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「超入門」日銀版失敗の本質

最近、「超入門」失敗の本質という本がベストセラーとなっています。
昨年、終戦の日に元ネタの「失敗の本質」を読んで、日本軍と日銀が同様の失敗を繰り返していることを実感して書いた要約を再掲したいと思います。

(2011年8月15日記)−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
今日は66回目の終戦記念日です。310万人に及ぶ戦没者の冥福を祈りながら、敗戦までの日本軍について考えてみると、70年前に大東亜戦争で間違いを繰り返した日本軍と、現在金融政策で間違いを繰り返す日銀との間には共通点がいくつもあるように思いました。

1.戦略の曖昧さ
[日本軍]戦略は常に曖昧で、例えばミッドウエー海戦の目的は”「ミッドウエー島を攻略する」(陸戦)とともに、「敵艦隊を殲滅」(海戦)”とされ、軍備も中途半端なままで戦い悲惨な負け戦となりました。
[日銀]日銀の発表では「総合的に判断し」が多用され、何を根拠に何をしたいかが常に曖昧です。*1

2.短期志向
[日本軍]天皇大東亜戦争は必ず勝てるか、と問われたのに対し「開戦後半年一年は戦局を有利に進められるが、二年三年となると予見し得ない」(永野海軍軍令部総長)と答えるなど、中長期の戦略は余り顧みられていませんでした。
[日銀]日銀が物価について常に変動するCPI前年比で語ることはあっても、10年以上に亘って下落し続けているGDPデフレータの長期推移について語ることはありません。

3.戦略策定を気分的、空気が支配
[日本軍]沖縄戦の際、大和以下が直衛機を持たず、完全な敵制空権下で出撃することについて、軍首脳部では沖縄まで到達する可能性があるとは誰も考えませんでした。 ただこれに対し小沢軍令部次長の回想「全般の空気からして当時も今日も大和の特攻出撃は当然と思う」と語っています。
[日銀]2000年の速水総裁時代、9月には総裁のゼロ金利解除に対し審議委員は8:1で賛成(反対は中原委員だけ)しました。これにより回復しかけていた景気は再び悪化、日経平均は1万2000円を割りこみます。 01年3月、日銀の政策決定会合の内容が不十分ならば政府代表による「ゼロ金利政策復帰提案」が準備されているとの情報が日銀に入ると、一転、「量的緩和は不可能」としていた委員を含め量的緩和政策案(しかもこの案に一貫して反対し続けていた速水議長案)に賛成、量的緩和政策が開始されました。 *2

4.抽象的かつ空疎な作文
[日本軍]軍参謀による作戦には「戦機まさに熟せり」「決死任務を遂行し、聖旨に沿うべし」「能否を超越し国運を賭して断行すべし」「天佑神助」といった文言が踊りました。
[日銀]形容詞の多用を好みます。たとえば「やや伸び悩みつつも増加基調」何を言っているのかはっきりしません。
 白川総裁は国債の直接引き受けについて「市場の見方はどこかで非連続的に変化します。」と述べますが、具体的に何を根拠に何を言っているのかわかりません。

5.戦略オプションの狭さ
[日本軍]日本陸軍は夜襲、迂回作戦にこだわりました。ガダルカナル島では画一的正面攻撃にこだわり、無用に損害を拡大しました。
[日銀]自らを縛る日銀券ルールにこだわり、他国より金融緩和の幅を狭め、デフレと円高から脱却する手段を減じています。

6.戦力の逐次投入
[日本軍]ノモンハン、ソロモン、ガダルカナル島、など枚挙に暇がありません。
[日銀]金融政策は常にtoo little, too lateです。 

日本軍の失敗もひどいものですが、いまだに自殺者を3万人超のままにしている日銀の金融政策の失敗*3も相当なものかと思います。

「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ

「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

*1:”総合的に判断”×日銀 でググると61,800 件ほどヒットします

*2:日銀の政策決定の本質 http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20101031

*3:インフレ率と自殺者数 http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20100705