シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

ウォール街・財務省複合体と経済学第三の危機

少し前になりますが、週刊エコノミスト9月15日号に京大名誉教授の伊東光晴氏が「現実から遊離する経済学」と題する記事を寄稿しています。

その主旨は、現代の経済学は第三の危機に瀕しているというものです。
この主張自身はリーマン・ショック以降、現実の経済に対して何ら有効な処方箋を出せない現在の主流派経済学に対する批判として何人もの人々から指摘されていることではありますが、伊東氏は現代経済学の瀕する危機のメカニズムまで踏み込んでいます。 かいつまんで引用します。

話題になったトマ・ピケティのことです。彼はアメリカの経済学の現状を批判して歴史経済統計の世界に入り、先進国の不平等批判への道に進みました。アメリカの経済学の主流は、人間行動についての仮説の上に数理モデル──人によってはゲーム理論を用いた数理モデルを作り、展開し、次々に新しい定理を生むというもので、その仮説が、現実に照らして真であるかを問いません。
(中略)
1971年、ガルブレイスは、イギリスからジョーン・ロビンソンを招き、彼女は「経済学の第二の危機」と題する講演を行いました。世界大恐慌後の経済に対処できなかった新古典派経済学の「経済学の第一の危機」は、ケインズが乗り越えなければならないとしたのでした。

 私は、このガルブレイス、ジョーン・ロビンソンに次のことを加えたいと思います。アメリカの、そしてその受け売りである日本のミクロ経済学の理論は、ケインズが批判した新古典派以下であると。
(中略)

ガルブレイスは、現にあるアメリカは巨大企業が支配する「産業国家」であるとし、社会に公正を求める「公正国家」による改革を求め続けました。それはニューディールからケネディに流れるガルブレイスの中にある理想主義です。しかし、アメリカの政治は、崇高な心を持つ道を歩みませんでした。民主党の大統領もガルブレイスには期待のもてない人たちでした。そしてもっと大きなことは、ガルブレイスアメリカの現実と考えた「産業国家」は変質し、アメリカが「新金融国家」へと変わったことです。

 それは1997年にコロンビア大学のバグワティー教授が指摘した「ウォール街財務省複合体」であり、その実体は、投資銀行による財務省支配であり、それによる政府支配でした。ウォール街の出身者が財務省その他に入り、再びウォール街に戻る。両者の間には「回転ドア」があります。回転ドアを通って投資銀行に戻れば高給が待っており、政府機関に入っては、投資銀行の求めるものをアメリカ政府の求めるものとして世界に求めてきます。それが、自由化、民営化、規制緩和、政府補助金の削減など「ワシントンコンセンサス」と呼ばれるものです。経営者の高額所得は、産業国家よりも一段と進み、投資銀行の集めた資金は、長期固定化されることなく世界的に流動しています。
 イギリスの国有企業は民営化され投資銀行に売られ、販売され経営に行き詰まりました。労働党党首ブレアは、アメリカの投資銀行から高給をもって迎えられたのです。
 こうした動きから経済理論が遊離しているところに「経済学の第三の危機」があります。

かつて、1930年代当時の新古典派経済学が、多くの失業者を生むメカニズムを解明できず、ケインズが解決に当たった「経済学第一の危機」、1971年ガルブレイス、ジョーン・ロビンソンが指摘した、成長が続いて雇用が増えても、貧困や格差などの矛盾が無くならない状況を新しい古典派経済学・ニューケインジアンが解決できない「経済学第二の危機」がありました。第二の危機は今も継続中といえるでしょう。

そして現在、米国が世界経済の標準としているものが、実はウォール街財務省複合体の意思であり、それを明確にした「ワシントンコンセンサス」であり、これに立脚したIMF世界銀行などの組織があり、これらの連携し合った意思により経営者や投資家の所得は一層増えるのに、一般労働者の所得は削減され続けるといった状況に、現代主流派経済学は何ら対策を講じられない、もしくは利用される状況、つまり第三の危機に瀕しています。

伊東氏が指摘している、回転ドアを持ったウォール街財務省複合体を体現した人々は例えば次の表のような経歴を持っています。

[:W480]
ウォール街財務省複合体人脈の例
ポールソンは「ライバル」リーマン救済に公的資金を投入することは一顧だにしなかったとか。
またファニーメイフレディマックを政府管理下に置く計画をウォール街に漏らしたとも。

引用文中登場したブレア元英首相は、従来の社会民主主義路線に米国流新自由主義を加えた「第三の道」路線を主導した結果、格差是正に失敗するなどした結果、労働党は2010年には大敗を喫しました。
ただ、ブレア氏自身は2008年以降、JPモルガン ・チェース一行からだけでも1000万ポンド以上を受け取っているとか。

ワシントンコンセンサスと呼ばれる主張がどんなものかも一瞥しておきましょう。

1.財政赤字の是正
2.補助金カットなど財政支出の変更
3.税制改革
4.金利の自由化
5.競争力ある為替レート
6.貿易の自由化
7.直接投資の受け入れ促進
8.国営企業の民営化
9.規制緩和
10.所有権法の確立

これらは小泉-竹中「改革」で主張され、今の安倍政権にも当たり前のように引き継がれていることが殆どです。

一覧の中になる「税制改革」といっても、財政再建のための消費税増税といいつつ、同時に法人税を引き下げて大企業経営者や外国人が多数含まれる投資家に利益貢献していますが、マスコミでは法人税減税が財政再建に逆行するなどの記事は余りみられないことも、ウォール街財務省複合体のための政策一覧と考えれば矛盾はないといえるでしょう。

経済学というのは本来経世済民のための学問であったはず。 

それがジョーン・ロビンソンが指摘した「経済学を学ぶ目的は、経済理論に対する一連の受け売りの回答を得ることではなく、いかにして経済学者にだまされるのを回避するかを知ることである。」といった状況から、更に、ウォール街財務省複合体のために積極的に利用される学問に劣化した状況から、本来の求められる姿を取り戻すのはいつのことなのでしょうか。