シェイブテイル日記2

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ギリシャ危機と緊縮ポピュリズム

ギリシャが今日期限を迎えるIMFへの債務返済を履行するかどうかについて報道が錯綜しています。

IMF「ユーロ離脱の可能性も」 ギリシャけん制 ラガルド専務理事
   5月28日 独紙フランクフルター・アルゲマイネ電子版)インタビュー
・Greece delays 5 June IMF debt payment
   BBC NEWS 4 June 2015
ギリシャIMFにきょう返済へ 420億円、手続きに着手
   2015/06/05 01:55 【共同通信

いずれにしましても、ユーロ圏加盟国個々は自由に発行できず、実質外貨に相当するユーロですから、そう遠くない将来、ギリシャではユーロは枯渇することになるのでしょう。

これに対し、経済的合理性から考えて、ギリシャをデフォルトさせる選択肢はあり得ないだろうという見解を広瀬隆雄氏が自身のブログで示しています。

なるほど、ギリシャにはおカネはありません。でも今問題なのは、ギリシャにすでにおカネを貸しているEU,ドイツ、IMFなどが、継続してギリシャにおカネをかすメリットがあるか、無いかです。

ギリシャIMFとの間での話し合いは、目下、クライマックスを迎えています。

IMFは柔軟に対応すると繰り返しており、最初にはしごを外す張本人の役目をIMFが果たすことに、とても尻込みしています。

だからEUなど他の当事者とよく話し合って、コンセンサスを形成したいと発言しています。

それでも今週金曜日には一回目の支払期限が来てしまうので、もしギリシャがそれを踏み倒したらどうなるのか?という質問が先週のIMFの定例のプレス・カンファレンスで記者団から出ました。

IMFはそのような五月雨的に到来する支払い期限をギリシャがしくじった場合は、たんにバンドル条項を適用して、それはデフォルトと見做さないことを公言しています。

バンドル条項とは1970年代に定められた支払期限の月末一本化の措置です。これまでに実際にそれを使ったのはザンビアのみです。それは1980年代の出来事です。もしバンドル条項を適用してもさらにギリシャが支払いをしなかった場合、IMFはデフォルトではなく、遅延扱いにすると公言しています。

その場合、そこから長い時間をかけて支払の繰り延べが協議されるのが既定路線です。言い換えればIMFはどんなことがあっても自分からギリシャはデフォルトしたという断定することはしたくないのです。

すでにIMFは先々週代表団をギリシャに送り込んでギリシャ政府の資金切りに関してディスカッションしました。だから今週、ギリシャが支払うかどうかについては、かなり見当がついてると思います。

でもギリシャ国内ではいろいろ微妙な政治的駆け引きがあるため、ギリシャ政府の手元資金の状況をIMFが先にリースすることはしたくないと言っています。

またIMFギリシャのユーロ圏離脱はベースライン・シナリオ、つまり基本シナリオではないとしています。

さらにIMFは若しギリシャがユーロ圏から離脱しようとしたら、それを全力で阻止すると公言しています。

ギリシャがユーロ圏を離脱したら、ギリシャ経済そのものが大打撃を受けるだけでなく、ユーロ圏経済も大きな痛手を受けます。金融市場が混乱するかもしれません。

IMFは「それを阻止するかどうかはEUの肚一つだ」と発言しており、IMFは自分がトリガーをひくことは絶対にしたくないとしてドイツに下駄をあずけているのです。
  ギリシャはユーロ圏を離脱しないし、デフォルトも起こらない  Market Hack 2015年06月04日

IMFが、ギリシャデフォルトの引導を渡したくない、というのは、その通りだと思います。
またデフォルトさせない方がギリシャ以外の地域にとって経済的合理性があることも確かでしょう。

ただ、経済的にはその結論しかあり得ない状況でも、政治的に考えると、ギリシャがデフォルトし、ユーロ圏を離脱する可能性はまだ五分五分のように私には思えます。 

それは「緊縮ポピュリズム」の存在によるものです。
ポピュリズムは反緊縮」というステレオタイプ的見方は、いつでも正しいとは言えません。

少し過去を振り返ってみましょう。
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1997年ドルペッグ制を敷いていたタイで、不明朗な不動産取引をきっかけにヘッジファンドがタイバーツを売り浴びせる事態が発生した時、ドル準備が危うくなったタイ政府はIMFに救援を要請しました。 

 それまで順調に経済成長を続けていたタイは潜在的に返済能力を欠いていたというよりも、返済するためのドルという通貨の流動性に支障が生じている状態だったのに、IMFは節約(緊縮財政・高金利)と構造改革をタイに求めたため、通貨危機を引き起こし、それが更にインドネシアや韓国にも飛び火し、アジア通貨危機に発展しました。

 危機の構図はその数年前のメキシコ通貨危機とかなり似通っていたドルの流動性危機で、メキシコの場合には米国とIMFが共同歩調でメキシコを危機から救ったにもかかわらず、アジアでの流動性危機では米国は傍観し、IMF流動性危機に対して緊縮・構造改革の強要という形で危機発生の震源地となってしまいました。

その後、新興アジア諸国は同様のIMF危機に見まわれないよう外貨準備を積み上げるよう政策を切り替えました。

従って、IMFも無用な危機の震源地となった苦い経験から、今回はギリシャ破綻の引導を渡すのは回避したいという広瀬氏の見解は正しいように思います。

ただこの時、米国政府は、メキシコ危機は救済したのに、アジア通貨危機IMFに危機処理を任せ、自身は傍観もしくは救済拒否しました。

同様に、日本ではバブル崩壊後の1995年に危機が表面化した住専では公的資金を投入したのに、その後の長銀・山一の信用危機では救済が見送られ、短期間に金融機関の連鎖的破綻が発生しました。

更に2008年のサブプライム危機ではベアスターンズは救済したのに、続くリーマン・ブラザーズでは救済を見送り、リーマン・ショックが引き起こされました。

これら異なる時点での各政府の行動を並べて俯瞰すると、それぞれの二回目の危機は、最初の危機同様に経済的には救済が最善手であるのに、「前回の危機時のような、税金を使った救済はまかりならぬ」という大衆を背景にした、人為的危機だったように思われます。

仮に税金を投入できた場合、アジア通貨危機も、日本の金融機関連鎖破綻も、リーマン・ショックも、それらを引き起こさなかった方が、経済は順調に推移し、その投入額に見合うリターンは十分あったでしょう。

しかも実際には米国のドル、日本の円、ユーロ圏のユーロは、それぞれの中央銀行が好きなだけ発行して流動性を提供できるのですから、投入されるの資金が「税金由来」と決めつけるのは、家計と国家財政の区別がつかない大衆の目線に合わせた、政治的緊縮ポピュリズムと言わざるを得ません。

現在の欧州危機の事実上の震源地となっているドイツ(ギリシャではなく)では、憲法連邦政府と州政府の双方に均衡予算の維持を求める債務ブレーキ制度を組み込んだことで、ギリシャ救済に対する国民の支持は全く得られず、ユーロ発行権を持つECBもドイツの意向は無視できない可能性がありますので、経済的にはトヨタを擁する愛知県より経済規模が小さいギリシャの救済が最善手と解っている欧州政治家やECB・IMFギリシャ救済を見送り、1990年代以降何度も繰り返された緊縮ポピュリズムへの政治迎合タイプの流動性危機が今回も繰り返される可能性は少なからずあるのではないでしょうか。