かなり株高円安となる理由(2)
(前回エントリーかなり株高円安となる理由(1)からつづく)
前回エントリーの続きです。 なぜ2009年の菅直人副首相(当時)によるデフレ宣言、そして日銀による臨時政策決定会合での金融緩和よりも、今回は更に株高円安が強まる可能性があると考えられるのか。
筆者のゲスの勘繰りも交えて考察します。
1)税金上げたい財務省
財務省は言うまでもなく増税したくてしょうがありません。消費税増税、これで日本経済が潰れようが知ったことではないという態度です。 それは次の恒等不等式が成立していることを意味します。
2)デフレで痛痒感じない日銀
この30年来の日銀の金融政策を振り返ってみましょう。
1985年のプラザ合意後、日本政府は米国に言われるがままに意図的に円高としました。その後、円高不況が亢進すると、その影響を緩和するためとして、必要以上の長期に亘って超低金利政策を打ち出し、バブル経済を引き起こしました(澄田総裁時代)。 そのバブル経済が批判の的となると、今度は一転して過剰かつ長期に亘って高金利政策を採りバブルを潰すどころか、日本経済を不況のどん底に叩きこみました(三重野総裁時代)。つづく松下総裁は更なる不良債権の累増と、デフレ経済への突入を許しまい、その挙句、大蔵省(当時)・日本銀行のスキャンダルに見舞われました。その次の速水総裁は頑固一徹な性格でデフレ不況を良いデフレであるという認識の下、極めて消極的に金融政策を運営し、デフレ不況の長期化・深刻化を招きました。
速水総裁時代後半では、民間出身の中原政策審議会委員(当時)が金融緩和を主張したものの、速水総裁他他の政策審議会委員は全員がこれに反対していました。しかし、世論がデフレ放置の日銀に対し風当たりが強まるとついに金融緩和政策を始めています。*1
更にその次の福井総裁は金融緩和政策を引き継いだものの、わずかに景気が上向き、デフレ脱却ができそうになると金融緩和を止め再び日本経済をデフレに導きました。 そして白川総裁もまたデフレ目標を踏襲しています。
実質的にはバリバリの公務員である日銀幹部は、日本経済と乖離した高給を人事院勧告で保障され、デフレで何ら痛痒を感じていません。 日本の経済を浮揚させる義務もなければ、日銀法改悪以前のように財務省からの直接の影響も受けない状態となりました。
そしてそれよりも何よりも、日銀には面子があります。 日銀は呆れるほどの失政を重ねていますが、その失政を失政とは認めず、正しい政策として、次の失政を屋上屋に重ねています。
ここに次の恒等不等式が成立しています。
失政した歴代日銀首脳の面子>日本経済…(2)
3)日銀の誤算
さて、この状況に最近大きな変化が訪れました。
今年1月25日、米国FRBが長期的に個人消費支出(PCE)価格指数を2%とするインフレ目標政策を導入すると発表しました。 これは白川総裁にとって困った事態です。白川氏は「先進国でインフレ目標政策を採っているのはイギリス位で、欧州(大陸)でも米国でもインフレ目標は採っていない」と国会で答弁したことがあります。 実際には欧州ではECBがEU圏の物価水準を2%とするインフレ目標を採っていましたし、米国FRBも明示的ではないものの、2%のインフレ目標を置いていると見られる行動を採っていました。
ここでFRBが明示的に2%のインフレ目標を掲げるとなると「先進国でインフレ目標を採っていないのは日本ぐらい」という批判が巻き起こるのは眼に見えています。 2月14日、ついに日銀は実質1%のインフレ目標政策の導入に追い込まれました。
こうなってくると、速水総裁が良いデフレ論をぶっていたり、上方バイアスがあるCPI(消費者物価指数)で0%を狙っている(=デフレ目標)とHP上でも公言したり、デフレの真っ最中に金融緩和をこっそり止めたりといった歴代日銀首脳のトンデモ金融政策を擁護している余裕はなくなります。
