シェイブテイル日記2

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サルでもわかるあなたの賃金が上がらない理由

日本経済が停滞しています。その中で平均賃金が下がり続けています。日本人全員の収入が減っているわけではないのに、もしかしたら、あなたの給料はどんどん下がっているかもしれません。 その理由を考えたことはありますか?

個人個人の給料は勤め先の状況などのミクロ経済と呼ばれるもので決まります。ところがそのミクロ経済は目に見えにくいマクロ経済というものに支配されていることをあなたは意識したことがありますか。 
このあなたに直結しているミクロ経済とマクロ経済の繋がりを、字が読めれば経済学を知らないサルでもわかるように分析してみましょう。
意外かもしれませんが、あなたの給料が上がらない原因が日銀にあることにきっと納得していただけるでしょう。

【2012.08.14追記】「なぜ企業業績が回復しているのに給料は上がらないのか」関連リンクからいらっしゃった方へ。 「なぜ企業業績が回復しているのに給料は上がらないのか」では、労働分配率という枠組みであなたの給料が上がらない理由を説明されています。 ただ、それだけでは労働分配率を掛ける相手となる企業売上がなぜ上がらないのかという、あなたの給料が上がらない本質的理由に目が向けられていないように思います。 
 以下は、正直なところを言えばサルには難しくて理解できない話かもしれませんが、現代日本であなたの給料が上がらない、あるいはサラリーマンの平均給与が継続的に下がっていくという世界でもほとんど例がない異常事態の原因について述べています。



図1,2 下がり続ける平均賃金と足踏みを続ける日本経済
OECD諸国でこのような状況は日本だけだがなぜ低賃金なのだろうか。
ちなみに、少子高齢化OECD諸国の多くが抱える問題で日本特有ではない。
人口減少さえ、ロシア・ウクライナでは日本より急速だが、物価は上がっている。

カギとなる考え方は、日本経済をひとつではなく、性質の異なる部門の集まりと見て、それら相互のお金のやり取り、増減を考える、ということです。
あまり細かく考えずザクッと次の図3を見て下さい。

図3 日本経済はいくつかの性質の異なる部門の集まり
日本経済を8つの部門に分けてみよう。
この図を眺めると、消費税など税は、勤労者つまりあなた(3)の手元からなくなるが
実際には消えたわけではなく、あなた(3)から一旦税(8)に移り、(8)の中で事業費に
使われたり、更に(4)や(7)の人件費に所得移転されたりしていることなどが分かる。

 図3で示したこれらの部門の中には日本国内の物価の影響を直接受けるセクターと受けないセクターがあります。
実質民間部門(2企業、3家計(労働者)、8政府支払・受取)は物価の影響を直接受け、5民間金融部門は影響がまちまち、1外国人と実質政府部門(4家計(年金)、6中央銀行、7家計(政府職員))は市場競争から隔離され、物価の影響は直接受けません。

このブログを今読んでいらっしゃるあなたは、「3家計(労働者)」に属しているかも知れません。
そうであれば、3家計(労働者)の部門にマネーが流れる(表では”+”で表示)の施策が賃金上昇に有効な施策、ということになります。
ただ、もしあなたが「4家計(年金)」、「7家計(政府職員)」ならば、同じ施策で収入が増えるとは限りません。


表1政府の施策などと物価賃金への影響(1)
マクロ経済施策により、ある部門にマネーが流入するなら”+”、マネーが流出するなら”−”、変化がないなら”0”と表示した。
この表の中でひとつ注意すべきなのは、消費者物価・企業物価では外国とのお金のやり取りが含まれるのに
赤枠内)、国内総生産つまりGDPでは外国人は関係なく、代わりに政府とのお金のやり取り(税金・補助金・政府事業費)
などが含まれるということ(青枠内)。 
例えば資源高騰で消費者物価・企業物価は上がるが、あなたの賃金に連動する、国内生産からみた物価は下がる。
国内物価の影響を受ける部門(最初の絵の2,3,8)は緑セルで、受けにくい部門(1,4,6,7)は赤紫セルで示した。

