政府発表と民間予測の乖離を埋められないマスコミ
今話題となっている消費税増税とTPP。 いずれもGDPに与える影響を政府が試算しています。ただ、精査するとどちらもかなりの楽観評価をしているようですが、政府試算と民間での試算の間にある大きな乖離は放置されたままです。
早速、その違いを見てみましょう。(図表1)
消費税・TPPともに、政府試算は民間よりも楽観的
図表1 消費税増税とTPPの影響に関する政府・民間予測例
消費税・TPPが名目GDPに与える影響(兆円)。
出所は本文参照。ただし、GDPへの影響予測は政府・民間とも他にも多数あり。
■消費税
消費税については2014年度の影響は△8.1兆円とされています。*1
政府は5兆円の景気対策をするので、トータルでは△3.1兆円の影響といった報道がなされています。
ただ、向井文雄氏によれば、5兆円の景気対策の真水は3.4兆円、昨年も実施されているのにカウントされていない補正予算の剥落が△5兆円あり、トータル△10兆円超の影響があるとしています。*2
■TPP
TPPについては、政府試算では3兆円以上のプラスの影響があるので交渉を進めましょう、といった話を国民は聞かされています。
ところが「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」の大学の先生たちが試算してみると、TPPの影響はトータルでは△4.8兆円だとか。 *3
筆者は消費税の専門家でもなければ、TPPの専門家でもありませんので、数字の詳細に立ち入ることはできません。
ただ、専門家間でこれほど大きな乖離があるのを、これが政府試算でござい、でそれ以上の議論をさせない(議論をするような専門家は決して諮問委員会などには呼ばない)、というのが「政府試算」です。
それにもかかわらず、政策の意思決定を覆すほどの大きい、政府・民間の試算の乖離を解説するなり、誤りを指摘して埋めてくれる存在がありません。
マスコミ、例えば日本新聞協会では消費税増税時には新聞に軽減税率を適用すべき根拠として次のように書いています。
新聞は、「情報を知るためのもの」だと思っていませんか。確かに、ニュースを伝えることは、新聞の使命です。それだったら「情報は、自分で探したり聞いたりすれば知ることができるから、それで十分」と考える人もいるでしょう。しかし、ちょっと待ってください。世の中の出来事にいつも注目し、埋もれているニュースを掘り起こし、毎日まとめて届けている新聞には、単に情報を伝達するだけではない公共性と役割があるのです。
聞いてください!新聞への軽減税率適用のこと 日本新聞協会
ウェブ上で大抵の情報が取れる現代、政府発表数値を単に垂れ流し、民間専門家の数値の違いを解説するなどの努力をしていないマスコミが、「新聞には、単に情報を伝達するだけではない公共性と役割がある」というのは笑止千万です。
このように付加価値は低いのに規制に守られて購読料が高止まりする新聞については「消費税も上がることだし存在意義も薄いので取るのはやめておこう」と判断する消費者は今後増えていくのではないでしょうか。
*1:10月8日の日経では決算月の影響で影響△5兆円となっていますが、発生ベースで見れば△8.1兆円でしょう。
*3:全国で10.5兆円減 TPP大学教員試算 十勝毎日新聞社ニュース2013年05月22日