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世界経済現代史のソブリンリスク事例から欧州・日本それぞれの対策を考える

【要約】
・現代世界史から一連のソブリンリスク事例を概観してみました。
・これらからギリシャなどの欧州諸国でのソブリンリスクへの対応策は見えてきます。
・日本のソブリンリスクはこれらとは様相が全く異なっていますから処方箋も異なります。

前回のエントリーで、日本国債の破綻の可能性について、シナリオ分析を試みました。*1
今回は、ニクソン・ショック以降の世界経済現代史からソブリンリスク事例を拾い、帰納的に何が言えるかを考えてみます。

1971年8月15日、ニクソン大統領は突然ドル紙幣と金との兌換停止を宣言しました(ブレトン・ウッズ体制の終焉)。
この後、世界経済はドルを基軸とする変動相場制へと移行します。
1973年、石油輸出国機構OPEC)は第四次中東戦争を契機に、原油公示価格の70%値上げを発表しました(オイルショック)。
オイルショック後に中東諸国にはオイルマネーが蓄積します。この膨張したオイルマネーは、米国金融機関を介して世界的な流動性供給源となりました。
1970年代後半には米国に近い中南米諸国にオイルマネー流入し、官民大規模プロジェクトの原資となります。 しかしこうした投資熱が過熱したところに、米国で高インフレが発生し、これに対応するため、米国は高金利政策を採るようになります。
こうして1982年まずメキシコで対外債務の行き詰まりが発生しました(メキシコ危機)。この危機は中南米諸国に広がって行きました。ここにIMFが支援に乗り出し、過剰財政需要の抑制を要求し、中南米の危機は終息に向かいました。

1982年の危機の教訓(高インフレへの対策)から、メキシコ等は自国通貨をドルペッグ制とします。ところが、米国での金融引き締め策が行われると、メキシコはペソの買い支えの必要が生じ、激しい外貨流出が起こり、1995年、2度目のメキシコ危機が発生しました。
一方、タイでもドルペッグ制が採られており、過剰流動性を抱えた日本や米国から、資金が流入していました。 その内にドルペッグ制への疑義からバーツ切り下げ観測が行われると、日米などの外国資本は一気に流出、1997年にはタイは対外支払不能となりました。これがアジア通貨危機の始まりです。
同年韓国では国の財政は黒字であったものの、起亜自動車の倒産以降経済状態が悪化、外貨が流出しIMFに支援を要請し、その管理下に置かれました。IMFは韓国が財政黒字であったにもかかわらず、先の中南米危機と同様に財政需要抑制を支援の条件としてしまったため、韓国経済は一層悪化しました(IMF危機)。
1999年のロシア、2002年のアルゼンチンでもインフレ抑制のためのドルペッグ制が採用されていました。 このため、外貨が流入していましたが、タイ同様、通貨切り下げ観測が行われた途端、それぞれ外貨が一気に流出しました。特にアルゼンチンでは預金封鎖が行われた結果、畜産で豊かな国であるはずなのに、アパートのネズミを食べざるを得ないほどの惨状になったそうです。
これらのドルペッグ制下の通貨危機は、固定相場下に自由な資本移動を認めた結果招いた危機といえます。
こうした意味では、現在ユーロ圏にあるギリシャでの危機は、本来価値が下落するべきギリシャ通貨ドラクマに代えて、共通通貨ユーロを使うことで欧州域内では固定相場となってしまっていることから、アジア通貨危機やロシア・アルゼンチン危機と同種のソブリンリスクが顕在化しつつあると言えるでしょう。

ユーロ圏内の弱小国の経済危機を乗り切るには、ユーロを離脱し変動相場の独自通貨に戻すか、域内全体で一体化された経済政策をとり、共通の債務・ユーロ債を域内全体が持つことにするなど、破綻必然の現在の経済の枠組みを変えざるを得ないと思われます。

翻って日本。 日本の債務の状況はこれらのどれとも異なっています。
前回のエントリーで見たように筆者は日銀総裁の意図にかかわらず、日銀が国債を直接引き受けするシナリオを通って、日本のソブリンリスクは終息するものと予測しています。*2

*1:日本国債は破綻し得るのか? http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110825

*2:日本国債は破綻し得るのか? http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110825