狭義リフレ派は財政政策にも前向きか
リフレ派は金融政策に積極的であることは論を待ちません。
では、財政政策についてはどうなのでしょう。
シェイブテイル自身、デフレ脱却が是非とも必要とは考えています。
ただ、岩田規久男先生が「昭和恐慌の研究」で自らを規定しているように、”本書の執筆者たちは「インフレ目標+無制限の長期国債買いオペ」をリフレ政策と呼んでいる。”という意味では、「その」リフレ政策には諸手を挙げて賛成していません。
筆者としましては、デフレで民間に資金需要がないのにベースマネーを積み上げる意義は余りなく、それよりも、デフレ脱却の実績のある高橋是清の政策をできるだけなぞれば良いと思っています。*1
筆者のような考え方を広義リフレ派とするならば、「昭和恐慌の研究」を著した岩田規久男氏ら「昭和恐慌研究会」メンバーは狭義リフレ派と呼ぶべきでしょう。
シェイブテイルとしましてはデフレ脱却を巡るいろいろな立場の考え方を図表1のようなスキームで考えています。
図表1 デフレ脱却を巡る各陣営の位置づけ(シェイブテイル案)
アベノミクスは金融・財政に積極策を謳った初期アベノミクスから、
2度の消費税増税による緊縮財政を肯定する変質アベノミクスに
変化しているものと捉えた。
今朝(17日)、リフレ派で知られる矢野浩一先生から、ツイッターでこの図に対しレスをしていただきました。
8月17日付のご自身のブログには矢野先生案が載っています。
図表2は 矢野先生のブログからの転載です。
図表2 デフレ脱却を巡る各陣営の位置づけ(矢野浩一先生案)
出所:ハリ・セルダンになりたくて 2014-08-17 から転載
両方のスキームを見較べると、いくつか微妙な違いがあります。
なかでも興味深いのは、財金併用でなければデフレ脱却は困難ではないかと考えている人(広義リフレ派)は、狭義リフレ派をほぼ金融一本槍として捉えているのに対し、狭義リフレ派の方たち自身は、「財金併用が好ましいがどちらかと言えば金融優先」といったスタンスだと自己分析されていることです。
矢野先生の図で言えば、狭義リフレ派、初期アベノミクス、高橋財政は大差がないことになりますね。
仮にそうならば、狭義リフレ派、広義リフレ派などと敢えて線引する意味合いも薄れます。
ただ…。ネット界隈では、「やはり狭義リフレ派って財政政策は嫌っているの?」と思わざるを得ない言説にも遭遇します。
例えば、昭和恐慌研究会に属しておられる原田泰先生(早稲田大学)は…。
「ついに暴かれた公共事業の効果」(副題日本のGDPは公共投資が減っても増加している)でも、機動的な財政政策の効果は小さいと繰り返し主張されているようです。*2
ここでおっしゃるGDPとは実質GDPのことかと思います。
確かに原田説の通り、公共投資を減らしても日本の実質GDPは増えています。
ただ、デフレ日本での課題は、実質GDPではなく、名目GDPが世界中の他の国々とは異なり、1997年をピークに下降ないし底ばいを続けていることでしょう。
つまり実質GDPが増えているから良いではないか、というよりも名目GDPが減り、物価が継続的に下落しているから問題なのではないでしょうか。
試みに、物価(GDPデフレーター)と公共事業関係費とをプロットしてみても、無関係と斬って捨ててしまうことには首を傾げざるを得ないような関係性が窺えます。(図表3) *3
公共投資を減らすと物価も下がった
図表3 公共投資関係費と物価(GDPデフレーター)
出所:公共事業関係費=日本の財政関係資料(財務省)他、
GDPデフレーター=IMF WEO
同じ昭和恐慌研究会のメンバーでも、例えば若田部昌澄先生はその著書で増税での日本経済の落ち込みを強く懸念され、財政政策をするならば金融政策と同時にする必要があると財金併用の必要性を唱えている経済学者もいらっしゃるので、一概に「狭義リフレ派」と一括りにするのは誤りだとは分かっています。
ただ、狭義リフレ派の方々は「どちらかと言えば財政政策より金融政策優先」という点では共通しているのではないかと思えてなりません。
アベノミクスが始まって1年半余り。東大日次物価指数は今年4月以降下げ気味です。
狭義リフレ派の方々は今でも「どちらかと言えば財政政策より金融政策優先」のままで、デフレ脱却は可能と確信されているのでしょうか。
*1:より詳しくは アベノミクスと高橋財政を比較してみた - シェイブテイル日記 を御覧ください。
*2:『Voice』2014年6月号>
*3:この図を掲げたからといって、シェイブテイルは財政政策は公共事業に限るなどとは毛頭思っていません。必要な公共投資は削るべきではありませんが、今の日本でデフレ脱却するには供給制約のある公共事業よりも日銀マネーを財源として消費税を凍結する、あるいは巨額の給付金を国民全体に渡す方が優ると考えています。