 このことを押さえればもうしめたもの。
あとは、原油上昇や消費税増税などが日本経済に与える影響を具体的に見てみましょう。

1.資源価格上昇
原油など資源価格が上昇すると、外国人への支払が増え、消費者物価指数(CPI)は騰がります。ところが、国内生産からみた物価(GDPデフレータ)は逆に国内に出回るお金は減りデフレとなりますから、資源高の消費者物価高騰は生活物資の値上がりの他、あなたの賃金にも悪影響があります。
ただし、だからインフレは悪で、デフレは善、と思い込んでいる方は先入観を捨てて次に行きましょう。

2.CPI0% +消費税
CPI(消費者物価指数)が増減しないように日銀が資金調節した状態で消費税を取られるとどうなるでしょうか。消費税は政府収入となりますが、企業収入、勤労者所得が減ることから、消費税収増以上にトータル税収は減ります。これは事実であり、その証拠に、このエントリーの下にあるビデオの終わりあたりで財務省幹部自らが、消費税増税で税収は減る、と答弁するシーンがあります。また、消費税の必要性を謳った財務省のウェブサイトの税収推移でさえも、前回の平成9年消費税増税以来、消費税は増えたが他の税収が減っている状況が確認できます。 結局消費税を増やしても、税収が減りますから年金増額や事業費増額などに使われていませんし、ましてや民間にはマネーは還流しません。 民間では、年度末に企業の収支が判明した時点で、その企業の付加価値の5%を消費税として国に取られますから、事業運転資金は減ります。 これが原価を抑制したり、賃金を抑制する原動力となっています。 民間の経済活動も抑制され、税収全体では上記のように増えるどころか却って減ります。 CPIには上方バイアスと呼ばれる高めに出る誤差が常にありますが、日銀はその誤差がないかのように資金を吸い上げますので、日銀では資金が増えるでしょう。 中央銀行は不換紙幣のカネを好きなだけ自由に刷れる立場ですから、日銀にカネが増えても国民経済には何の意味もありません。 これが現在の日本経済です。*1

3.CPI0%+消費税アップ
先の2.の民間からの資金吸い上げの強化ですから、デフレが加速しあなたの給料も更に加速して下がります。
ただ、最終輸出業者だけは、原価分も含めた全ての付加価値をあたかも自分でつくり出したかのように、政府から輸出分の還付を受けますから、最終輸出業者は消費税アップで、マネーが増えます。 経団連など輸出大手企業が牛耳る組織は日本経済(中小零細)が破綻しても海外に拠点を移せば済みますので、消費税増税は大賛成です。

4.成長企業への資金貸出
金融政策を司るはずの日銀が最近成長企業への資金貸出など財政政策に手を出しています。ただ、日銀が何をするのか、といえば市中銀行当座預金口座にマネーを積んでおくだけですから、デフレで実質金利が高い中、成長企業と言えども実質高金利には手を出しにくいところでしょう。 日本経済への影響はほぼゼロです。


表1政府の施策などと物価賃金への影響(2)表1の続き
この表から分かることは、3家計(労働者)にマネーが流入する施策はことごとく日銀がマネーの出し手となっている

5.建設国債
さて、なつかしい建設国債の影響はどうでしょうか。国債は借金です。主に市中銀行から借ります。借りた資金でハコモノなどを造れば、ある程度民間にはマネーが流れます。ところが、連綿と建設国債を発行すると、償還期限が来た国債は銀行にマネーを返さなければなりません。国債の場合、元本部分は無限に借り換えが可能ですが、金利はどんどん膨らみ、これは市中銀行に返さねばなりません。 ただし、市中銀行国債を借りたカネは、民間の家計や企業から借りているのですが、貸出金利と借入金利の差は、市中銀行の儲けになるだけです。 国債を積み上げれば、短期のみ民間が潤い、中期的には市中銀行が儲かるという図式です。更に長期には積み上がった国債金利が上昇し始めると、国債価格は下落し、市中銀行には巨額の損失が出る可能性が出てきます。

