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デフレ推進派に堕ちた山本幸三議員へ

自民党でも数少ないリフレ派論客のひとり、山本幸三議員が自身のブログで、消費税増税を肯定する主張を展開しています。
  混乱している有識者会議の議論2013.9.12衆議院議員 山本幸三

ブログを見た時我が目を疑いましたが、山本幸三議員はリフレ政策を支持しつつ、消費税増税も肯定されているようです。

ここで山本議員の主張を追ってみましょう。

1.消費税増税に絡んで有識者会議なるものが行われたが、そこでの議論を見ると、経済理論的には少し混乱しているように思われる。

増税慎重派の主張のポイントは「消費税増税によって個人消費が落ち込み、需給ギャップが拡大して、デフレ脱却が遠のいてしまう。」という点にあるが、本当にそうだろうか。こうした主張を、これまで日銀に積極的な金融緩和政策を求めてきたリフレ派と呼ばれる経済学者達までが唱え始めていることに私は違和感を覚えるのである。

私の結論は、「デフレ脱却と消費税増税は全く関係ない。」ということである。その理由は、「デフレは貨幣現象であるので、金融政策がしっかりしてさえいれば、必ず脱却できる。」という点にある。リフレ派の主張は、正にそこにあったのではないか。それが突然金融政策のことを忘れた議論を始めるのは首尾一貫性に欠けるというものだ。

山本先生の主張にはいきなり度肝を抜かれます。

>税慎重派の主張のポイントは「消費税増税によって個人消費が落ち込み、需給ギャップが拡大して、デフレ脱却が遠のいてしまう。」という点にあるが、本当にそうだろうか。

山本先生、まずしっかりと現実を見ましょう。「本当にそうだろうか」もなにも、1997年の消費税増税を境に、雇用者報酬は減少に転じ、民間消費支出も著減しました(図表1)。雇用者報酬の減少はいまだに止まっていません。(図表2) 

消費増税は雇用者報酬・民間消費にダメージを与えた

図表1 1997年消費増税後の雇用者報酬・民間消費支出
出所:内閣府国民経済計算(2000年基準)

雇用者報酬は1997年をピークにいまだに減少を続けている

図表2 雇用者報酬総額
出所:内閣府国民経済計算

これら日本経済の転換点となった1997年について、単なる財政再建派と同様に、「それはアジア通貨危機があったから。」といった意味不明の主張はされないでしょうね。万一そう主張されるのなら、なぜその後、危機当事国でさえデフレの時期がないのに、日本だけが15年以上にわたってデフレなのかについても説明をお聞かせ下さい。

2.消費税増税は、財政健全化や社会保障財源確保の視点から考えればよい話で、しかも増えた税収はいずれ社会保障費として支出されるので中長期的にはGDPに対し中立的だと考えるべきだろう。ただ、一時的にはショックを与えるかもしれないので、補正予算などでその対応を考えればよい。つまり消費税の議論は、本来デフレ脱却の議論と混同すべき筋のものではない。しかし、慎重派が主張するように、万一実質GDPの減少が起こったらどうなるか。その時、黒田日銀総裁のお蔭でお金の量が増えているのだから、実質GDPの減少はむしろインフレ要因である。従って、慎重派の主張とは逆に、デフレ脱却は返って早まるというものではないか。

 消費増税により、政府支出を同額増やすのであれば、消費増税が中長期的にGDPに対し中立的、という考え方は成り立ちます。しかし、今議論されているのは、消費増税の有無によらず一定額の社会保障費に充てるか、あるいは財政再建のための国債費に充てるかという話ですから、消費増税GDPあるいは景気に中立的な訳がありません。増税により、国民は単に取られるだけです。

補正を組めば消費税の悪影響が消えるかのような話をされていますが、恒久的な消費税の悪影響がなぜ一度限りの補正で打ち消せるのか、首を傾げざるを得ません。

更には実質GDPの減少さえ肯定的に書かれるとなると、もはや何を目的としたリフレ政策なのかわけが分かりません。 

もし、山本先生が単に財政再建を目指しておられるのなら、それはそれである意味納得ができます。

 ただ、デフレの今、国民経済を犠牲にしてまで、完済の必要がない政府債務削減を急ごうという理由は正直理解しかねます。そもそも、1997年のデフレ下の緊縮財政では、政府債務増加にはずみがつくだけ、というのが教訓でした(図表3)

1997年の消費税増税などの緊縮財政では却って政府債務の増え方が大きくなった

図表3 政府粗債務対GDP比の推移
出所:世界経済のネタ帳のデータから筆者作成
縦軸:パーセント。財政再建を狙った消費税増税、緊縮財政の1997年頃から債務指標の増加が加速し、景気が良かった2006、7年頃には逆に債務指標は減少に転じている。

3.いずれにしても、私が「消費税増税をしても、金融政策がしっかりしていればデフレ脱却は全く心配がない。」と考える理論的根拠は、「ワルラス法則」と呼ばれるものにある。「ワルラス法則」というのは、経済というものは実物財だけ分離して議論していては駄目で、貨幣も入れた全体で考えなければならないというものである。

簡単に言えば、実物財(=実質GDP)の世界で超過供給(需要不足)が生じているということは、貨幣の世界では超過需要(供給不足)が生じているということを意味する。つまり、それで全体の均衡が成立しているのである。従って、実物財の世界でデフレが生じているのは、貨幣の世界でお金の量が足りないからなのだということが言える。これが、「デフレは貨幣現象である。」という根本理由なのである。

この「ワルラス法則」を理解するには、経済学の高等レベルの知識が必要なので、一般の方々には無理に近いのかもしれないが、経済学者と呼ばれる方々でも理解していない人が多いのは困ったことである。

山本先生、ワルラス法則も結構ですし、デフレが貨幣現象と捉えることも間違いとは思いません。
ただ、だからといって1997年の増税の悪影響をもはや忘れ果てたかのような議論は意味を持ちません。 

デフレでリストラに遭ったり、賃金を減らされたり、更には自ら命を絶ったりしたデフレの被害者が国民には多数いることを忘れないでください。
1997年以降3万人台で高止まりした自殺者(図表4)が昨年ようやく2万人台に減少してきました。

ここでまた消費税を上げた結果、再び自殺者が増えた時、山本先生は彼らを死に追いやった責任が取れるのですか?
それとも「ワルラスの法則からは自殺増大は導かれないので、そんな死は自分とは関係がない。」で済ませますか?

消費増税の1997年を境に自殺者は3万人の大台に乗った。

図表4 自殺者数推移
出所:平成23年版 自殺対策白書
自殺者は1997年以来高止まりしている。

山本先生。いい加減、デフレ経済を続けるのはもう止めましょう。誰の得にもなりません。
また、安倍首相を消費増税に誘うのも止めて下さい。お願いします。

【参考】日本再生 政策アピール NO.7 (2011.9.15) −復興増税がなぜ駄目なのか−
山本先生。この主張と、現在の主張。合理的につながってますか?