シェイブテイル日記2

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再考・ケインズ経済学と量的緩和拡大

現在のアベノミクスでは、日銀が量的質的緩和で大量のマネーを金融機関に供給する一方、政府部門では財政再建を目指して緊縮財政を続けています。
この選択は正しいのか、ケインズ経済学モデルを改良した簡単なモデルを使って考えてみました。

中央銀行にしても、市中金融機関にしても、単に額面が同額の資産に対してマネーを創造するのですから、物価によらず、マネー創造機能はいつも同様に保持しています。*1

そこで仮に、これら金融機関にあるマネタリーベース(MB)・マネーサプライ(MS)をマネーの池にたとえましょう。(図1)  この図では、水面からの高さはマネー価値(の変化率≡マイナス物価:−p)を表します。*2
マネー価値によらず、中央銀行・市中金融機関同士の資金のやりとりは殆どコストがかかりませんので、金融機関では、マネー価値(の変化率:-p)は常にゼロです。(図1左側)
これをマネー流出・流入の基準・0レベルとしましょう。 *3

企業・家計の場合、物価pが負であれば、マネー価値(-p)が正となり、マネー池の水は外にでることができません(図1右側;いわゆる流動性の罠)。 逆に、民間は次第に高まるマネー価値から、債務返済に動くので、放っておけば陸側から池に向かってマネーが流れ込みます。 *4


図1 デフレ状態での「マネーの池」モデル
デフレで物価pが負ならば、マネー価値(-p)は正になっている。
これは陸地(民間)が池の水面より高い状態に相当する。
この状態では自然な水の流れは陸地(民間)→金融機関(池)となる。

黒田日銀では50兆円レベルで長期国債を買い入れるなどにより、毎年80兆円、マネタリーベースを拡大するいう、追加金融緩和策を打ち出しています。 この黒田日銀の追加金融緩和策をマネーの池モデルで表せば図2のようになります。


図2 デフレ下の日銀量的質的緩和策
デフレ(p<0)が解消していないため、マネー池の面積を増やしても、
レベル0は上下に変えられない以上、池(金融機関)から陸(民間)へマネーを流すことは不可能

図2でひと目で分かるように、量的緩和を進めて、マネタリーベースをいくら拡大しても、マネー価値(−p)を下げないことには、銀行の日銀当座預金(準備預金)が増えても、民間を巡るマネーの量は増えません。

■どうすれば物価は上がるのか
日銀は銀行の銀行であると同時に、政府の銀行でもあります。
もし政府が国債を財源に十分な規模で財政政策を行なえば、どうなるでしょう。

これを考えるために第二のモデル(改良消費関数)を考えます。
ケインズは需要(D)は消費(C1)と投資(C2)に振り分けられると考えました。
D=C1+C2
所得(Y)と消費(C)の関係について、ケインズは所得がなくても必要な消費Co(基礎消費)があり、残りが所得Yと消費性向cで決まると考えました。
ケインズの消費関数 C=Co+cY

図3 ケインズの消費関数C:消費、Co:基礎消費、Y:所得

しかしない袖は振れません。
現実にはまず所得(Y)ありきであり、そこから必要なだけ消費され、残りが貯蓄に回されるというのが実際的でしょう。
そこで、今現実と、無数のパラレルワールドがあると考え、条件として唯一所得(Y)だけが0から∞まで違っている、としましょう。そうすると 正しい消費関数はこんな形ではないでしょうか。

図4 改良消費関数
無数のパラレルワールドに所得(Y)だけ、違う値を与えるとすると、このような消費関数が描ける。Yoは物価を上げない最適な名目所得。*5
場合分けをするなら、

  1. 所得Yがゼロなら、自給自足する以外にはなく、消費Co=0となる。貨幣経済は消失する。
  2. 所得Y<最適水準Yoなら、生産財に余剰が発生しデフレギャップが生まれる。 
  3. 所得Yがちょうどすべての生産財を使う水準(最適名目所得Yo)であれば、完全雇用も達成され、インフレも生じない。
  4. 所得Yが生産財で生産できる水準を超え、Y>Yoとなればもはや価格を上げるしかなくなり高インフレとなる。

 1998年以降の日本はGDPデフレーターが負になり、デフレギャップが発生していますから、上の場合分けでは2.に相当するでしょう。

政府は、銀行とは異なり、マネー価値の壁(図1)とは関係なく国債を発行しておカネを借り入れ、財政政策により民間にマネーを撒くことができます。
財政政策によりマネーを撒いた場合の、マネーの池モデルは図5のようになるでしょう。

図5 十分な財政政策後のマネーの池モデル
十分な財政政策を行なえば、デフレでも名目所得(Y)に比例して消費が増え、増えた消費が物価pを引き上げる。
するとマネーの価値(−p)は負となり、池(金融機関)から陸(民間)へと自然にマネーが溢れ出す。

この再考・ケインズ経済学の考えが正しいとすれば、財政政策バランス上、現在のデフレ日本に必要なのは財政政策がメインであり、量的緩和の拡大は将来のデフレ脱却時に、不必要なバブル発生の温床になるだけの存在、ということになるのですが、皆様のご意見はいかがでしょう。

*1:担保が毀損した市中金融機関は信用創造に支障がありますが、ここでは議論から外します。

*2:物価(p)に対してマネー価値がマイナスpとなるのは、物価水準がA→A+ΔAとなる時、一定量の財に対するマネー価値の水準は1/A→1/(A+ΔA)と変化します。
 p≡ΔA/Aですから、 
 ΔA≡p・A=1/(1+p)・A つまりマネー価値変化率を物価変化率pで示せば 1/(1+p)となります。1に対してpが十分小さい時、
1/(1+p)≒1-p で、マネー価値変化率は-pで示せます。

*3:正しい物価指標ならば物価pがゼロで池と陸地のレベルは等しくなるはずですが、消費者物価指数CPIはデフレで特に上方バイアスがあるため、CPI=2%位がp=−p=0に相当するでしょう。

*4:日銀資金循環統計では、98年にデフレ化して以降、企業は債務を継続して返済して資金需要が負になっていることが確認できます。

*5:ここで言う物価とは理想の歪のない物価。上方バイアスがあるCPIで敢えて測ればCPI=2%程度。