ金融機関を救済するなどにより政府債務が増えたということで、1995年には武村蔵相(当時)により財政危機宣言が出され、1997年には消費税増税が断行されました。

今から見ればそもそも1995年段階では政府債務は取り立てて言うほど多かったわけではありませんでしたが、消費税増税でデフレ化すると、債務を負えなくなった企業に代わって政府が債務を負わざるを得なくなり、政府債務は急増していきました。

政府債務の急増を目の当たりにしたその後の歴代政権のほとんどは緊縮財政を繰り返し、血が通った国民、特に所得低位90%グループの所得は落ち、その分が「人でなし」、つまり自然人ではない企業法人と政府に回るという構造が続いています。

図1の所得推移を更に過去に伸ばして描き直してみたのが図3です。

図3 日本での高位10%・低位90%平均年収長期推移
出所:図1,2に同じ

戦後長い間、バブル経済が始まるまでは、低位所得グループの所得は高位所得グループと全く同期するように伸びていました。 1970年代には「一億総中流時代」といわれたように、国民の多くはそれなりに幸福な経済生活を送ることができていました。

その後バブルが崩壊し、金融機関の傷んだバランスシートを補填することで政府債務残高は多少増えました。
それは今となっては取るに足らない程度の債務残高でしたが。

そして政府が財界・学者・マスコミと一体となって自らの債務残高を減らすことを国民経済より優先するようになってからは、国民の大多数の実質所得は減り続け、1970年代前半ころと同等にまで減らされているにもかかわらず、皮肉にも政府債務は政府の意図とは逆に急増しています。

政府も、もうそろそろ四半世紀に渡る政策の誤ちに気づき、大多数の国民の所得を伸ばすことこそが日本の経済問題の多くを解決する鍵と気がついても良い頃なのではないでしょうか。