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文字起こし:変質アベノミクスを畑浩治議員が糾す

衆議院予算委員会で、生活の党・畑浩治議員が消費税後のアベノミクスについて的を射た質問をしました。
畑浩治氏は*1 元民主党でしたが、野田佳彦元首相が強硬に進める消費税増税などを含む社会保障・税一体改革関連法案の提出を表明した際には、法案の内容を批判し、衆議院本会議における社会保障・税一体改革関連法案の採決では、反対票を投じたため除籍され、現在は生活の党に移っています。

開会日 :2014年10月30日 (木) 会議名 :衆議院予算委員会

以下は文字起こしです。

畑浩治(生活の党)  
 消費税増税後の景気の落ち込みは1000年に一度と言われる東日本大震災直後以下だが、想定範囲内だったのか。想定内というのであればどういう想定をしていたのか。
ここを明らかにしないと10%への増税への検討は不十分。

(甘利経済再生担当大臣) 
 政府として公式に想定内かどうかを言ったことはなく、民間の予測ではこうなっていると伝えただけだ。 民間は駆け込み需要も想定外であり、従って反動減も想定外となったとしている。当初は想定内だったが、改定値が出て、(4-6月期は)GDP年率換算マイナス7.1%の想定外となった。

(畑)
 私は想定外だったと考える。平成24年1月24日内閣府発表の成長戦略シナリオを見ていると、2013年−16年では、増税ありでGDP成長率が+7.6%、増税なしで+7.7%と4年間での成長率がわずか0.1%の差となっている。*2
これを見ると私は大変な想定外だと思う。
昨年補正予算を組む時には財務省は「消費税には反動減が見込まれる。これを上回る5兆円の補正予算を組む」ということで、これにより消費税引き上げによる影響を緩和すると。だがむしろ悪くなっている。
増税後の可処分所得が戻るのかどうかがポイント。実質賃金が好転する目処はいつか。

(甘利)
企業業績の回復から、賃金は名目総額→個人の名目→実質総額→個人の実質と波及していくと捉えている。
個人の名目は上ったので今後は実質が上がる。

(畑)
本当に名目が上がり、実質が上がるというトレンドができているのか?
このグラフのように、名目賃金と実質賃金はワニの口のように開いてきているが。

・日銀の金融緩和で、マネタリーベースの増加に伴いマネーストックがそれほど増えているかどうか。2013.03MB 135兆円、MS834兆円 2014.09 MB246兆円(+111兆円、+80%)、MS 877兆円(+43兆円、5%)。 MBが伸びればその数倍MSが伸びると教科書には書いてあるが、そうはなっていない。かつての2001−06年の金融緩和でもMB65.7兆円→109.2兆円、MS635兆円→706兆円と、MSが伸びないという批判があったこの時でもMSの伸び率は今より高い。

(黒田日銀総裁)
銀行貸出がマイナスからプラスになる中、MSの伸びが緩やかというのはその通り。ただ大量のMBの供給で実質金利押し下げ、リスクプレミアム低減を通じて銀行が貸し出しやすい環境を提供している。
MBの伸びほどMSが伸びないのは企業の手元資金が潤沢で、設備投資に自己資金を充てている。

(畑)
総裁は企業は金余りと言う。カネを借りられる環境を作っても借りる動機があるのかどうか。そもそも資金需要がない中で量的質的緩和をするからこのようになる。
金融緩和は否定しないが手順が間違っていないか。バーナンキFRB議長も退任直前に量的緩和の効果は理論的に証明されていないと言ったという。

実質賃金が下がり、ある程度の円安は否定しないが、光熱費は上がり最近では貿易収支だけでなく、経常収支までも赤字化。(慢性円高で)海外での直接生産が増えた今、円安を進めても収益が上がってこない。アベノミクスは副作用のほうが強く出ているのでは。輸入している食料・エネルギーなどは価格弾力性がなく、高くても買わざるをえない。

