シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

安倍首相が犯しつつある大きな誤ち

今回の衆議院選挙では安倍首相はアベノミクスとともに、消費税増税の延期を掲げ、「景気回復、この道しかない」と選挙で訴え圧勝しました。

しかし、シェイブテイルとしては前回衆議院選挙のような「これで日本もデフレから脱却できる!」という高揚感がありません。それはこのままでは日本経済は浮揚するどころか沈没しかねないという懸念が拭えないからです。

はっきり言って、日本経済の最大の問題は、政府債務問題ではありません。 実はあなたの収入が増えないことこそ最大の問題なのです。

今回の衆議院選挙で与党は2/3を超える議席を獲得する圧勝でした。
安倍首相は来年10月の消費税増税こそ延期しましたが、2017年4月には景気条項を外して実施すると約束しています。首相のこの方針は正しい方向なのでしょうか。

■政府債務と名目GDPの相関
早速ですが図表1を御覧ください。これは名目GDPと政府債務の経時的な変化を国際比較したものです。
日本は他国同様に政府債務は増えているが
他国とは全く異なり名目GDPが増えていない

(名目GDPとは国民の所得(≒賃金)のかたまり)
図表1 名目GDPと政府債務の経時変化
出所:IMF WEO Oct.2014
名目GDP・政府債務ともに各国の2001年名目GDP=100として正規化している。
このグラフでは原点と曲線上のある時点とを結んだ線の傾きが、政府債務健全性指標の
「政府債務対名目GDP比率」になっている。

図表1では日・米・英・独の名目GDPと政府債務の相関の動きを2001年名目GDP=100として正規化して示しました。日本のグラフで例示したように、原点とある時点での傾きが財政健全化指標である政府債務名目GDP比になります。 2013年の日本では245%です。

図をみると、日本の政府債務は確かに毎年のように増加しています。

ただ他国との重要な違いは、日本以外の国では名目GDPが殆ど単調増加しているのに、日本ではバブル崩壊した1991年から明らかに増加が鈍化し、3→5%の消費税増税を実施した1997年以降は経済がデフレ化して、97年の名目GDPを17年経った今でも超えることがなくなりました。

実はこれほどの長期間、名目GDPが伸びていない国など日本以外にはないのです。*1

日本以外の国々では、名目GDPと並行して政府債務も伸びています。その結果、政府債務対名目GDP比率は分子分母がほぼ並行して増大することで、一定値付近で安定しています。 

これらの国々では、政府債務健全性指標が安定しているからといって、安倍首相が思い描くような、「経済成長して名目GDPが増えながら、政府債務が純減」などといった状態ではありません。*2

では日本の政府債務増加と名目GDPの停滞は何が原因なのでしょうか。

■名目GDPと税収の比例関係
図表2-1から2-3は、日本の名目GDPと税収の関係をみたものです。
図表2-1は日本経済が順調に成長していた1985−91年、図表2-2はデフレ経済に陥った1997−2010年、図表2-3はアベノミクスの前後、2011−13年における両者の関係です。 表示は税収弾性値もみるために、両者自然対数をとり、「対数変換による回帰分析」ができるようにしています。

税収は名目GDPと比例関係にある



図表2 名目GDPと税収の関係(自然対数表示)
出所:名目GDP=内閣府GDP統計、税収=財務省ウェブサイト
図は順に1985−91年(図表2-1)、1997−2010年(図表2-2)、2011−13年(図表2-3)。
それぞれの図の近似直線の傾きはいわゆる「税収弾性値」を示している。

 図で分かるように、大きく経済状況が変わらない場合、税収は名目GDPと比例関係にあります。*3
この間、景気変動があったり、多少の税制が変わったりという程度ではこの安定的な関係は崩れません。
ところが、マイルドインフレ(図表2-1)とデフレ(図表2-2、2-3)では比例関係であることは変わりませんが、傾き、つまり税収弾性値が大きく変化しており、マイルドインフレ期は1程度であるのに、現在のようなデフレ期では3近い値となります。

