「社会保障、別の財源模索を」伊藤周平教授
今朝の日経新聞には社会保障と消費税の関係について伊藤周平・鹿児島大学教授による極めて明快な意見が述べられていました。
国政を左右する衆議院選挙を前に政治家・国民ともに是非一読していただきたい内容だと思われます。
今朝の日経朝刊経済教室欄に載った伊藤周平教授の見解を要約すると以下のような内容です。
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◆アベノミクスと実質賃金
・安倍晋三政権の経済政策(アベノミクス)により円安が続き、生活必需品を中心に物価が上昇。
・4月の消費増税が追い打ちをかけ、実質賃金は10月まで16カ月連続で前年比減少
→日本経済は、増税によって景気後退局面に入り
◆衆議院の解散・総選挙争点
・首相は消費税率の10%への再引き上げを15年10月から17年4月に先送宣言。
・10%の引き上げに際し、景気条項を削除するとし、いわば退路を断った形。
・消費増税は社会保障の充実が名目
→安倍政権のもとでは、充実どころか、社会保障改革と称して、社会保障の削減推進。
・13年8月から生活保護基準の引き下げ、同年10月からは年金給付や児童扶養手当など減額、70〜74歳の医療費自己負担も2割に引き上げ、後期高齢者医療保険料の特例軽減措置も廃止。
・政府「消費増税の増収分をすべて社会保障の充実・安定化に充てる」
→大半は社会保障の安定化に使われ、充実に充てられるのは増収分のわずか1割。
◆社会保障費は大半が国の借金で賄われている?
・社会保障費は他の歳出項目と同様、国債を含めた歳入全体から支出、所得税や法人税などの税収によっても賄われる。
・歳入に占める国債の割合は4割程度で推移
→社会保障費のうち、借金に依存しているのも4割程度。
・予算のすげ替え
◆本当の消費税の使途
・社会保障の安定化に消費税収を用いるということは、これまで社会保障費に充てられてきた法人税収や所得税収が浮くことを意味。
→消費税増収分の大半は、実質的には法人税減税による減収の穴埋めなどに使われている。
・消費税が導入された1989年以降の消費税収と法人税収の推移をみると、過去の消費税収のほとんどが、法人税の減収の穴埋めに消えている(図)
◆アベノミクスの帰結
・成長戦略として法人減税を、経済対策として大型公共事業を推進する政策を継続する限り、いくら消費増税をしても、社会保障はよくならないし、国の借金も減らず、財政再建にもならない。
◆日本の消費税の特質
・一部の例外を除いてほぼすべての商品やサービスの流通過程に課税
→家計支出に占める消費支出(とくに食料品など生活必需品)の割合が高い低所得層ほど、負担が重くなる逆進性の強い税。
・高所得者ほど、株式投資や預貯金などの金融所得が多く、所得比でみた消費税の逆進性はいっそう強まる傾向。
・消費税を社会保障の主要財源とすると→逆進性の強さから消費税率の引き上げに対して国民の根強い反対→政策的に社会保障の削減が選択へ。
・消費増税は、輸出還付金の増加で輸出大企業に恩恵を与える
・企業による正社員のリストラや非正規化を促進
∵企業が正社員を減らし、必要な労働力を派遣などに置き換えると、人材派遣料などの経費が「仕入れ税額の控除」の対象。正社員への給与は控除の対象外だから、派遣労働の割合を増やすほど、消費税の納税額が少なくなる。
・安倍政権のもとで雇用者が増えたといわれる→増えたのは低賃金で不安定な非正規雇用であり(10月時点で昨年1月比157万人増)、正社員はむしろ減少し(38万人減)、労働者全体に占める非正規の比率は37.5%に上昇。
・消費税は、貧困と格差を拡大する特徴をもつ不公平税制。
◆社会保障財源財源消費税偏重の帰結
社会保障財源の主要財源を消費税に求める→貧困や格差の拡大に対処の必要性
→社会保障支出の増大が不可避→消費税を増税し続けるスパイラル。
・増税しない→社会保障を削減、貧困と格差の拡大を放置するしか。
・消費税は社会保障の財源として最もふさわしくない。
・社会保障費(現在は年金、医療・介護、子育て支援の社会保障4経費)のすべてを消費税収で賄うことなど不可能、そうしている国は存在しない→社会保障費は、あらゆる税収で賄われるのが当然。
・消費税の再増税の延期で、社会保障充実のための財源約4500億円が不足するとの報道
→待機児童の解消などの必要な施策であるなら、不要不急の公共事業費などを削り、社会保障費に回せば済む話。
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これらの分析を踏まえて伊藤周平教授は次のように結論しています。
増税により景気後退局面に入った日本経済を立て直すには、消費税の再増税は延期ではなく中止とし、当面5%に戻すべきである。しかし、現状認識を誤っているアベノミクスの手法では、不況のなかで再増税のときを迎える可能性が高い。また、再増税先送りを名目とした社会保障の削減も加速すると予想され、そうなれば、年金削減や将来不安により個人消費はさらに低迷し、日本経済の長期停滞は避けられなくなる。
そして、不足している特別養護老人ホームや保育所を増設し、さらには公費を投入して介護職員らの待遇改善をはかることによって社会保障を充実させれば、従来型の公共事業や企業誘致よりも、雇用創出の効果があるはずだ。社会保障の充実により将来不安が払拭され、年金や手当が増額されれば、内需主導型の景気回復につながる。
社会保障財源は消費税しかないという呪縛を解き放ち、別の選択肢を示していくことがいま求められている。
シェイブテイルとしましては極めて妥当な分析と意見だと思いますがいかがでしょうか。