シェイブテイル日記2

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日本の財政問題を救うには消費税減税が有効

今日20日日経新聞「経済教室」に、一橋大学・祝迫先生により最近のマイナス家計貯蓄率の解説と、将来の政府債務が国内だけでファイナンスされなくなる可能性について載っていました。
結論としては、企業による貯蓄率が維持されて、家計に変わって政府債務をファイナンスできるかどうかがひとつの鍵ということでした。

同じ資金循環統計について、シェイブテイルは祝迫先生とは少し異なる見方をしています。
結論で言えば企業の貯蓄率が高いことこそ問題の一部だ、というものです。

かなり前から政府粗債務と家計純資産とを比較し、もう数年経つと政府債務は家計ではファイナンスされなくなり、海外からの借金に頼らざるを得なくなるという論調が繰り返しのべられています。

家計純資産に対する政府粗債務残高の比率をみると、確かにバブル崩壊以降、その比率は高まる一方で特に近年は100%近傍の高い比率となっています。(図表1)

政府粗債務残高対家計純資産比率はすでに100%に近い

図表1 政府粗債務残高対家計純資産比率
出所:日銀資金循環統計から筆者計算

ただ、政府"粗"債務を家計"純"資産と比較する、というのはどうも違和感がある比較と思われます。
そこで同じ日銀資金循環統計から、各部門の純資産・純債務でグラフを作ってみました。(図表2)

家計純資産に対応する純負債として企業のシェアが縮んでいる

図表2 家計純資産とその他の部門の純負債
出所:日銀資金循環統計
家計のみが純資産を抱え、残りの企業・政府・海外・金融機関等はほぼ純負債を抱えている。
家計純資産は赤い折れ線グラフ表示している。
家計以外の純負債は±を反転し、プラス側に積み上げ面グラフ表示した。

資金フローで誰かの支出は誰かの収入であるように、資金ストックでも誰かの資産は誰かの負債という関係になっています。
 家計が純資産を保有できるのはそれと同額の純負債を家計以外どこかの主体が抱えてくれているからです。

そもそも不換紙幣は負債を裏付けにして発行されるのですから、純資産と純負債がバランスするのは当然の話です。

さて、図表2で家計以外の各部門の純負債の推移をみると、バブル崩壊までは家計純資産の裏付けのほとんどが企業の純負債だったことが分かります。 企業は旺盛に資金を借りて投資やバブル期には投機の資金としました。

バブルが崩壊した90年代の前半には企業は債務増加を止め、傷んだ企業バランスシートの圧縮を図りました。

ところが、1995年以降になると、デフレ傾向が見え始め、デフレが決定的となった1998年以降現在まで2005年前後の短期間を除けば、ほとんどの期間で企業は債務を返済し、純負債を減らし続けました。

デフレになれば、企業が銀行からカネを借りて財を買っても、時間が経てば買った財はそれより安くしか売れませんし、投資をしても、負債は名目値で維持されるのに、期待される売上は現状を下回ります。こうした環境では金利を払って負債を抱えたままであることは企業にとって不要なリスクテイクとなりますから、企業は負債圧縮に務めたわけです。

このように、本来債務を負って将来に向けて投資をするべきはずの主体、企業に投資をリスク視させるようになったのは日本の経済環境がデフレ化したからですが、日本がデフレ化した要因の大きなものは、1997年の橋本消費税増税でした。消費税は名目GDPに懲罰的に課税をするのですから、家計の可処分所得は減ります。そして消費が抑制されることで企業売上が減少し業績が悪化した企業は、従業員解雇や正規雇用者の非正規雇用者への置き換えにより雇用者の平均賃金を減らすことになります。

減った賃金に更に消費税が懲罰的にかかり…、という負のサイクルにより、先進国で日本だけが名目GDPが全く伸びない国となりました。

さて、こうして企業の純負債が減っても、金融資産の大半には正の金利がついていますから、家計純資産も緩やかながら伸びていきます(図表2赤線)。 すると負債の担い手として小さくなった企業に代わり、政府が国債を発行して埋め合わせをせざるを得なくなります。

税収をフローでみれば、消費税増税→企業売上減少→雇用者所得減少→法人税所得税の減少という流れが生じます。
伊藤周平・鹿児島大学教授の分析によれば、消費税増税による消費税の増収と法人税減収でほぼ見合いの額ですから、消費税率アップは所得税収などの減収をもたらしているという結果です。

要するに、ストックからみてもフローからみても、消費税増税はデフレ化を介して企業の投資意欲を削ぎ、総税収を減らし、政府総債務を増やしているという流れが見えてきます。

皮肉なことに、プライマリーバランス均衡を達成し、政府債務を減らそうと、消費税を増税すればするほど、名目GDPを減らす効果の方が大きく現れ、税収は減り、国債増発は余儀なくされ、財政健全化指標、政府債務残高対GDPは悪化するというわけです。

ただ、図表2にみる通り、家計純資産は海外の純債務までカバーするほど潤沢ですから、冒頭触れたように、「政府粗債務が家計純資産を上回った途端、財政危機が訪れる」というシナリオは現実味がありません。

いずれにせよ、こうした日本経済の閉塞状態を打破するには、起点となっている名目GDPへの懲罰税、消費税を減税するなどにより、家計・企業に潤沢にマネーが回るようにすることでしょう。
消費税を減税したところで、上述のように法人税の自然増収で埋め合わせされ、更に個人所得増加により所得税の増収さえ期待できるのですから、日本を本当の財政危機にしないためには消費税を上げるのではなく、減税することが正しい方策と考えられます。