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日銀法改正を自ら呼び込む日銀

[デフレ][日銀]
【要約】
・日銀は現在の金融緩和の限界をほのめかせています。その限界とは日銀の自主ルール「日銀券ルール」です。
・日銀はインフレ目標を1%とする一方、インフレ率が1%になるのは2014年ころと「予報」しています。
・どうやら日銀はインフレデフレを自然現象と思っているようですが、日本の14年連続デフレが自然現象とするなら、それは3百兆分の一の奇跡が日本で起きていることになります。
・日銀券ルールの生い立ちや中央銀行の財政ファイナンスについて考えていくと、現在の日銀はみずから日銀法改正を呼び込んでいる状況と思えます。

今朝の日経は、日銀・白川総裁が、金融緩和に限界をほのめかせている、と伝えています。

日銀追加緩和、見え始めた限界 日経 2012/4/28 0:14  
日銀は27日の金融政策決定会合で追加金融緩和に踏み切った。2月に決めた強力な金融緩和で消費者物価上昇率1%を目指す方針に沿った形だが、会合後の白川方明総裁の記者会見は、どこか歯切れの悪さを感じさせた。市場関係者の間では会見内容について「市場に催促される形で続けてきた追加緩和が限界に近づきつつあるとのメッセージではないか」との指摘も出ている。
 1つの数字がある。日銀の金融政策に詳しい東短リサーチの加藤出氏が今回の追加緩和を踏まえ、日銀が今後1年間でどれくらいの国債を買い入れることになるかを試算したものだ。結果は5月から来年4月までで43兆円弱。今年度の新規国債発行額約44兆円に匹敵する規模に達する――。
 こうした実情を認識しているためか、白川総裁は会見でこう切り出した。「今回の展望リポートでは、リスク要因として初めて財政の持続可能性を取り上げた」。加藤氏はこの発言について「日銀はいつまでも国債の買い入れを増やし続けられないという訴えとも取れる」と指摘する。実際、白川総裁はこのところ仏中央銀行が発行する論考集に財政の持続可能性に関する論文を寄せるなど、財政リスクへの警鐘をにわかに強めていた。
 それだけではない。白川総裁は記者会見で異例の発言にも踏み込んだ。「国債保有額は少なくとも年末には銀行券を上回る」
 日銀が財政規律を保つため、金融緩和手段である長期国債の買い入れで保有する長期国債の総額を銀行券(お札)の発行残高以内に収める「銀行券ルール」。今回の追加緩和は日銀が設けた資産買い入れ基金を通じて長期国債を10兆円程度買い入れるもので、日銀はルールに抵触しないとの立場だ。にもかかわらず、市場に財政リスクを意識させかねない発言に踏み込んだ背景には、今後も追加緩和で長期国債の買い入れを増やし続けることへの強い危機感がにじむ。
長期国債の買い入れを10兆円増額するという市場の事前予想を上回る今回の追加緩和は市場に「日銀はデフレ脱却に向け、円安・株高を後押ししてくれる」という期待感を抱かせた。日銀自身も、仮に米国経済の不透明感が増し、米連邦準備理事会(FRB)が追加緩和に踏み切る場合には一段の追加緩和が必要になると考えているはずだ。
 だが膨らみ続ける日銀の国債買い入れ額は長期金利の急上昇リスクとなって跳ね返るリスクと隣り合わせでもある。そんな苦しい事情を知ってか知らずか、市場は今回の追加緩和でいったん円安・ドル高に傾いたが、すぐに利益確定の円買い・株売りで緩和効果をそいでしまった。今後、さらなる追加緩和を催促する展開になる可能性は否めない。
 デフレ脱却は日本経済復活への重要命題。ようやく政府もデフレ脱却を協議する会議を発足させたが、今回の総裁会見は、政府・日銀が一体で脱デフレを急がないと大変な事態になりかねないとの警鐘に聞こえた。 (編集委員 小栗太)

日銀のウェブサイトで日本銀行におけるいわゆる「日銀券ルール」の歴史を振り返ると、

国債大量発行時代に、オペの対象債券に占める長期国債のウエイトが高まったため、「成長通貨の供給」というロジックで、日銀券の増発額を、フローの国債買入れ額の目処としたことが出発点であった。その後、量的緩和政策を採用した際、財政ファインスの目的で国債買入れを増額していると誤解されないために、日本銀行のバランスシート上の長期の資産・負債の対応関係というロジックを掲げ、日銀券発行残高を国債保有額の上限として設定したものである。

とされています。
財政ファイナンスのためと誤解されないために、国債買取額に上限を設けているというのです。
確かに最近でも白川総裁は

日銀では、こうした大規模な国債買い入れが、市場から財政ファイナンスと受けとめられることを強く懸念している。白川方明総裁ら幹部は講演や会見などで、日銀による国債買い入れは財政ファイナンスが目的ではないと再三にわたって強調し、「財政ファイナンスを目的として国債を買っていると万が一思われると、どこかの段階で長期金利が上がり、経済活動にも影響を与える」(白川総裁、3月27日参院財政金融委員会)と、警戒している。