あと数ヶ月待てば、日銀がいよいよ1%のインフレ目標に舵を切ったのか、なおかつしぶとく0%の物価を狙ったままかははっきりし、その時点でもデフレ目標に邁進しているようなら、白川総裁らに対する風当たりは今以上に厳しくなるでしょう。
そこで次の不等式が新たに現れます。
現役日銀首脳の面子>失政した歴代日銀首脳の面子…(3)
4) 財務省の誤算
増税一本槍だった財務省にも微妙な環境変化が訪れています。 子飼いの民主党政権が、「働きすぎる」ようになってきたのです。
民主党の前原誠司政調会長は22日、大阪市内で講演し、国家公務員給与を12年度から2年間、平均7.8%削減することについて「これだけひどい財政状況を考えれば、2年間でまた元に戻すことができるはずがない。国民が許さない」と述べました。 わずか2年間だけ、国家公務員給与を削減するだけでお茶を濁す予定だったのが、民主党政権が「増税路線を進めるためには国家公務員給与削減も止むなし」とまで突っ走るとは想定外だったのかもしれません。 民主党政権が増税に邁進することは財務省としてありがたいことですが、財務官僚の給与まで下げられるとなれば話は別です。
財務省でも新たな不等式が現れそうです。
財務官僚の給与維持>財務省の権限拡張…(4)
5)素早い財務省の対応
野田佳彦首相は23日、衆議院予算委員会での経済問題(円高・デフレ・第一次産業等)集中審議で、先般の日銀の決定会合を評価しているとし、引き続き適時果断な金融政策をお願いしていきたいと語りました。最近では野田首相は白川総裁とふたりだけで会合を重ねるようになっているとか。
今更まさか「公務員給与を恒久的に下げられる位なら増税は止めましょう」とは言い出せないでしょうから、増税は進めるとして、インフレも止めて税収増を図り、民間給与水準も上がれば、国家公務員給与高止まり批判も多少緩和されるでしょう。 それで財務省幹部は首相を介して日銀に働きかけ、インフレ目標政策を多少は本気で採るように進言しているのではないかと思われます。
上記(1)〜(4)の4つの不等式を考えると、財務省・日銀はこれまでの「増税・デフレ目標」の組み合わせから、「増税緩和・微妙なインフレ目標」の組み合わせに舵を切る可能性が高まったのではないでしょうか。 これがデフレ脱却のフリに終わった2009年よりも本気で財務省・日銀がデフレ脱却に向けた政策を採るインセンティブになるだろうと筆者は踏んでおり、中期的に株高・円安が続くと予想する理由です。
【オマケ】
さて、めでたく株高・円安政策が当分続くとして、海外要因からこの構図が崩れるかどうかは検証する必要があります。
1)欧州問題
これはもう決着しかかっていると見て良いのではないでしょうか。 結論はギリシャの秩序ある破綻、もしくはギリシャの無秩序な破綻とギリシャのEU追放。どちらも一過性のマイナスの後、世界経済には好影響があるでしょう。
2)米国経済と大統領選挙
アメリカ民主党の景気浮揚策に対し足を引っ張ってきた議会共和党ですが、大統領選挙の年には毎回景気浮揚策が採られています。今年だけその例外とはなりにくいのではないでしょうか。
3)イラン・イスラエル問題
これは日本経済にとってはかなりの脅威です。 顕在化すれば、原油・LNGなどの多くをホルムズ海峡経由で入手している日本経済への打撃は計り知れません。 ただ、問題が顕在化した場合でも株高は一時的に終息したとしても、日銀がインフレ目標を掲げていればこれも中期的には一過性の問題に終わるでしょう。 そもそもイランがホルムズ海峡を封鎖する事態となれば、イラン自身がイラクの二の舞となりかねないことからイラン・イスラエル間ではチキンレース的冷戦が続くというのがメインシナリオではないでしょうか(自信はないですが)。