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増税を行えば日本国の信用は増大するのか

今朝の日経新聞では、野田政権の増税政策に対し珍しくやや批判的なコメントが載っています。

 大機小機「とりあえず増税」の功罪 (日経新聞H24.6.23)
 「イヤー暑いねえ」
 「お飲みものは?」
 「とりあえずビール」
 そんな季節になった。外国人が「とりあえずビール」を日本のビールの人気銘柄と勘違いした、という話もあるが、多分冗談だろう。
 社会保障・税の一体改革で民主、自民、公明の3党が合意し会期延長も決まった。今国会で消費増税が通る公算が大きくなったが「とりあえず増税」への批判も強い。
 竹中平蔵慶応大教授らが警鐘を鳴らしてきたが3党合意では社会保障の抜本改革は先送りで、増税先食いの心配が強まった。批判はさまざまだが思いつくまま列挙する。
 ▼これで財政再建はかなうのか▼社会保障は持続可能なのか▼歳出のムダを削れるのか▼「クロヨン」など所得課税の不公平は放っておくのか。
 古来「入るをはかりて出づるを制す」は財政運営の心得だが、3党合意は「入るをはかる」に偏重し「出づるを制す」がおろそかになっている。社会保障改革の先送りは何をかいわんや、だ。
 経済協力開発機構OECD)の調べでも財政再建の成功事例は、増税より歳出削減に重点を置いたケースが多い。
 とはいえ、主要政党が角突き合わせ「決められない政治」で消費増税が流れたら、日本国の信用失墜はまぬがれまい。 国内総生産(GDP)比で先進国最悪の債務残高を抱えながら、低金利国債を出せる理由の一つは、日本には「まだ増税する余裕がある」と思われているからだ。
 年々の税収を借金(国債発行額)が上回る現状は異常だ。増税せずに、経済成長による増収と歳出削減でつくろえる限度を超えている。国際通貨基金IMF)やOECDも日本に消費税引き上げを勧告していた。
 法案が通っても、ただちに消費税が上がるわけではなく、現行5%が、2014年4月に8%、15年10月に10%になる。8%まで2年弱、10%まで3年あまりある。この期間を大切にしたい。
 増税が本決まりになれば、国民の目はうんと厳しくなるはずだ。「増税するのに、こんなムダ遣いをするのか」「増税するのに、税の不公平を放置するのか」と。
 その圧力を生かし、政治に社会保障の抜本改革や歳出削減の徹底、税の不公平是正などを実行させることだ。それができないと、増税は失敗ということになる。
(手毬)

増税先行で、社会保障や歳出削減を放ったらかしにすることに賛成する人はいない、ということでしょう。
ただ、このコラムニスト氏は増税はしないと日本国の信用失墜が起きると断じていますが、この点について考えてみたいと思います。

改めて、野田内閣が今なぜ増税と主張しているのかを図示してみましょう。
図1は財政を巡るお金の動きを最も簡略化した図です。 この図では、政府は単年度で予算を使い切るため、お金の導管のようなものと捉え、破線でしめしました。 中央銀行(日銀)は政府の銀行であると同時に金融機関の銀行でもあるため、双方とお金の流れがあります。

図1 最も単純化した財政を巡るお金の動き
政府(導管)を介して、民間と、国債の最大保有者である金融機関、
及び中央銀行(日銀)との間でお金が動く。

 さて、図2が野田内閣が主張する「増税で経済活性化」説を図示したものです。 政府など増税派の主張によれば、「増税により、年金財源が増えれば老後の安心感が高まり、個人消費が拡大し景気が良くなる」というものです。 消費税増税により、民間から国債(ここでは最大保有者の金融機関で代表)に向かってお金が流れます。 しかし、政府は消費税増税であつめたお金を民間に還流するわけではありませんから、民間の企業・家計が自らの意思で増税の上に増税額を上回って預貯金を取り崩して消費に回す、というわけです。

図2 政府の主張する増税で景気拡大説 
 年金財源の安心感から、個人消費が拡大するというもの。
赤い矢印が消費税増税、青い矢印は民間が自らの意思で引き出す預貯金を示す。
赤い矢印が政府を越えて金融機関まで伸びている部分は、税収を
金融機関などが保有する国債の償還財源に充てることに対応。

 ところが、6月18日の日経朝刊一面のモニターアンケート結果によれば、夏のボーナスは44%が減少を予測し、また家計では8割が貯蓄に励むという状況が現在の日本です。そのアンケートでは消費税増税があれば、生活を切り詰めるが55%と過半数を超えています。*1 つまり増税で好景気論とは異なり、実際消費税を増税した場合には、図3のように民間は、増税でお金が減るうえに自らの意思で民間から金融機関にお金を移すため、(金融機関に預けているお金は潤沢であっても)民間の経済活動ではカネ不足が加速し、デフレは今より一層ひどくなる可能性が高いでしょう。 、そうすると、民間経済活動の結果の一部が税収となるのですから、税収は更に落ち込まざるを得ません。

図3 増税に対するアンケート結果から予想されるお金の動き
アンケート結果では、増税(赤矢印)に備えて過半数
生活を切り詰め貯蓄に励む(青矢印)、としている。 
民間の経済活動からは増税分のみならず貯蓄によっても
お金が減少して経済活動は更に低下する。*2

 野田政権が増税を強行した場合、コラムニストが指摘するように日本国の信用が増大するどころか、信用は失墜し、恐慌さえ起きかねない状況となるでしょう。 次回のエントリーでは、ではどうすれば日本国の信用を増大できるかを考えてみたいと思います。

(つづき) 日本国の信用を増大するには?

*1:夏のボーナス、消費より貯蓄 4割が減少見込む

*2:金融緩和反対論者からはしばしば「家計も企業もお金がジャブジャブ」説を聞きますが、民間と一括りにせず、金融機関・非金融機関とセグメントを分ければ金融機関はお金はジャブジャブでも、肝心の経済活動の場の非金融機関部門ではお金が不足していることは、経済活動の中にいる民間の人々には自明です。