6.金融緩和
現在日銀が行なっている金融緩和とは、数十兆円のカネを市中銀行に積んでおく、というものが主体です。もう少し正確にいえば、市中銀行から国債の買いオペをしたり、最近では株式指数連動ETFREITも買い入れ対象となっていますので、市場活性化に直接寄与する部分もわずかながらあります。こうした施策で債権・株式を多量に保有する企業や銀行は助かるでしょう。 ただ、株式投資が多い年金生活者はともかく、給与が下がっているサラリーマンにマネーがすぐに渡る政策ではありません。いわばマネーの染み出し部分が給与に反映されるかもしれませんがそれには時間がかかり景気好転を実感できるのはずいぶん時間がたってからかも知れません。

7.国債の日銀引受け+政府事業
【2012年8月14日追記】国債の日銀引き受けは、政府が発行した新発国債を日銀に引き受けてもらう政策で、戦中の馬場硏一蔵相による馬場財政がこれを用いて、戦費調達に使われたため、今でも余り評判が良くない政策ではあります。 ただ、これは現代でも普通に実施されている、国債の市中発行と日銀による買いオペとを同時に実施しているような政策ですので、国債の日銀引き受けをこれら二政策の同時発動に置き換えて考えていただいても結構かと思います。
 
国債の日銀引受けがしばしば議論の対象となります。政府が発行した国債中央銀行が買うのですから一旦は政府の資金が増えます。これを例えば年金維持(あくまでも維持)に使うだけなら、年金額は一定でありインフレ・デフレには殆ど影響はないでしょう。 

しかし日銀引受けに加えて政府事業を行ったり、直接企業や家計に補助金を出せば、まず民間が直接潤います。 でも一部もしくは全部が貯金に回るかも知れません。
ただ一部だけでも民間のマネーが増えればこれで企業の売上が増え、生産増強のため設備投資が増え雇用も増えます。勿論あなたの給料も増えるでしょう。 更に政府事業を実施するか補助金を出せばついにはインフレを脱却し、もはや貯金は不利になります。その段階となれば、国債の日銀引受けは有害無益です。 日銀が引き受けた国債は市中で売却消化すべきでしょう。 これは昭和恐慌時に高橋是清が採った政策(高橋財政)そのものです。

8.政府紙幣日銀両替
 政府紙幣というものがあります。日銀が発行するのではなく、中央政府自身がマネーを造るのです。中央政府にはマネーを造る権限があり、通常は連結子会社にあたる日銀にその業務を委譲しているのですが*2、政府が直接紙幣を発行することは当然可能です。ただ、現代日本では硬貨類は法的に認められていますが、高額紙幣などは国会決議が必要でしょう。

 そこで、私案ですが、折角高額の政府紙幣を発行する決議を国会でするならば、電子的に政府紙幣を10兆円の桁で発行し、日銀に日銀券と両替してもらいます。
そうすれば、市中に複数の紙幣が流通することもなく、日銀のバランスシートがちょっと膨らむだけでマネーが生じます。というか、政府紙幣もマネーですから「両替」ですね。さて、こうして得た日銀券は、国債と異なり諸悪の根源である利子がつきません。これを国民全体に50万円あるいは100万円配れば、相当な需要が喚起されます。 戦後の焼け野原日本とは異なり、空襲もない平成日本では大量の機械設備が遊休し、失業者も大量にいます。この生産力が喚起され、完全雇用に近づくまでは物価の上昇は限定的です。 インフレ目標を2%程度の正常値となるよう日銀が監視し、多すぎる紙幣が出まわっていれば得意の金融引締めで紙幣を回収すればいいのです。
日銀の保有する政府紙幣(電子マネー)を日銀券に逆両替して、政府紙幣の対応する日銀券を吸収することもできるでしょう。

以上で分かっていただけたでしょうか。
現在の政府・民主党は日本のデフレを加速しあなたの賃金を減らすことに血道を上げているだけだ、ということが。
また日銀もCPI=0%のマイルドデフレ狙いを止めず、国債の直接引受けや政府紙幣両替といった有効な施策に封印していることが。
政府・日銀がマイルドインフレを目指せばあなたの給料は他のOECD諸国同様必ず上がるのです。

表で示したように、デフレの日本で賃金をあげるには中央銀行の日銀がマネーを出す以外に有効な策はないのです。
 あなた自身が政府・日銀が低賃金加速政策に邁進することにNO!と言わない限り
、あなたの賃金が上がることは今後ともないかも知れません。

