経済面からみた週刊文春終了のお知らせ
新聞広告の、週刊文春の今週号(12月6日号)「こいつだけは落としたい!『安倍総理じゃだめだ』大合唱」というタイトルを見て、安倍総裁のどこが問題視されているのか知りたくて、早速週刊文春を買って読んでみました。
文春が問題視する部分を見てみましょう。
主婦・年金生活者直撃安倍不況がやってくる
「安倍氏の経済政策に関する発言には、二つの問題があります。 まず言うとおりインフレターゲットが達成できるのか。 仮に達成できたとしても日本経済が壊滅的打撃を受ける。どちらにせよ、この経済政策が”安倍総理”の致命傷になるでしょう」(大手銀行アナリスト)
この大手銀行アナリストが一体誰で、何を根拠にインフレターゲットを達成すると日本経済が壊滅的打撃を受けるというのか、何も書かれていません。 まぁ、それは置いておくとして次を見てみましょう。
そもそもエコノミストやアナリストの間では今の日本で2−3%のインフレを起こすことは相当難しいとの見方が大勢だがそれを達成できた場合日本に何が起きるのか。
これを書いている記者は、日本が先進国唯一のデフレ国で、他の殆どの先進国では2−3%のインフレ率を何の問題もなく中期的に達成していることはご存知無いようです。
慶大大学院准教授の小幡績氏はこうシミュレーションする。
「投資家は現金をインフレに強い不動産や株式に移すので地価や株式が上昇する「資産インフレ」が起こります。 例えば持ち家の人はウハウハでしょうが、賃貸の人は大変で、貧富の差が拡大するでしょう。」
小幡績氏については、ウィキペディアに記載された以上のことは知りませんが、量的緩和については、「量的緩和をして儲けるのは投資家だけで、実体経済に影響はない。日銀が直接コントロールできるのは、超短期金利のみ。」という発言から、財務省が泣いて喜ぶ御用学者のお一人のようです。
更に文春は続けます。
経済ジャーナリストの荻原博子氏はインフレの怖さをこう指摘する。
「インフレは物価と同じように賃金も上がらなければ増税と一緒です。 ただ、国際競争が激しい経済情勢で物価と同じように賃金があげられるかといえばかなり難しいでしょう。年金も物価と同じようには上がりません。 派遣で働く人たちや年金生活者は大きな打撃を受けます。」
って、荻原博子氏は、マクロ経済の専門家ではなく、『荻原博子の節約 家計仕分け人』、『荻原博子のしあわせおサイフ救助隊』などのTVに出演する家計評論家では? 家計の節約を論じる人にマクロ経済を聞きに行く文春記者のセンスが凄いです。
更に畳み掛けるように、
(荻原博子は)「デフレが続く日本でインフレはイメージしにくいが、安倍氏の唱える2−3%のインフレに近い状態になったのが、2008年6月頃だった。この時消費者物価指数は前年同月比で1.9%騰がり、食料品が高騰、スパゲティが3割、鶏肉が1割上昇した。企業は内容量を減らすなどで対応し、消費者の購買意欲は大きく落ち込んだ。インフレは主婦にとっても厳しいのだ。これまでは円高で輸入物資が安く入ってきて生活が助かっていた面があります。 アメリカでは56年ぶりの干ばつで、小麦や大豆など穀物の値段が騰がっている。 円安になれば当然更に高くなります。
まるで、近所のおばちゃんの井戸端会議を聞かされているようです。 傍らの人間が、コストプッシュインフレとデマンドプルインフレがどう違うか、なんて言っても無駄のようです。
そして真打登場です。
『デフレの正体』の著者で、日本総研主席研究員の藻谷浩介氏も円安は手放しで喜べないと指摘する。
「安倍さんには経済の実態が見えていない。今日本の貿易収支は赤字ですが、原因は円高による輸出減ではなく、原油・ガス価格の上昇による輸入増です。 円安になればこの赤字が拡大します。 また過度の金融緩和で国債金利が上がれば、国債の価格が下がり銀行や年金基金大幅な評価損を抱えます。 国債や年金、更には政府財政の破綻へとつながる政策を自民党総裁が主張しているのです。日本のメルトダウンも極まったと感じました。
藻谷浩介氏といえば、デフレの正体は人口減少か でもご紹介しましたように、日本のデフレは人口減少だという説を唱えている方です。 『デフレの正体』では、日本より大幅な人口減少に直面しているウクライナ*1や、ベラルーシなどの人口減少国家でのインフレについては説明されていませんし、日本同様の高齢化社会のイタリアなども安定的にインフレであることへの言及もありません。 世の中で一般的に賛同者がいる学説を唱えている方ではありません。
こうして書いていてもだんだん脱力してきました。
たかが週刊誌、といってしまえば身も蓋もありませんが、せっかく記者クラブなどのシガラミがなく世間に自説を訴えることができる週刊誌の立場でありながら、全くの不勉強から奇妙奇天烈な安倍批判を繰り広げる週刊文春は、少なくとも経済的な観点からは「オワッた」としか言いようがありません。
マクロ経済は全くご存知ない週刊文春
どこが総力取材なんだか…。
*1:'94年の52百万人が'12年には45百万人に減少