日銀とFRBのインフレ目標政策の違い
インフレ目標に量的緩和。 よく知られているように、現在日銀もFRBも共に採っている戦略です。 しかし、両者には少々異なった点があるようです。
先進国で唯一インフレ目標政策が取られていなかった日本ですが、昨年1月、アベノミクスに伴い、ようやく日銀もインフレ目標政策を開始しました。
その前後から驚異的なペースで円安・株高が進みました。
しかし、今年に入ると円安・株高も一服したようです。
政策目標にしている物価(CPI)も消費税の影響抜きで1%までは上がりましたが、ブレイクイーブンインフレ率(BEI)の動きから見ても、インフレ期待も一服しています。
インフレ目標と量的緩和。これらが揃えばインフレ期待が醸成され、黒田総裁が予言したように、2年程度で2%のインフレ目標は達成されるのではなかったのでしょうか。 それとも、この20年来低レベルのインフレ率にコントロールしている米国のFRBでのインフレ目標政策とは何かが違っているのでしょうか。*1
2003年、バーナンキFRB理事(当時)は全米企業エコノミスト協会・ワシントン年次政策カンファレンスで、次のような講演をしました。*2
インフレ目標のコミュニケーション戦略
インフレ目標戦略のベストプラクティスのひとつは、コミュニケーション戦略です。これは政治当局、金融市場、および一般市民とコミュニケーションをとる通常の手段です。一般に、中央銀行のコミュニケーション戦略は、透明性確保につながり、それには多くの側面と多くの動機があります。
インフレ目標政策を採用している中央銀行で、特に強調されるコミュニケーション手段としては、「政策の達成目標(特にインフレ目標)の公表」、「中央銀行の政策フレームワークの議論公開」そして「中央銀行による経済見通しや評価・判断を公開すること」の3つとされています。
しばしば指摘されるように、言葉より行動の方が雄弁です。 中央銀行による宣言は明確で一貫性があり、更に重要な事は、信用されるものでなければ、その価値は小さなものとなりまた減少していくでしょう。
バーナンキ氏のこの講演からは、FRBが永年に渡り、政府・市場・国民との良好なコミュニケーション関係を築き、それをベースに中央銀行として彼らに自ら設定している目標への期待を醸成しようとしていることが窺えます。
中央銀行がインフレ目標を2%に設定した途端、国民のインフレ期待値はそれに倣う、といった単純なものではないようです。
翻って、黒田日銀。
2%のインフレ目標と大規模金融緩和は昨年1月以来続いていますが、黒田総裁は権限外である消費税について10%まで上げるよう度々発言しています。
消費税は国民のマネーを直接政府が吸い上げてしまい、実質所得を押し下げる政策ですから、日本で不足している需要と供給の差を一層拡大する政策といえるでしょう。
金融政策では需要不足を埋めるインフレ目標+大規模緩和を進めながら、その一方の財政政策では需要不足を拡大する消費税増税を求めているのですから、恐らくバーナンキ氏に言わせれば、”日銀による宣言は「明確で一貫性があり、更に重要な事は、信用されるもの」ではないため、その価値は小さなものとなり、また減少している”ということなのでしょう。
前回消費税を上げた1997年以降、日本はデフレに陥っています。
インフレ転換を目指すはずの日銀総裁自らデフレ回帰政策に熱心というのは皮肉としか言いようがありません。
日銀に過度の独立性を与えてしまった現行日銀法もそろそろ改定すべき時が来ているのではないでしょうか。
9月4日消費税増税延期に懸念を表明する黒田総裁
4-6月期の記録的なGDPの惨状や現在の在庫の積み上がりを
気にする風でもなく、10%への消費税増税を求める黒田総裁。
インフレ目標政策との整合性はとられているのかどうか。