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政府紙幣発行の問題点を考える【1】 与謝野元財務相の場合

先日、バブルを介さず、金利も上げずにデフレ脱却する方法について書きました。
結論は、一言で言えばデフレ脱却には、政府紙幣の発行か、日銀による国債の直接引き受けがメリットが大きい方法だということでした。
しかし、政府紙幣には問題点を指摘する声や、反対論が少なくありません。
今回以降何回かで、こうした意見を詳しく検討してみたいと思います。
まずは、元自民党の論客として知られ、政府紙幣絶対反対を唱えることで知られている、たちあがれ日本与謝野馨氏の場合から。
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平成21年03月25日 衆議院財務金融委員会 議事録より(箇条書き筆者)
1.政府紙幣は論ずるに値しないと思う。 
2.敢えて言えば、市中で日銀券と並行して政府紙幣が流通される場合、取引で必要な量を超える等により政府紙幣が金融機関を経て日銀に還流するため、そのときには引き取るための財源が必要であること。
3.政府紙幣を日銀に資産として保有させることは、無利子、無期限の国債の日銀引き受けと同じであり、インフレに対する反省に基づいて規定された財政法第五条の趣旨に反すること。
4.中央銀行と並行して政府が紙幣を発行するのは世界的に見て異例であり、混乱を招きかねないこと。
5.安易な発行に流れ、財政規律を失うことがある。これは論外である。
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では与謝野氏の反対論の中身を一つ一つみてましょう。

1.政府紙幣は政府関係者が論ずるに値しないか?
バブルを介さず、金利も上げずにデフレ脱却する方法でも触れましたように、
政府の歳入(主要財源)=税収+国債+通貨発行益
なのです。
デフレで税収が落ち込んでいて、その上、国債残高が800兆円を軽く超えるなか、最後の主要財源である通貨発行益が論外、というような財務大臣はそれこそ論外でしょう。 まずは論じて、問題があればそこに焦点を当てて検討すればいいだけのことです。それとも、与謝野氏は財務大臣の立場で税収に問題が生じれば、もう税について語るのは論外、あるいは国債が積み上がれば、もう国債について語るのは論外、という程度の認識で税や国債についても語っていたのでしょうか。

2.政府紙幣を市中に流通させれば…
 たしかに政府紙幣を市場に流通させることも可能ですが、政府紙幣活用の最善手とは言えないでしょう。市場の混乱をなくすためには、政府紙幣を政府と中央銀行間のみで流通させる方が優ります。 10兆円単位の政府紙幣、あるいは電子版政府紙幣を日銀で、同じ価値を持つ日銀券と両替して政府財源とする場合にはこの市場流通紙幣の回収問題は発生しません。

3.政府紙幣を日銀に資産として保有させることは、無利子、無期限の国債の日銀引き受けと同じ
これは与謝野氏の指摘の通りです。仮に国債から金利を切り離してしまい、元本だけとすれば、これは政府が日銀券との交換を保証していることになるので、無利子国債とはほぼ通貨と同義です。ただ、「インフレに対する反省から生まれた財政法第五条の趣旨に反すること」こそ、現在のデフレに対し、政府紙幣が有効であることを与謝野氏自ら語っていることに気がついているのでしょうか。 インフレ真っ只中の昭和22年に制定された財政法第五条なぞ、デフレ脱却に必要ならば改正すればよいのです。 デフレの中でもインフレが怖いのならば、海底に住むタコでも火事の心配が必要です。

4.中央銀行と並行して政府が紙幣を発行するのは世界的に見て異例。
 現代でも香港では中央銀行券と政府紙幣が並行して流通していますし、政府費用の直接ファイナンスが異例、との指摘であれば、2007年、中国政府は、半固定の元相場をファイナンスするため国債を発行し、一旦それをすべて国有商業銀行である中国農業銀行が買い取り、それを直ちに人民銀行が買い取ってファイナンスしています。これら香港政府、中国政府の金融政策について与謝野氏はどんな問題が発生しているというのでしょうか。
 それよりも、日本が10数年来、世界唯一のデフレ国であることから考えて、世界史上最長のデフレに痛痒を感じない人間が昨今の財務大臣中央銀行総裁に収まっていることの方が世界的にはるかに異例なのではないでしょうか。

5.安易な発行に流れ、財政規律を失うことがある。 
 政府紙幣発行により「安易な発行に流れ、財政規律を失う」か、ですが、現代日本において、政府が財政規律を失った状態とは具体的には一体どういう状態が想定されるのでしょうか。
 戦時中のように日本の生産能力が消失しているのに、戦費が必要、といった具合に、需要過剰・生産不足状態のもと、政府が自らの勝手な都合でカネを発行するのであれば、「安易な発行に流れ、財政規律を失う」という懸念も現実味を帯びます。
 ところが今の政府紙幣発行論は、日本に有り余る生産能力があり、それがデフレまたはこれと双子の関係にある円高により活用されないこと(デフレギャップ)を埋めるためのものであり、需要不足・生産過剰状態のもと、政府紙幣を財源に「財政規律を失って」くれるのであれば、その紙幣は必ず民間に流出することとなり、政府が国債残高を増やすことなく、旺盛な政府需要を発生させてくれるということですから、これに応えれる(=儲かる)民間としては諸手を上げて賛成でしょう。


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