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デフレ日本で通貨発行益は財政再建の鍵

今日8月31日のの日経朝刊「経済教室」に法政大学教授・小黒一正氏の「政府・日銀の通貨発行益 財政再建に活用は困難 」という記事が載っていました。

小黒氏の主張を簡単に言えば、
通貨発行益を財政再建に使った場合、
○資金供給量の増分はやがて「出口」で減少せざるを得ない
○通貨発行益で仮に高インフレとなれば大きな国民負担
そのため、通貨発行益を財政再建に使おうとしても困難
 というものです。

今日はこの論点について考えてみたいと思います。

■不景気こそ財政健全性悪化の主役
図1は政府債務の対前年増減額の推移です。

政府純債務は不況で増え、好況で減る

図1 政府純債務増減
出所:日銀資金循環統計

バブル景気のころは特に意図せずとも日本の財政はプライマリー均衡を達成し、財政黒字でした。
ところがバブルが崩壊すると、税収は落ちました。

橋本内閣が5%への消費税増税と緊縮財政を打ち出すと、消費税の税収は増えたものの、不況により法人税所得税が落ち込み、総税収は却って減りました。これに伴い、消費税増税後に政府債務は急増しています。

その後、2005年前後に世界的なバブル傾向で好況となると政府債務の増加は止まりました。
ところが2007年以降リーマン・ショックで景気が落ち込むと再び政府債務が増大してしまいました。

そして2012年以降のアベノミクスで景気が上向くと税収が大きく増え、政府債務の増大が鈍化しています。

近年のギリシャの場合、ユーロ圏諸国からの強制的な緊縮財政によりプライマリー均衡は達成しましたが、この緊縮財政により日本同様のデフレに陥ってしまい、財政健全性は緊縮財政以前より悪化しています。

家計の場合財政健全化には財政の引き締めが必要です。ところがマクロで政府を含む経済を考えた場合、政府が緊縮財政を取ればこれら日本・ギリシャの失敗を含め多くの場合政府財政は却って悪化します。


■デフレなら政府が企業の負債を肩代わりせざるを得ない
図2は、主な経済主体の純資産・純債務の推移を示しています。

不況では、政府が企業の負債の肩代わりをしている

図2 主体別純資産純負債推移
出所:日銀資金循環統計

1997年の橋本内閣消費税増税後デフレ傾向がはっきりした後に企業純負債は減り、逆に政府債務は増大しました。

一方、2005年前後の世界的好況や、昨今のアベノミクスでは企業は純負債を増やしています。

誰かの金融資産は誰かの負債という関係があります。 
日本では家計が1,300兆円以上の純資産を持ち、企業・政府・海外などの主体がそれに対応する負債を負っている状況です。

消費税増税によるデフレ不況では企業は負債を負って投資をしても、回収できる見通しが立ちにくく、しかもデフレでモノの価格が下がっても不負債の名目額は減らないため、企業は負債の返済に励みました。

経済が伸びないため法人税所得税も落ち、減った税収を国債で補わざるを得ず、財政健全化を目指したはずの消費税によるデフレでは、政府純債務が却って大きく増えました。
これは見方を変えれば、デフレ不況期には家計純資産に見合う負債を企業に変わって政府が肩代わりしているとも言えます。

従って、デフレ不況を脱却しないことには、政府財政の健全化は望めないでしょう。

■通貨発行益はデフレ脱却の特効薬
80年前の昭和恐慌期は現代日本のデフレよりも激しいデフレでした。
ところが高橋是清が日銀に新規国債を直接引き受けさせその通貨発行益で拡張財政を始めるとわずか1年程度でデフレは終息しました。

この例に限らずデフレを通貨発行益で脱却した事例は多数あります。

これは当然の話で、もし中央銀行の通貨発行益で財政がまかなえ、インフレにもならないならそもそも税金も要らないはずですから、通貨発行益で財政運営すれば好況から更には高インフレになることは目に見えています。

小黒氏は通貨発行益で財政再建しても出口政策で「行って来い」となり、実質的に通貨発行益は財源にならない、と主張します。

しかし通貨発行益でデフレ脱却すれば、企業はリスクを取れるようになり、企業の負債は増えるのですから、政府債務比率は下がるでしょう。

小黒氏はデフレ脱却や経済成長の効果を無視して議論を進めていますが、現実には政府財政健全性に支配的な因子は経済成長であり、緊縮財政はこれを阻害するため、橋本内閣以降での緊縮財政こそが財政健全性を失わせた元凶で、通貨発行益の活用によりデフレ脱却するならば、財政も健全化するでしょう。