シェイブテイル日記2

シェイブテイル日記をこちらに引っ越しました。

中年フリーター問題を解消するための1枚の図

最近中年フリーターという言葉が検索ワードに急上昇しているようです。 

 「1億総活躍」と言うからには、まずこの問題に取り組むべきではないか。中年フリーターの増加だ。『週刊東洋経済』(10月17日号)が<絶望の非正規 データが物語る 中年フリーター273万人の実態>で、その切羽詰まった現状と老後破綻(はたん)が懸念される将来を報告している。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの尾畠未輝研究員が中年フリーターと定義する「35〜54歳の非正規職員・従業員(女性は既婚者を除く)」は、2000年ごろは150万人を少し超える程度だったが、直近では2倍近い273万人に急増している。平均月収は20万円前後、3人に1人が貧困状態にあるという。
(以下略)
Asahi Shimbun Digital 正社員として働きたくても働けない中年フリーターの実態 関口一喜

今朝のNHK週刊ニュース深読みでも中年フリーター問題が取り上げられ、短期利益に振り回され、人件費をコストとして切り捨て、中年フリーターを量産する企業の姿勢にも疑問の声が上がっていました。

曰く、昨今のアベノミクスによる景気回復で新卒者の就職は増えているのに、その多くが非正規雇用によるもので、新卒の非正規雇用者は将来の中年フリーター源であり、彼らの低賃金により、将来の日本の消費低迷まで決まってしまうというのに、企業はそんな簡単なことも予測できないのかと。

それにしても、この四半世紀、中年フリーターが量産される問題は、企業と中年フリーターになってしまう個人(家計)との間で解決可能な問題なのでしょうか。

これを考えるために一枚の簡単なスキームを描いてみました。(図1)

図1 マネタリーベースとマネーサプライの世界
民間銀行・日銀・政府だけから成るマネタリーベースの世界と、
我々がお金を使って暮らしているマネーサプライの世界の模式図。
このスキームは単純化のため、紙幣・コイン、海外は無視している。
両世界は民間銀行という一点だけでつながっている。

我々が使うお金は主に預金の形になっていて、補助的にお札やコインがつかわれていますが、説明を簡単にするために、お札・コインは図1のモデルでは考えません。 同じく説明を簡単にするために、外貨とのやり取りも無視します。

すると、我々のお金の動き(とモノ・サービスの動き)の大半は図の右側、マネーサプライ界に限定されています。 

我々は企業にサービスを提供し、企業はその対価の給料を銀行に振り込んで我々はそれを消費か貯蓄に回しています。

ところが、フリーターが増え始めたこの四半世紀とは、バブル崩壊とそれに続く橋本政権以後の緊縮財政の時期に重なっていています。

消費税が5%、8%とあがる過程で、このお金の動きに、新たにマネーサプライ界から政府に向けての左向き一方通行、つまり反対給付のない消費税増税が加わりました。*1

図1のスキームをみて、政府が家計や企業から税金を吸い上げるのに、市中銀行や日銀が関係するのか、という疑問も生まれるかもしれません。

政府は「政府口座」という財布を、日銀にしか持ちません。
そして日銀は政府口座と日銀当座預金という銀行の口座しか開設させていないので、政府が民間から税を吸い上げるには、民間→市中銀行(徴収代行)→日銀(口座振替)→政府口座 というルートでお金を吸い上げることになります。

それはともかく、このお金の流れは徴税ということで国民の義務とされています。
この徴税は、本来、政府が同時並行で、逆向きの流れに(ただし別の銀行口座)お金を流していわゆる再分配をおこなうことが目的だったはずです。

ところが、安倍内閣を含むこの20年ほどの政権の大半では、「財政再建」の名の下に再分配抜きの増税が常態化しています。*2

その結果、民間ではお金という名の椅子を巡って椅子取りゲームが繰り広げられ、弱者が椅子(お金)を取り上げられてフリーター、中年フリーターとなってしまうのです。 

ところが彼らは消費も弱いため、日本の経済活動をお金で測定した名目GDPはこの20年来500兆円前後をウロウロするだけであり、内需が拡大しないため、賃金を抑制して利益を確保したはずの企業は海外市場に目を向けざるを得なくなっています。

それにしても、中年フリーター問題の発端が、政府のマネー椅子取りゲームなのであれば、それを止めさせれば済む話ではないでしょうか。

政府がお金を吸い上げるのが徴税で、逆にお金を民間に撒くのが財政政策です。

財政政策の財源は税(図1で、マネーサプライ界から政府への流れ)だけではありません。 その他に政府債務、通貨発行益もあります。

政府債務は、政府が国債を発行して、市中銀行に買ってもらう流れ、お金は、(a)→(e)で政府口座に渡り、これを民間の誰かの口座に振り替えて財政政策が行われます。 その反対に、政府債務が数字としては大きくなりますが、その多くの部分が好景気による税収増として政府口座に戻っていきます。

通貨発行益の場合には、単に(e)で、中央銀行が財源になりますが、このスキームでみる通り、財政政策の財源として政府債務も通貨発行益も大差はないといえるでしょう。

税財源以外の政府債務や通貨発行益を財源とする財政政策を忌み嫌う向きも少なくありませんが、デフレ・ギャップがある日本では、インフレ転換が起きるまで何の副作用もない話です。

実際財政政策により、フリーターを正社員にする方法としては、NHKの番組で東京都が都の財源で実施しているように、中年フリーターに的を絞って、フリーターを正社員化するための補助金として使うのもいいでしょうし、低所得者に一律に配って消費先行で日本経済を拡大して正社員比率の拡大を目指すのも良いでしょう。 単に消費税を減税あるいは廃止しても良いでしょう。

要するに、大雑把に言えば、この20年の悪政の逆をすればいいだけです。

最近、リフレ派の方たちなどはアベノミクスにより新卒者の就職率向上などに胸を張るようですが、株価上昇などで一時的に雇用が改善しても、中年フリーター問題がアベノミクスで好転したとは思えません。

継続的に財政政策実施して、中年フリーター問題を解決すると同時に需要拡大によるインフレ転換をすれば、日本は今よりももっと住みやすい国になると思います。


*1:「反対給付はないというが、社会保障費として使われ、増えているではないか」と疑問の声が上がりそうですが、消費税増税に合わせて、給付水準が上がったわけではなく、高齢化による年金・医療費が自然に増えただけであり、年金支払いについていえば支払年齢の上昇のように、一個人としては支払い総額を抑制される一方です。こうした観点からみれば、戦後の高成長期、安定成長期という時代とは、定量化は難しいのですが、お金が政府から恒常的に民間に補填されている時代だったといえるのかもしれません。それにもかかわらず政府債務問題は全く問題にはなっていませんでした。 これは政府債務の絶対額が小さかったからというのはデータからみて怪しい見解であり、政府債務の伸びよりも名目GDPの伸びが大きければ政府債務の絶対額増は何ら問題ではないということでしょう。

*2:なぜか儲かっている企業への法人税は減税していますね。本当に政府債務を問題視しているのなら、法人税減税はあり得ない話でしょう。