3つの信用創造の仕訳(しわけ)
今回はそれらの信用創造の仕訳(しわけ)について詳しくみていきたいと思います。
まず市中銀行での信用創造です(図表1)。*1 私達家計や企業が銀行から借り入れをしたとすると、銀行はなにもないところから(1行目)、貸し出した金額に見合いの預金を我々の口座に振り込みます。 この時銀行はそのお金をどこからか借りてきたりすることなく、単にキーボードで金額を打ち込めば預金通貨(マネーストック、MS)が生まれます。これが民間銀行の信用創造の仕組みです。 こうして信用創造で生まれたお金は、銀行員のペン先から預金が生まれているので「万年筆マネー」ともよばれます。誰かが負債を負えば金融資産が生まれる、逆に誰かが負債を返済すれば同額の金融資産が消滅するという関係になっています。 ちなみに図の色分けは右側のMSが動く市場をここでは預金市場と名付けて緑色で表し、左側の中央銀行ネット内でマネタリーベースMBが動く金融市場は煉瓦色で表しています。(金融統計上は政府預金はマネタリーベースには含まれませんが、政府預金は銀行が中央銀行に預ける準備預金と同様中央銀行の負債という意味では同質のお金ですのでこの記事内では政府預金も含めてMBと呼ぶことにします)
ここで、手に取れる紙幣という例外を除けば、緑色の市場のお金MSと煉瓦色の市場のお金MBは直接行き来できない別のお金ということには注意が必要です。従って我々は中央銀行ネット内にあるMBを直接受け取ることはできません。
中央銀行は銀行の銀行で政府の銀行でもあります。中央銀行の信用創造の例として、政府が中央銀行からお金を借りる場合をみてみましょう(図表2)。
これは政府は政府短期証券(FB)という債券を発行して、中央銀行がこれを引き受けた場合です。 この場合も図表1の民間銀行の信用創造と同じく、政府が自ら負債FBを負ったことで見合いの政府預金が政府口座に生まれる「万年筆マネー」が信用創造の仕組みとなっています。
信用創造の3つめが財政出動の場合です。財政出動に伴う信用創造は政府短期証券FBを中央銀行が引き受ける場合と、民間銀行で消化される場合のふたつに分けられます。まずは中央銀行がFBを引き受ける場合(図表3)。
政府がFBを発行して中央銀行がこれを引受けた場合、2行目までは先にみた中央銀行による信用創造そのものです。ただ、この段階で創られた政府預金は中央銀行に口座があるため中央銀行の金融ネットワークを越えて民間非金融部門へは出ていくことができません。
そこで政府が支出をする場合、民間へは例えば政府小切手などの形で支払いを行い、企業はこれを銀行に持ち込んで預金に変えてもらうという手続きを踏みます(3行目)。
政府小切手を持ち込まれた民間銀行は、中央銀行にその取り立てを依頼し、中央銀行は政府預金を振り替えて民間銀行の口座に準備預金を振り込みます(3行目)。
まとめると、政府支出に伴う貨幣の増加は中央銀行の信用創造(2行目)で行われているが、生成したマネーは民間に流通できないため、政府小切手を受けた民間銀行がMSに変換するという二段階の手続きで行われているということです。*2
現在の日本で財政出動する場合、FBは原則市中銀行で消化されることとなっています。*3 このFB市中消化の場合の仕訳は次のようになります(図表4)。
政府短期証券FBを民間銀行に引受けてもらう場合、初期状態のままで民間銀行にマネーがなければその費用が支払えませんので、これに先行して民間銀行は中央銀行に借り入れをします。中央銀行は民間銀行口座に準備預金を振り込みます(2行目)。
市中銀行はこの資金で政府が発行するFBを購入します(3行目)。政府支出に伴い、政府が企業に政府小切手を支払い、民間銀行で預金(MS)とします。民間銀行は政府小切手を中央銀行に取り立ててもらい、準備預金を回収します。すると、民間銀行、中央銀行共に借入・貸出と準備預金が相殺されて仕訳からは消え、民間銀行バランスシートには借方:政府債務(ここではFB)/貸方:預金(MS)だけが残ります。
4.信用創造のまとめ
信用創造には3パターンがあります。
1)誰かが資金を積極的に借りて民間銀行でMSが生成される
2)民間銀行か政府が、彼らの銀行に当たる中央銀行から資金を借りてMBができる
ただし中央銀行ネットに我々非金融部門はアクセスできないので…
3)政府がこれをMSに変換する財政出動を行なう
5.政府債務は家計貯蓄を超えるか?
4月5日付日経新聞の「大機小機」に政府債務は家計貯蓄を超えるか?という記事が載っていました。(ここ)
上記の財政出動に伴う信用創造の仕訳をみていただければ明らかなように、企業・家計の預金に先行して政府債務が生まれています。政府の負債は誰かの資産、というわけです。これは理屈だけでなく、日銀資金循環統計からも確認できます(図表5)
日銀資金循環統計によれば、2017年時点で家計純資産は1500兆円とされています。一方純債務を負っている政府・企業・海外の純債務の和もほぼ同額です(両者に少し差があるのは、金融機関など他の経済主体があるため)。
見方を変えれば、政府・企業・海外が負債を負っているからこそ家計に金融資産があるともいえます。 従って政府純債務が増えれば増えるほど家計純資産が増えるし、財政均衡や政府債務返済を目指して緊縮財政を行えば、単に家計資産が減るだけということになります。
「政府債務が家計純資産を追い越せば財政破綻する」などといった言説は信用創造の仕組みを知らないことから生じる間違いですので、その間違いに基づく緊縮財政によって日本を貧困化させることは愚かな自爆政策といえるでしょう。