シェイブテイル日記2

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日本が直面する緩慢な死と財政ファイナンス

1.避けられる過ちが引き起こす緩慢な死
昨日はブログでソロス氏の発言を取り上げましたが(最近のソロス氏発言からわかる日経新聞の読み方 - シェイブテイル日記 最近のソロス氏発言からわかる日経新聞の読み方 - シェイブテイル日記)、この発言には重要なキーワードが含まれているように思いました。
昨日取り上げたソロス氏インタビュー記事を、テレグラフ紙記事から再掲し、拙訳をつけました。

Soros: Europe faces 'slow death' Japan is trying to escape
George Soros, the billionaire investor, said Europe is adopting the same policies that led Japan into a quarter of a century of "slow death" that it is desperately trying to escape with "dangerous" new monetary expansion.

ソロス:欧州は日本が脱出しようとする「緩慢な死」に直面する
大富豪投資家、ジョージ・ソロスは、日本が現在「危険な」拡張的金融政策を採ってでも必死に脱出を試みている、25年間の緩慢な死に向かわせた政策を欧州が採ろうとしている、と述べた。

George Soros said: 'Slow death was self-inflicted in Japan and the austerity that is now prevailing in Europe is also self-inflicted.'
By Emily Gosden
ジョージ・ソロス:「緩慢な死は日本の自傷行為であり、また現在欧州に広がる緊縮政策もまた自傷行為だ。」

8:28AM BST 05 Apr 2013

"For 25 years Japan was dying a slow death and now they woke up," he told CNBC. "The fascinating thing is that in Europe the austerity programme is actually leading the eurozone into exactly the same policy that Japan is now trying to escape."
「この25年間、日本は緩慢に死につつあったが、現在は目覚めつつある。」と彼はCNBCに語った。「興味深いことに欧州では緊縮政策によって、欧州地域はまさに日本が現在脱出を試みている政策へと導かれつつある。」

"The slow death was self-inficted in Japan and the austerity that is now prevailing in Europe is also self-inflicted. The task of macroeconomics is to avoid avoidable mistakes and there are so many of them that it is very important to udnerstand it. The consequences for people's lives are very far-reaching."
「緩慢な死は日本の自傷行為であり、欧州に蔓延する緊縮政策もまた自傷行為だ。マクロ経済学の目的は、避け得る過ちを避けることであり、このことを理解することが非常に重要だ。マクロ経済運営が引き起こす結果は人々の生活に多大な影響を与える。」

He said examples of "avoidable mistakes" included "unused resources".

"If you have deleveraging and deflationary conditions then you have unemployment and also unused capital. People are afraid, they sit on their money and put their money in their mattresses instead of investing it," he said.

He argued that a way out of these conditions could be found by combining monetary - quantitative easing - and fiscal policy
彼は、「使われない資源」を含む「避けられる過ち」の例を示した。
「(欧州のような恐慌脱出過程での)デレバレッジや(日本のような)デフレ状態では、失業と使われない資本が増える。人々は恐れ、マネーは投資されず、タンス預金される。」
「このような状態は、金融政策(量的緩和)と財政政策の組合せで避けることができる。」と述べた。

2.緩慢な死と不換紙幣
 さて、ここからは筆者の見解です。

バブル崩壊などで企業や家計のバランスシートが毀損されれば、税収がへりますから国は国債等を発行して税収不足を補う必要が出てきます。
この時、中央銀行が手をこまねいていれば政府は国債を市中発行して、紙幣を市中から吸い上げざるを得ません。
紙幣の量が減れば、バランスシート不況は収まらず、そこで現代の欧州や橋本内閣時代の日本のように緊縮財政をおこなえば、ついにはデフレとなり、もはや従来型の金融政策で名目金利をゼロにしてもこの緩慢な死の状態からは抜けられなくなります。
そして経済は更に停滞し、国は更なる国債発行を余儀なくされる、というわけです。

ここで中央銀行が積極的に紙幣を市中に潤沢に供給するとすればどうでしょう。
現在の紙幣、不換紙幣は国等の債務をベースとして中央銀行が発行します。
この場合、市中からマネーを国が吸い上げることなく国債を発行することができ、市中にはマネーが純増します。
この状態、つまり財政政策と量的緩和政策こそ、上記の記事でソロス氏が緩慢な死を避ける処方箋としてあげた状態です。

ただ、国が発行する国債を全て中央銀行が買入れればどうなるでしょう。
これはいわゆる財政ファイナンス、と言われる状態で、仮にそれが常に可能であれば、無税国家が誕生します。
無尽蔵にマネーを刷っても、インフレも何も起こらないということは考えられないので恒常的な財政ファイナンスはやるべきではないわけですよね。

ところが、現在の日本や欧州の場合、市中には紙幣が不足しており、特に日本ではデフレ・ギャップがあり、それが埋まるまでは紙幣を中銀が市中に供給し続けてもインフレが起こることはあり得ません。
つまり、デフレが一種の使われない資源であり、デフレという資源がある間は、財政ファイナンスはやるべきであり、これにより長年患った日本の緩慢な死からも脱出でき、かつ新発債務は中銀が肩代わりし、デフレ脱却により好景気が訪れれば既発国債の削減により、国が積み上げた債務の純減も可能でしょう。

黒田日銀は今後、金融市場調節の操作目標を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更し、金融市場調節方針を「マネタリーベースが、年間約60〜70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」と発表しました。*1

これは市場を介すとは言うものの、国債総発行量の7割を日銀が引き受ける、ということですから、黒田総裁や政府が表面上は否定しても、実際はいわば7割方は財政ファイナンスです。

日銀による財政ファイナンスは通常のマイルドインフレ状態では禁じられるべきでしょうが、デフレ日本が緩慢な死から脱却する手段として考えるなら、2%のインフレ目標を達成するまでに限って推奨されるべきと考えます。

通常の経済状態では禁ずるべき経済政策も、緩慢な死という特殊な状態では推奨されるべき、というわけです。


日欧が直面する緩慢な死は避けられる過ちとするソロス氏(左)と黒田日銀総裁