と報道されています。*1
ただ、日銀が「長期国債の買い入れで保有する長期国債の総額を銀行券(お札)の発行残高以内に収める」という日銀券ルールは、世界でこのような自主ルールを定めている中央銀行はない、日銀独自のものです。

日本同様に長期国債の買い入れを行なっているFRBについて、そのコントロールを受けるカンザスシティー連銀総裁は次のように述べています。*2

カンザスシティー連銀のホーニグ総裁は、米連邦準備制度理事会FRB)の米国債購入計画は「債務のマネタイズ(貨幣化)に相当する」と指摘。同プログラムはインフレを誘発する可能性があるとの見方を示した。

 つまり、中央銀行国債を購入すれば、白川総裁がいうように長期金利が上がり、ホーニング総裁がいうようにインフレになる、こういうことでしょう。 
それはどこの中央銀行も一様に困ることなのでしょうか。
米国は現在インフレでもデフレでもない状態です。 日本はデフレ。であれば、ホーニング総裁がインフレ(それと同時にデフレ)を警戒することは理解できます。 しかし14年連続でデフレの日本がなぜインフレを警戒する発言を繰り返すのか。理解に苦しみます。
 日銀は、中央銀行国債などの資産買い入れ・マネー供給(表裏一体)をマネー供給によるデフレ脱却のメリットは考えず、金利上昇、それも名目金利の上昇というデメリット(?)にだけ注目して資産買い入れに限界が…、と語ります。デフレを脱却すれば、景気が回復し、また名目金利は騰がるでしょう。 しかし景気が回復して名目金利が騰がる、というただそれだけのことが日本を長年覆い尽くすデフレの害に比べてなぜ問題があると白川総裁が捉えているのかは語られていません。

学習院大学岩田規久男教授は

日銀は、徹底してデフレ対策に及び腰です。それは「日銀流理論」と小宮隆太郎が名づけた、日銀の責任を問われると、「それは日銀にはどうしようもない外部の経済活動によって引き起こされたものである」という責任回避するための理論に依拠しているからです。

と述べています。*3

しかし、デフレは自然現象ではありません。
世界中で物価(GDPデフレータ)が対前年比マイナス国数を、IMF World Economic Databaceで利用可能な1981年〜2011年の31年間で調べたところ、世界184カ国中、毎年平均16.9カ国でした。デフレが自然現象と仮定し、この16.9/184≒1/10.8でデフレが起こるとしたら、14年連続物価マイナスとなる確率は、約3百兆分の一でした。*4

現在日銀は事実上1%のインフレ目標を掲げています。
それにもかかわらず、デフレを恐れるような発言を繰り返し、名目金利上昇などに目を奪われて、また少なくともここ2年はデフレを継続させることを示唆し、デフレ脱却に有効な施策には自ら封印する日銀。
日銀は自ら日銀法改正を呼び込んでいることに気がついていないのでしょうか。

【参考:三百兆分の一ってどんな数?】
日本が14年間デフレであり続ける確率は三百兆分の一。でもこの数字ががどんな数か実感は湧きにくいと思います。

小さな確率の一例が宝くじです。ジャンボ宝くじは1等当選確率がちょうど1000万分の一。
1000万分の一もかなり小さな数字です。 たとえば1年間にある人が交通事故で死ぬ確率を考えてみますと、年間5700名の人々が不幸にして交通事故で死亡していて、日本の人口は1億2593万人ですから、その確率は22,000分の一。ある人がその日に交通事故で死ぬ確率でさえ8百万分の一あります。ジャンボ宝くじをたった一枚買って当たる可能性は、買ったその日に交通事故で死ぬ可能性より小さいんですね。
3百兆分の一とはそのジャンボ宝くじをたった一枚買って当たる確率の更に3千万分の一、日本である人(例えばあなた)が今日この日に交通事故で死ぬ確率の4千万分の1です。
 つまりデフレが自然現象だとすれば、これを奇跡といわずして何を奇跡というのでしょうか。 

 現在の管理通貨制度では、政府日銀の適切な判断の下ならどれだけでも任意に刷れるはずの不換紙幣。かつての金本位制では紙幣量に上限ができるためにデフレになりやすく、その経験を踏まえた管理通貨制度なのに、管理通貨制度を採用する世界中の国の中で、継続的デフレは日本だけ。自ら日銀ルールなどという不換紙幣のメリットを封じるデフレルールを設定しているためです。
現代日本のデフレ。 それは日銀に鎮座する神の引き起こす奇跡としかいいようがありません。 ただし、貧乏神ですが。