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量的緩和期のMB・MS・物価の関連性

 「日銀がマネタリーベースを積み上げていけば、マネーストックが増え、ついには物価が上がる。」
リフレ派ではおなじみの理論です。 現在の黒田日銀もその考え方に沿い異次元緩和と称して多額のマネタリーベースを積み上げつつあります。その額、5月末で157兆円。かつてない規模に膨れ上がっています。

今回の黒田日銀の異次元緩和はまだその行くすえが見えていませんが、中原伸之元日銀政策委員会審議委員の建議を受けた速水総裁時代から福井総裁時代にかけての2001年から2006年には、今と同様に金融緩和(量的緩和)が進められていました。

この当時のマネタリーベース(MB)とマネーストック(以前はマネーサプライ、以下MS)および物価の関係を改めて見てみました。 ここでの物価としては上方バイアスがあるとされるCPIではなく、GDPデフレータを採りました。(図表1)


図表1 量的緩和期のMB・MS・物価(GDPデフレータ)推移
出所:MBとMSは日銀時系列統計検索サイトGDPデフレータIMF World Economic Outlook Apr.2013
いずれも1999年=100として指数化した。

リフレ派として気になる点は、MBあるいはMSが増加してくにも関わらず、物価指標のGDPデフレータは年率マイナス1%程度のペースで安定的に低下していることです。
指数化した水準では変化が見えにくい可能性もあるので、指数の前年比の変化も見てみました。なお、物価は月次ベースのデータがとれ、かつ上方バイアスが小さいとかんがえられる東大物価指数を使っています。(図表2)

図表2 量的緩和期のMB・MS・物価(東大物価指数)の対前年比推移
出所:MB・MSは図表1に同じ。東大物価指数は東大物価指数月次データファイル

図表2を見ますと、MBの対前年比はMSの対前年比とかなり連動していることが分かります。ただし、変化の幅はMBのスケールをMSの5倍で表示しています。

ただ、問題は、物価がMSとも、また日銀が直接操作可能なMBとも全く連動していないことです。

リフレ派の一部の方からは、2006年に福井総裁がMBを大きく減らしたために、目前であったデフレ脱却ができなかった、という論調が聞こえます。
しかし、データを見る限り、福井総裁がMBを減らした2006年前後で、またMSでさえ、その水準(図表1)、対前年比(図表2)でも、数ヶ月グラフを前後にずらそうとも物価に悪影響を与えた様子はは認められないのです。

そうすると、金融緩和だけに限れば、速水・福井日銀の量的緩和ではデフレ脱却はできないのに黒田日銀の異次元緩和ではデフレ脱却できる要因とは何なのでしょうか。

そうした要因があるとするならば、インフレ目標を2%に掲げることで、デフレ期待をインフレ期待に転換しようとしていることが考えられます。

ただ、インフレ目標を2%に掲げた黒田日銀の場合でも、期待インフレ率(BEI)は5月中旬には2%まで上昇していたものが直近では1.5%を割り込んでいます。*1

黒田日銀では、長期国債市場のボラティリティ沈静化にはかなり意を用いているようですが、市場で決まるBEIやBEIと連動性が高い株価水準にはそれほど高い関心があるようには振舞ってはいません。
政府日銀ではインフレ転換には2年かかる、と元々言っているところですから、政権と新生日銀が発足して半年以内での成果を求めるのは勿論性急なことではあります。
ただ、5年かかってもデフレ脱却できなかったかつての量的緩和を振り返り、政府・黒田日銀はそれから何を変えることで2年以内でのデフレ脱却をするつもりなのかは再点検しても良いように思われます。

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