(安部首相)
15年間起きなかったインフレ予想が生じているのは事実。名目賃金・実質賃金の差が開いているのは消費税の影響があるだろう。実質賃金も上がるべく企業にも協力いただき15年ぶりの名目賃金の伸びとなった。実質賃金は新規に職に就く短時間労働者もいるために平均値は下がった。敢えて実質賃金でみた時消費税の影響を除くと賃金は増えつつある(マイナス幅の縮小)。消費税の影響を除いた総雇用者賃金は4,5月マイナスだが6月以降プラス。消費税の影響を除けば我々が目標としている方向に向かっているのではないか。

畑浩治議員の論点の確かさに対して、回答する経済閣僚らの回答はあやふやです。
特に一人当り名目賃金は上っても、実質賃金は却って下がり、ワニの口*3が開いてきていることは重要な指摘です。

それにしても、野田民主党などが消費増税を三党合意する時にこれを後押しした、内閣府モデル結果では消費税を上げても上げなくても経済成長率は4年間でわずか0.1%の差、というのはモデルのインチキさと、内閣府官僚らの国民をなめた態度がよく現れています。

そして、安倍首相は消費税増税さえなければアベノミクスは今既に成功していたであろうという点を訴えています。
11月には再び消費税増税是非を巡る集中点検会合があり、官僚が選択した出席者の大半は消費税賛成派です。昨年も同じく出席したメンバーでは明確な反対は数名でしょう。

ただ、アベノミクスに対する消費増税の効果は8%でも破壊的でした。「有識者」たちが何を言おうが安倍首相は10%増税中断を決めるとともに、8%増税で来年更に落ち込むであろう日本経済の手当を急ぐべきです。*4

さもなければ安倍首相はアベノミクスでわずか1年の成功をみたものの、結局は自らの内閣と同時に日本経済を破壊した首相として日本政治史に記憶されることになるでしょう。

蛇足ですが、畑議員は今年の税収は下がっているか、と麻生財務大臣に質しましたが、今年の税収はさすがに増えそうです。
前回消費税増税後の推移を見ると、次の記事のグラフで見られるように増税翌年から増税前水準を下回るようになりそうです。
消費税・世論調査と税収の推移 - シェイブテイル日記 消費税・世論調査と税収の推移 - シェイブテイル日記

*1:wikipediaより
•1987年 - 建設省に入省。
• 2004年 - 独立行政法人都市再生機構営業推進室チームリーダー
• 2005年 - 国土交通省退職。
• 2005年 - 第44回衆議院議員総選挙に岩手2区から民主党公認で出馬するが、自民党鈴木俊一に約2万票差で敗れ落選。比例東北ブロック次点で、比例復活もならず落選。
• 2009年 - 第45回衆議院議員総選挙では前回敗れた鈴木を破り、初当選。国土交通委員会理事、内閣委員会委員、東日本大震災復興特別委員会理事、党幹事長補佐(政策担当)、党仮設住宅等生活支援対策チーム事務局次長、党岩手県連副代表等を歴任。
• 2012年 -
o 6月、内閣総理大臣野田佳彦が消費税増税などを含む社会保障・税一体改革関連法案の提出を表明した際には、法案の内容を批判した。衆議院本会議における社会保障・税一体改革関連法案の採決では、反対票を投じた。
o 7月2日に民主党へ離党届を提出したが、受理されずに9日に除籍処分が確定[1]。
o 7月11日に国民の生活が第一に参加。

*2:http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h24chuuchouki.pdf のp12下図。この試算は、経済・財政・社会保障を一体的にモデル化し内閣府の計量モデル(「経済財政モデル」)を基礎としている、とされている。

*3:歳入・歳出差について、財務省が消費税の必要性を説くのに使ったキャッチフレーズでしたね。

*4:前回消費税増税時も悪影響がはっきりしてデフレ転換したのは、最初の納税の春を超えた翌年だった。