最後にもう一言だけ。
下のグラフは、劣等感に関する自己認識について各世代にアンケートで聞いた結果です。
この20年間のデフレ・不況だけ続く時代に育った若い人々の心は知らず知らずのうちに劣等感が植え付けられていることが分かります。 給料が少ない、職がない、結婚できないなどで自分を責めることはないのです。 
なんといっても1997年以来続く政府日銀のデフレ不況維持策が悪いんですから。

日本の各世代の劣等感JMR社調査
[各世代の生年]
焼け跡世代:1925-'45年、団塊世代:'47-'49年、断層世代:'51-'60年、新人類:'60-'70年、
団塊ジュニア:'71−'74年、バブル後世代:'75年-'86、少子化世代:'87年-94年


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【2012.4.30追記】
原油価格が上がったら、それを企業が価格転嫁しないからデフレになるのでは?」という意見をいただきました。
図3で原油価格が上がれば「2企業」の売上の一部が「1外国人」に行き、国内に回るマネーが減ります。経営者は運転資金が減って、価格は価格転嫁できるものならしたいでしょうが、買い手の企業や家計も外人にマネーを持っていかれてマネーが減っていますから買ってもらえません。すると企業経営者はせめて、価格維持はしたいわけです。とはいえ、どの企業でも価格が維持されれば原価が下がりません。従業員給与や諸経費も減りません。なのに外国人に取られた分は運転資金が減る。 となれば同じ性能に近く、価格が安いもので代用するでしょう。 家計も同じで、旦那が昼食をレストランでとるのを止めさせ、定食屋にし、更にはほか弁に代えてもらい、ついには手弁当。 これが下級財シフトというやつで、日本のデフレの実体は、下級財シフトの影響が少なくないでしょう。 でも、日銀が物価指標とする消費者物価指数CPIは、「同じ商品バスケットを買うとした場合」トータル価格が上がっているか下がっているかを見ていますが、下級財シフトは無視です。だからマネーの量を日銀は常に減らしてしまい、デフレ目標政策となっているのです。 日銀を除くまともな中央銀行は、インフレ目標を2−3%に置いて、下級財シフトによる測定誤差を避けようとしています。
 なお、消費税を上げれば、今の話の「外国人」を「政府」に置き換えただけのことが起き、日銀デフレが加速します。
【2012.4.30追記2】
蛇足ながら、「4家計(年金)」「7家計(政府職員)」も一応物価連動になっているはずなんですが、なぜ「3家計(労働者)」のように収入が減らないのでしょうか。それはまず年金については、「物価」といっても真の物価(GDPデフレータ)より高めに出るCPIに連動し、なおかつ政治的にCPIの下げさえも連動させず維持してしまっているからです。政府職員、つまり公務員給与は人事院の調査に基づき「民間に準じて」給与を決める、というのですが、50人以上の企業の平均給与に準じる、ということでまずサラリーマンの5割を占める中小零細を無視。その上、民間では正社員から非正規へのシフトがどんどん進んでいますが、それも無視して同じクラスの肩書きの民間人を想定して給与を出しているそうで、こちらもCPIと同様、どれだけ精密に測定してもはじめから上方バイアスがあるので、公務員給与は下がらない、というわけです。 ただ、「じゃ、公務員給与をいまの700万から400万にさげろよ」とお思いでしょうが、日銀がCPIを0%に維持したままで公務員給与を減らしたら、図3からわかるように、民間に出回るマネーは減るだけですのでデフレはひどくなります。減らしたマネーを民間に戻す財政政策とセットで初めてデフレが抑制されます。 そんなめんどくさいことをするくらいなら、日銀がCPI2%程度になるようにマネーを出せば、今度は役人の給与は上がらず、民間だけ上がりますから、官民両者の給与差は縮まります。


消費税を上げれば税収全体は減る、と財務省幹部が自ら語ったビデオ 
ビデオの45−47分目に、問題の財務省主税局長発言がある

*1:現在の日本経済のイメージは「日銀・財務省による日本経済桂剥き効果」に書きました

*2:注:日銀はその株式の大半を日本政府が持つが、FRBは政府機関ではなく、私的銀行が資本を持っている