シェイブテイル日記2

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リフレ派内の同床異夢

私シェイブテイルは、「日本経済活性化にはまずデフレ脱却が必要」といういわゆるリフレ派です。 ただ、ツイッターでのリフレ派同士の会話を見ていて思うことは、目的はデフレ脱却同士であっても、それを実現する手段として想定していることにはかなりの幅があることです。

デフレ脱却に、主に量的緩和策など金融政策を手段と考える人たちを仮に金融政策派としましょう。 また、主に国債発行により、公共事業や定額給付金・減税などの財政政策を考える人たちを財政政策派としましょう。そして中央銀行から政府が借りた資金を使って直接財政政策をやるべきという考えをヘリマネ派と呼ぶことにしましょう。そしてこれら三つの主張を比較してみました。*1

1. 金融政策派の主張
金融政策派は、量的緩和策など日銀が金融部門にマネーを潤沢に提供することで、金融部門から非金融部門への貸し出しが活発化し、デフレを脱却することを期待しています。 インフレ・デフレは貨幣的現象と捉えられていますから、この金融政策派はいちいち有名な経済学者の名前を挙げるまでもなく、リフレ派内の主流派ではないでしょうか。
ただ、15年以上デフレが続く日本においてはデフレ期待が極めて強いため、実質金利が高い上に投資の期待収益率が低くなりがちという点をどう解決するかという問題があるかもしれません。 実際、2001年から2006年まで日銀が量的緩和策を続けてもデフレ脱却はできていません。 これが日銀の振りまくデフレ期待のなせる業なのか、金融政策だけではデフレ脱却は困難なのかは意見が別れるところでしょう。

2. 財政政策派の主張
財政政策派は、国債新規発行(市中消化)で政府が得たマネーで、公共事業や定額給付金・減税などの財政政策を行うことで、政府から直接民間非金融部門にマネーを提供してデフレを脱却しようとするものです。有名なところではクルーグマンがこの中に入るでしょう。財政政策の場合、金融政策とは異なり民間に直接マネーを提供する点では実質金利が高いことは問題となりません。ただ、金融政策を伴わない財政政策は、いわゆるマンデルフレミング効果 *2により、金融政策より効果が劣る、とも言われています。

3. ヘリマネ派の主張ヘリマネ派は政府が国債を直接日銀に引き受けてもらい、それで得たマネーを財政政策に投じてデフレを脱却しようとするものです。例えば2003年にバーナンキは「デフレ克服のためにはヘリコプターからお札をばらまけばよい」とし、「ヘリコプター・ベン」と仇名をつけられました。また、2001年3月からの日銀の量的金融緩和政策は中途半端であり、物価がデフレ前の水準に戻るまでお札を刷り続け、さらに日銀が国債を大量に買い上げ、減税財源を引き受けるべきだとしました。
 同様にポール・サミュエルソンも「新たな全面的な減税政策を実施するように提案する。 今後も継続して行われる公共投資は、日銀が新たに増刷する円によって行われるべきだ」、としています。 ただ、FRB議長となってからのバーナンキはヘリマネ政策の主張を弱めているようにも見えます。

 ヘリマネ派の主張の最大の弱点は、政府から国債を直接引き受ける結果、金利が急騰してしまう、という懸念がある点でしょう。 日銀の白川総裁も盛んに日本円の信任を守ることが日銀の仕事と言っています。
 ただ、80年前の日本で高橋是清がヘリマネ政策を実行しようとした時、それをアナウンスした時点でインフレ転換し始め、国債金利も上がらなかったという史実はあります。 また日銀が懸念するように、政府が発行する国債を無制限に引き受けさせられ、日銀のバランスシートが痛むのを避けるには、2003年時点でバーナンキ理事が示唆したように、引き受けさせた国債を簿価で買い戻す条項をつけるという手段もありそうです。

 最後にシェイブテイルの意見を書かせてもらうと、デフレ下で金融政策としての量的緩和も、財政政策としての公共事業も十分にやったはずなのに、日本のGDPデフレータはほぼマイナス1%で安定していたことから、金融政策と財政政策はそれぞれを偏って実施してもデフレは脱却できないことは実証済みかと思います。 ただ、いわゆる金融政策と財政政策とを同時に同規模実施することは、ヘリマネ政策と同様にデフレ脱却に有効であるように思います。 そうした意味での金融政策と財政政策の同時実施は、「ポリシーミックス」という言葉のイメージから考えられるような、「足して二で割った効果」というよりも、両者の欠点を相補的に補う良策かと思います。
ヘリマネ政策もしくは上記の迂回ヘリマネ政策がデフレ日本で採るべき政策に思えますが、他のリフレ派の方はどうお考えでしょうか。

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*1:注:これら以外に名目成長率何%とするといった期待形成派というのも当然有力に思えますが、これは他の金融財政政策と併せて使えるので、今回政策選択肢としては挙げていません。また日銀券ルールがあるのでデフレ脱却が困難という主張も正しいとは思えますが、ルール撤廃自身により即デフレ脱却という主張ではないとおもいますので、これも政策選択肢には加えていません。

*2:財政拡張すると金利が上昇し、開放経済では金利上昇により為替が上昇して輸出減少を通じてGDP増加を相殺するという説