消費増税「集中点検会合」備忘リストと舞台裏
来年4月の消費税増税の是非について、安倍総理大臣の判断の参考にするため、財界や労働界の代表など有識者60人から意見を聴く「集中点検会合」を8月26日から31日まで開かれました。ただ、その舞台裏は…。
今回の集中点検会合について、その舞台裏を語ってくれた官僚がいたようです。
「こうした有識者会議は賛成派7割、反対派3割ぐらいにするのが一般的。全体の意見集約を『賛成』にもっていこうという役所の意思が働くのは当然です。今回、女性を数多く入れた狙いはハッキリしています。家計を預かる主婦など価格に厳しい女性にも聞きました、と説明できるし、美人を入れれば、会議も注目される。ミソは上昇志向の強い30〜40代の女性を入れていることです。彼女たちは、意外にも役所や権威に弱い。有識者会議に出席させると、すぐに政府の意向を酌んでくれます」(経産省関係者)
日刊ゲンダイ8月27日 *1
会合には60名もの有識者が呼ばれました。この官僚氏の筋書きによれば、およそ40名の消費税賛成者が出てくることになります。蓋を開けてみれば60名中、消費税賛成者は44名だったとか(下記)。
ただ、それら賛成者の中には、消費生活者、中小企業団体、商店街振興組合など、賛成に回っても、およそ恩恵を受けるとは思えない人々の関係者も混じっています。
もっとも、例えば日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会副会長の青山理恵子氏は国税審議会委員など、すでに政府の審議会などの委員を歴任している立場で呼ばれた方々も多かったようです。
こうした会合を振り付けする政府関係者が増税を主導する官僚たちなわけですが、彼らは表に顔をだすわけではありません。
仮に安倍首相が消費税増税に踏み切ってしまい、日本経済が暗転した際には、責任を問われるのは顔を出さない黒子ではなく、彼らに踊らされた増税賛成派の人々ということになるのでしょう。
いずれにしても、今の段階でどの立場の誰が、何と主張したかは後々まで残しておく必要があると考え、「集中点検会合」備忘リストを作成しました。
◯消費税「集中点検会合」参加者と意見
順に、# 氏名 肩書 結論に関する備考*2
【賛成】
1 米倉弘昌 日本経済団体連合会会長、住友化学株式会社代表取締役会長 予定どおり消費税率を引き上げないと、日本の財政再建に対する信認が瞬く間に失われるおそれがある
2 伊藤隆敏 東京大学大学院経済学研究科教授 経済状況は悪くない。消費税を引き上げても腰折れとか、デフレ脱却に失敗することはない
3 稲野和利 日本証券業協会会長 株安、長期金利上昇で市場の混乱を招く可能性がある
4 熊谷亮丸 大和総研チーフエコノミスト 経済状況から見ると増税が可能な状態
5 武田洋子 三菱総合研究所チーフエコノミスト 財政の信認を維持することで、結果的にデフレ脱却と財政再建が両立する
6 中空麻奈 BNPパリバ証券投資調査本部長 公約でもあり、法律で決まっている
7 井伊雅子 一橋大学国際・公共政策大学院教授 医療費の心配がない安心感があることが増税への理解につながる
8 石黒生子 UAゼンセン副書記長 消費税を社会保障の充実に使うという前提で
9 永井良三 自治医科大学学長 世代間の公平感の観点からも引き上げるべき
10 宮本太郎 中央大学法学部教授 社会保障改革のため早急に着手すべき
11 横倉義武 日本医師会会長 時期については当初予定通りとすべきだとの
12 吉川萬里子 全国消費生活相談員協会理事長 社会保障制度をしっかり作り上げいく必要があり、そのための消費税の増税はやむをえない
13 岩沙弘道 不動産協会会長、三井不動産株式会社代表取締役会長 増税されても大きな悪影響はなく、乗り切れる
14 岡村 正 日本商工会議所会頭、株式会社東芝相談役 国民は増税に理解があり、引き上げのチャンス
15 岡本圀衞 経済同友会副代表幹事、日本生命保険相互会社代表取締役会長 増税を先送りした場合には、国の信用が落ちて国債が暴落し、金利が大幅上昇して国の社会や経済の基盤が破綻してしまう
16 小松万希子 小松ばね工業株式会社取締役社長 一時的な痛みを伴うことを覚悟で賛成だ
17 清水信次 日本チェーンストア協会会長、株式会社ライフコーポレーション代表取締役会長兼CEO 10%までの引き上げに協力するのは国民や業界の責任であり、義務
18 鶴田欣也 全国中小企業団体中央会会長 景気回復もお願いしたい
19 豊田 章男 日本自動車工業会会長、トヨタ自動車株式会社取締役社長 消費税の引き上げと同時にこうした自動車だけにかかる税金を廃止してもらいたい
20 樋口武男 住宅生産団体連合会会長、大和ハウス工業株式会社代表取締役会長兼CEO 住宅の購入者に対してローン減税の拡大や給付措置などによって、実質的な負担がかからないような措置をしてもらっているので賛成
21 青柳 剛 群馬県建設業協会会長、沼田土建株式会社取締役社長 すでに決まっていることだから
22 阿部 眞一 岩村田本町商店街振興組合理事長 一気に10%に増税を
23 岸宏 全国漁業協同組合連合会代表理事会長 漁業者は弱者なので、漁業、漁村が生き延びられるように対策を
24 坂井信也 日本民営鉄道協会会長、阪神電気鉄道株式会社代表取締役会長 毎年1%ずつ引き上げる案は困難
