シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

日本国債は危ないか、日本国債を危うくするものは誰か(3)

【要約】
近い将来日本国債を自国民だけで買い支えることは不可能となるでしょう。
その時日本国債を安定的に買い支えられる主体は日銀だけとなります。
ただもし、日銀が必要十分な国債を買い入れたとしたら、その時こそ日本の経済危機は去ることになるでしょう。

昨日のエントリーでは、経済成長がない状態で国が増税した場合、年金財源や国債償還に対する新たな資金源が生まれるというよりも単に増税による経済低迷が生じるだけ、というお話をしました。
更にその前提として、近い将来予想されるように、民間の預金残高と国の長期債務残高が拮抗した場合を考えると、財務省・野田政権や多くのマスコミの「年金の安心云々」といった説明とは異なり、民間で長期債務引受け能力が新たに発生することはないことも単純化したモデルで説明しました。 

 図1単純化した国の長期債務モデル(詳細は昨日のエントリー参照)
そこで、この単純化したモデルの前提を少し変えて、更に国の債務残高が増加すればどうなるかを考えてみましょう。
もういちど昨日の単純化したモデルの前提を書きますと、
・日本の長期債務は全て国債の形をとっている
国債は、全て国内で消化されており、その原資は国民(非金融部門)の預金だけから成る
・長期債務残高は預金残高と拮抗している

ということでした。 
ここから3点目の長期債務残高≒預金残高 という条件を長期債務残高>預金残高 としようとしても、1,2点目のどこかで前提を変えない限りこのモデルは成立しません。このモデルでは、更に国債残高を積み上げようにも、国債購入については需要のみであり供給源は枯渇しますから、新規に国債を発行しても100%札割れとなってしまいます。つまりこのモデルのように国民(非金融部門)が国債を買い支えるだけでは「破綻」は避けられない、ということです。

 図2 日本国債保有者割合(左)と米国債保有者割合(右)
 さて、ここからは単純化したモデルではなく現実世界に即した話になりますが、現実には国の債務の引受け手は自国民だけではありません。日本では国債の大半が国内保有ということは有名ですが、その内訳を見ると、66%が金融仲介機関(市中銀行・生保・証券会社など)で、その資金の出し手は家計と非金融法人(企業)です。これと家計の直接保有・その他を合計すると、民間非金融部門は直接間接合わせて72%に達します。残りは政府関係が政府部門・公的金融機関12%と日銀9%で計20%、そして海外が7%です。*1 単純化モデルとは異なり、現実の国債の保有者としては、自国民以外に海外と政府部門、特に中央銀行があるわけです。 先のモデルと実際の違いが顕著なのは米国債保有者の場合で、(図2右)国内保有者はわずか15%に過ぎず、残りは政府・中央銀行が58%と過半を保有し、海外も27%が保有しています。*2 このうち海外の投資家は、あくまで投資対象としての保有が主体ですから安定的保有者は限られます。
一方、中央銀行は無限に自国通貨を発行可能ですので、原理的には国債の最後の買い手として無限に国債を購入することも可能です。 
ただ、先日の欧州中央銀行(ECB)は欧州危機に臨んでも、欧州各国の国債買取りに消極的でした。これは、国債買取りにより、市中にマネーが溢れればインフレが発生するため、物価をコントロールする立場の中央銀行として漫然と国債購入に応じるわけにはいかないためと思われます。


ところが日本の場合、日銀が国債を積極購入したとしても、GDPギャップ(生産能力>需要)が大きいため、市中にマネーが出ていって当分困ることは何も生じません。 それどころか、市中にマネーが出ていけば、GDPギャップが埋まる過程で需要が高まる結果、雇用も生まれ、新規購買力が生まれて、デフレは解消します。 現在危機にあるインフレ気味の欧州とは逆に、デフレ日本では中央銀行国債積極買取りによってこそ日本の危機は脱出可能、ということです。
 このように日本国債の保有可能者を順番に考えていくと、今後更に政府長期負債が積み上がり国債金利が徐々に上がり始めた段階で、唯一国債の買い入れが問題なく可能であるのは中央銀行である日銀だけであることが分かります。 もし仮に日本国債の危機に際して日銀が「国債を絶対に引受けない」とでも表明すれば、国債金利は急上昇し、自国建て通貨の日本国債破綻という、通常あり得ないシナリオが現実化する可能性が出てくるでしょう。

 ただ、経済規模が日本より小さいイタリアの国債でさえ、破綻する恐れが出てきただけで、世界経済への悪影響はリーマンショックの再来あるいはそれ以上とされていますので、日本銀行が日本国債を買い入れてもデメリットが全くないにもかかわらず、日本国債を破綻するまで放置することを世界各国が許すはずもありません*3 。世界各国にとって、日本は「大きすぎて潰せない国」ということです。

 図3白川・日銀総裁 白川氏の主張では「日銀が国債を直接引き受けると表明した途端、国債金利は急上昇する」ことになっていますが、欧州危機のように、インフレが懸念される局面でさえ、中央銀行国債を買う、と表明すれば長期金利は下がりました。昭和初期の高橋財政期での日銀による国債直接引受けでも国債金利は下がっています。*4
 冷静に順序良く考えれば判る話ですが、逆に日銀が「国債を絶対引受けない」と表明した時こそ長期金利の急上昇が強く懸念されるのです。

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*1:資金循環統計(2011年第2四半期速報)

*2:the ownership of all US Treasury Securities at Dec 2007

*3:破綻の危機に瀕していない日本での国債については、海外各国は日本がGDPギャップを放置したままの、「円高自国窮乏策」を採っていることは全く嫌ではないはずですので、現在のところは海外から日銀に日本国債の直接買い入れを求める声は起きていませんし、それは自国利益にかなう当然の話です。

*4:日銀による国債直接引受でなにが起きるか-高橋財政期の分析-