シェイブテイル日記2

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「iPS細胞だって競争的研究資金」というビジョンのなさ

今日は普段と毛色の違う話題です。*1
先日、STAP細胞は存在しないことが報道されていました。
今年4月頃の段階ではSTAP細胞など存在しないことはほとんどの人が確信していたでしょう。 それを更に半年以上の時間を時間・ヒトをかけてやはり存在しなかったと。

一方、山中伸弥教授のiPS細胞は完全に本物で、世界中の医学・薬学分野の研究者から注目を浴びています。*2

ところが山中先生のiPS細胞関連研究でも携わる研究者の9割は競争的研究資金によるものだとか。

競争的研究資金というのは大雑把に言えば文科省が提供する研究費(科研費)で、競争的というのは、研究概要を提出させ、何年後にはこのような研究成果を出すという提案を相互に比較して、期待される成果が出そうな研究上位何割かだけに資金を提供するという方式です。

   本文と深い関係はありません
その競争的研究資金の中で、実験用資材の購入のほか、研究に携わる研究員の人件費も出すのですから、当然ながら有期の非正規雇用になってしまいます。

世界最先端のiPS細胞研究者の大半が、自分の数年後の雇用を心配をしながら研究しているのが日本、というわけですね。

一方、欧米でも一般的研究には競争的研究資金を使い、公平性を期すことは同じのようですが、ことiPS細胞については製薬会社と大学が協力して資金をプールし、難治性疾患向け医薬品や低毒性医薬品に対するスクリーニング(ふるい分け)細胞株をストックするなど、競争を抑制し、協力して研究を底上げする姿勢が見えています。*3

米国では大学でもiPS細胞研究には巨額の寄付金などで安定的に研究が継続される状況のようなのに、米国流の競争原理を取り入れた日本では、成果が出るのが当たり前のiPS細胞研究にさえ、終身雇用が保証されないという皮肉。

折角山中先生と弟子の高橋先生というゴールデンコンビが日本でiPS細胞を生んだのに、研究段階では日本は山中先生も競争者のひとり、欧米では産官学連携で研究の底上げを図るという対照的な状況。

 STAP細胞の大騒動と、つまらない嘘についての、長時間をかけたつまらない結論を報道で聞かされると、日本人というのは基本は優秀なのだろうが、マクロ経済の分野のみならず、先端研究の分野でも、全体像をつかむいわゆるビジョンのなさが目立つ気がします。

 個別の競争努力も無論重要でしょうが、そこからは離れて、意思決定者の近くで「全体は現在一体どうなっているんだろう」と考え、議論し、短期に結論を出して方向付けをするというプロセスがなければ、個々が一生懸命努力しても大した成果に結びつかないように思うのは私だけなのでしょうか。

*1:ということで全くの誤解があるかもしれませんがその際はご指摘をお願いします。

*2:このブログでもノーベル賞受賞決定後一度だけ7年前に聴取したiPS細胞研究初期の状況について触れたことがありました。2012-10-08 山中伸弥先生の5年前のお話 - シェイブテイル日記 山中伸弥先生の5年前のお話 - シェイブテイル日記

*3:報道によれば、この取組は製薬会社ロシュが開始して日本以外の大手製薬企業が参画し、現在はオックスフォード大学で各種幹細胞を管理するプロジェクトとなっているとのことです。