25 立谷秀清 福島県相馬市長 被災者が困らない努力を
26 谷正明 全国地方銀行協会会長、福岡銀行頭取 地方に大きな影響はないのではないか
27 西田 陽一 おんせん県観光誘致協議会会長 地域振興の政策を
28 古川康 佐賀県知事 引き上げても、自治体として、人の移動や旅行などの需要を喚起することで、景気の衰退を防ぐことができる
29 青山理恵子 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会副会長 粛々と実施すべきだと発言した。『仕方がないけどやるべきだ』という世論もすでに形成されている
30 岡粼誠也 国民健康保険中央会会長、高知市長 社会保障の財源は限界に近づいているので、消費税率の引き上げはやむをえない
31 奥山千鶴子 特定非営利活動法人子育てひろば全国連絡協議会理事長、特定非営利活動法人びーのびーの理事長 ここで消費税率を引き上げなければ子育て支援の充実は図れない
32 清家篤 慶應義塾長、社会保障制度改革国民会議会長 消費税率の引き上げ分を使って、社会保障を充実することが景気対策につながる
33 馬袋秀男 「民間事業者の質を高める」全国介護事業者協議会理事長 社会保障がしっかりしていないといけないが、安定財源として消費税が必要
34 林文子 横浜市長 来年4月がいいと言い切ることはできない。景気の状況を見ながら
35 菅野雅明 JPモルガン証券チーフエコノミスト 見送るようなことがあれば、海外の投資家は日本から資金を引き揚げ、株価は急落
36 國部毅 全国銀行協会会長、三井住友銀行頭取 財政の健全化という中長期的な課題に対応するために
37 高田創 みずほ総合研究所常務執行役員チーフエコノミスト 現在の景気の状況では、増税を見直す理由はどこにもない
38 土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授 デフレ脱却論者で増税反対は自己矛盾
39 永濱利廣 第一生命経済研究所主席エコノミスト 景気への配慮は必要(税収弾性値が大きいと主張しながら)
40 西岡純子 アール・ビー・エス証券会社東京支店チーフエコノミスト 増税による景気の押下げ効果<増税回避による市場の混乱
41 吉川洋 東京大学大学院経済学研究科教授 現在のリスクは財政赤字(株価の下落、長期金利の急騰)
42 岩田一政 日本経済研究センター理事長 増税延期なら市場に政権不信・1%小刻みも有力
43 加藤淳子 東京大学大学院法学政治学研究科教授 非常に苦痛を伴うのでためらいはある
44 増田寛也 東京大学公共政策大学院客員教授、前岩手県知事 (消費増税なしでは)社会保障の充実に必要な財源を確保することが困難【条件付き賛成】
1 古賀伸明 日本労働組合総連合会会長 あれだけ議論をして決めたのだから
2 古市憲寿 東京大学大学院博士課程 国民のあいだの「あきらめ」
3 白川浩道 クレディ・スイス証券チーフエコノミスト 早期の消費税大幅増税は日本経済のデフレ脱却の確率を低下させるリスクがある・代替案として「小幅で連続的な増税は考慮に値する選択肢
4 小室淑恵 株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長 増税する場合の政策を提案
5 萬歳章 全国農業協同組合中央会会長 食料品などの税率を低く抑える複数税率の導入を【保留】
1 植田和男 東京大学大学院経済学研究科教授 先延ばし的要素がはいると株式市場にマイナス」「予定通り3%増税する場合の景気へのマイナスをかなりの委員が過小評価している【反対】
1 山根香織 主婦連合会会長 給料も上がらない今の状態で増税を強行すれば、貧困や格差が必ず拡大する
2 片岡剛士 三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員 安定的に2%のインフレ率を達成するまでは消費税増税は先送りすべきだ
3 宍戸駿太郎 国際大学・筑波大学名誉教授、日米・世界モデル研究所代表 消費税を今上げれば将来の成長が腰折れになるので、当面凍結するべき
4 浜田宏一 内閣官房参与、イェール大学名誉教授 予定どおりの増税は、財政再建に役に立たない
5 工藤啓 特定非営利活動法人「育て上げ」ネット理事長 苦しい状況にある若者との関係性から
6 石澤義文 全国商工会連合会会長、富山県商工会連合会会長 現状のままでの消費増税は景気回復に水を差す
7 大久保朝江 特定非営利活動法人杜の伝言板ゆるる代表理事 住宅の購入にあたって、消費税率の引き上げは影響が大きい
8 白石興二郎 日本新聞協会会長、読売新聞グループ本社代表取締役社長 2015年10月に10%に引き上げるべき。新聞は軽減税率を。
9 広田和子 精神医療サバイバー 一番打撃を受けるのは、低所得者
10 本田悦朗 内閣官房参与、静岡県立大学国際関係学部教授 デフレの下では増税なしデフレ脱却途上では増税の刻みを小さく
(注)賛成数44名はNHKが個別に確かめた人数です。ただ、条件付き賛成と反対は識者本人が明示していない場合は線引きが難しい部分があります。ここで示したものは識者の意見を読んでシェイブテイルが判断した線引きによっています。