つまりデフレ期には名目GDPが増えれば、大きく税収は伸び、減れば大きく税収が落ち込む、というわけです。

ところが、消費税は、消費そのものに課徴金をかけてしまっており、特に1997年の橋本増税の時以降、日本は名目GDPが伸びないデフレとなりました。 

その後確かに消費税増税で消費税収自身は増えたのですが、それは政府が喧伝するように社会保障費に使われているというのは事実とは異なります。 

■消費税の現実の使われ方
図表3は日経新聞(2014-12-08)に掲載された伊藤周平・鹿児島大学教授の示したグラフです。

消費税の真の使途は法人税減収の穴埋め
だった


図表3 消費税税収と法人税減収額
出所:日経新聞朝刊(2014-12-08) 経済教室 
伊藤周平・鹿児島大学教授

これをみると、消費税が創設されて以来現在に至るまで、確かに消費税税収は増えましたが、実はそれとほぼ同額が法人税税収減で消えています。

国民生活を脅かし、多数の自殺者や失業者を出している消費税は、名目GDP削減を介し、自ら減らしている法人税税収減の穴埋めだけに使われている、といっても過言ではない状態です。

 消費税というものは、直接消費や投資に課徴金を課すのですから、企業の売上は減ってしまいます。
その結果、雇用者所得も減らさざるを得ませんから、所得税税収も減り、図表3のように、消費税税収増≒法人税税収減なら、結局トータルでは消費税の税率を上げても主要3税(法人・所得・消費)の総税収は減る結果となっています。

 要するに消費税は、実のところは財政再建の役にも立たず、社会保障財源ともならず、我々の所得のかたまりとも言える名目GDPを減らし、総税収も減らすという、何とも有害無益な税なのです。

 図表1で示したような、「名目GDP停滞と政府債務膨張の併存」という現代日本経済の病巣とは、
消費税→名目GDP削減→デフレ化・歳入削減→歳入不足を政府債務で補填という負のスパイラルが回ってる ことだと考えられます。

■どうすれば日本経済は好転するのか
こうみてきますと、日本経済の課題は政府債務絶対額の問題というよりも、国民の所得のかたまりと言える名目GDPを懲罰的に減らしている日本の消費税が諸悪の根源と言えそうです。

そうであれば、答えは簡単で、消費税をゼロ%に、あるいは執行停止にすれば、それは強力な財政政策であり、日銀の金融緩和と相まって、国民の所得向上、内需拡大所得税法人税収増大、デフレ脱却といった効果が期待できそうです。

安倍首相は金融緩和・積極財政・成長戦略を謳ったアベノミクスを始めたものの、実際に効果的だったのは黒田日銀による金融緩和のみであり、安倍首相自身が最終決定してしまった消費税8%増税により、今年は名目GDP・実質GDPとも記録的な落ち込みとなり、またインフレ率も4月以降低下しはじめています。

安倍首相に早くこうした事実に気づいてもらえれば、2017年の消費税再増税などといった馬鹿げた政策は止めて、逆に諸悪の根源、消費税の全廃などの本来採るべき政策への転換により、日本の将来ははっきり明るいものになるでしょう。


[更に詳しく]
図表1では先進国での財政健全性指標をみましたが、日本と「成長の中国」、「緊縮のギリシャ」の財政健全性指標を比較してみてました。
日・中・ギリシャの財政健全性指標 - シェイブテイル日記 日・中・ギリシャの財政健全性指標 - シェイブテイル日記

政府の財政支出方針が大きく異る日本と中国とギリシャ。 
●各国2001年の名目GDPと比較して、これらの3国の中で2009年以降最も政府債務の増え方が大きかったのはどこでしょうか。 *4
●逆に政府債務の伸びが最も小さかった国は3国中どこで、その国では財政健全性指標は2009年以降改善したでしょうか、悪化したでしょうか。*5

*1:ここ数年は、日本同様の緊縮財政を強いられているギリシャで日本同様の名目GDP減少が見られています。ギリシャの日本化というわけです。

*2:ただし世界を広くみれば資源国では元々政府債務がないケースもあります。 また普通の国でも瞬間風速的に、政府債務自身が減ることはありますが、それはバブル期などで、逆に危機の予兆であることも少なくありません。

*3:これらグラフは自然対数表示ですが、比例関係にあるという意味では通常表示でも同様です。

*4:答え:中国

*5:答え:ギリシャ。財政健全性指標は2009年以降4割悪化。ギリシャは2009年以降緊縮財政を継続しており政府債務伸びは最も小さいのに、財政健全性指標の方は悪化が指摘される日本の2割悪化より悪い。ちなみに2009年、4兆元(54兆円)の財政政策を実施し、政府債務の増え方が経済規模比で最大だった中国は財政健全性指標は1割悪化にとどまっている。