名目GDPが縮んでも実質値では縮まない、は本当か
最近、ブログのコメント欄でデフレになって名目GDPが減っても実質GDPには悪影響はないという主張をみました。
パラレルワールドは実存しないのですが、物価データなどから「デフレにより名目GDPが減っても実質GDPは減らない」説を検証してみたいと思います。
日本の物価についてこんなデータがあります。(右図)
縦軸・横軸ともに物価指標ですが、横軸はGDPデフレーターです。*1
縦軸はおなじみの消費者物価指数CPIです。
1980年から1997年までの非デフレ期には、GDPデフレーターが上がればCPIもあがるという、傾き45度に近い関係がありました。
ところがデフレが顕在化した1998年以降はGDPデフレーターはどんどん下がっていくのに、CPIはあまり下がっていません。
これは一体どういうことなのでしょうか。
CPIは全く同じ商品バスケットを毎年買う、と仮定した場合の物価であるのに対し、GDPデフレーターは現実に買われた商品構成で重み付けされた物価になっています。
デフレの世の中では実質賃金がどんどん下がるので、以前と同じ製品構成でモノを買い続けるのは不可能です。したがって消費者はより安いものを買う価格選好を強めます。
こうして価格で重み付けされた物価、GDPデフレーターは下落していきます。
ところが生産者側は、銀行から金利付のお金を借りて設備投資をして、かつ安定した賃金を従業員に支払いながら、商品を生産して販売するのですから、もしも消費者の価格選好に合わせて商品価格を下げるなら、銀行への返済もできなければ、賃金支払いにも支障が出ることになります。
従って、企業はデフレ経済下では以前ほど商品が売れないことは承知であっても価格をそうやすやすとは下げられない、ということです。 昔から価格の粘着性といわれていたことの実体的根拠は以上のようなメカニズムであり、古典派の経済学者などが仮定する「価格による需給均衡」などというのは、負債からマネーが創出されている現代の管理通貨制度ではあり得ない机上の空論です。
しかし、全体のパイが縮む以上、結局、デフレで名目経済規模が縮小してもマネーの元となる負債は名目値のまま残存し、一定の賃金を払い続ける、ということができなくなる企業が弱いところから出始め、リストラをするか、事業を止める企業が出ざるを得ません。
昨今のデフレは消費税が起点になっている消費税デフレですので、退出させられる企業の多くは価格競争力が弱く、税を価格転嫁ができにくい自営業です。
自営業者数は右図のように減り続けています。 (総務省労働力調査)
高齢自営業者では後継者不足などでの廃業も多々あり、自営業者が減っている理由のすべてが消費税とは言えませんが、そもそも継ぎ手がいないこと自身、家業として成立しにくい経済環境があることを暗示しています。
日本と流通する貨幣量だけ異なるパラレルワールドがあれば以上のことは実証できますが、上の二つの図が意味するところは、消費税デフレの日本経済は名目値として縮んでいるだけではなく、実質ベースでも本来達成可能な経済規模よりも縮んでいる、ということではないでしょうか。