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MMT(現代貨幣理論)を知るために必要なたったふたつのこと

最近、急速にMMT(現代貨幣理論、あるいは現代金融理論)に注目が集まっています。

ただ内容をみると、肯定論がひとつに対して否定論がいつつ、といった具合でMMTの有用な主張が十分伝わっていないように思います。

 

そこで今回はMMTを知るために必要なことをお伝えしたいと思います。

それは現実の貨幣・信用創造の仕組みと、貨幣市場の枠組みの2点、これだけです。

なぜMMTを知るためにこの2点が必要かといえば、現在の経済学(主流派とよばれる)の教科書ではこのふたつが誤って書かれていて、このためにMMTの正しい理解にたどり着けない方が多々でてくるというわけです。(図表1)

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図表1 主流派経済学と現実

1.現実の貨幣・信用創造の仕組み

 主流派経済学の教科書では貨幣について次のように説明されています。*1  

 貨幣は、その物自体に価値がなくても貨幣としての機能を果たすと認識されれば貨幣となる。 1ドル紙幣はジョージ・ワシントンの肖像の描かれた紙切れであるが、それを持っていれば様々な商品やサービスと交換できると人々が認識する故に、貨幣となる。

 

 このような、貨幣自体に殆ど何の価値もなく、本来的な価値を持たない貨幣を「フィアット・マネー(不換紙幣・不換貨幣)」と言う。

 

 フィアット・マネーは本来的な価値を持つ貨幣(たとえば金貨や銀貨)の替わりとして流通し、価値の裏付けのないまま、その便利さ故にいつの間にやら定着したものである。

 

 経済学者達は本来的な価値をもつ貨幣を特に「商品貨幣」と呼んでいるが、貨幣として流通しだした商品はその商品の用途とは関係なく珍重される。

 

 このように、主流派経済学では本質的価値を持つお金と、それから派生する実際には価値がない不換紙幣とがあるという立場をとっています。

 

 ところが、現実世界の貨幣は基本的には銀行が信用創造で作り出すお金「信用貨幣」で回っていて、少量の「商品貨幣」のような硬貨も出回っているのですが、こちらは補助貨幣として少額取引用の例外となっています。*2

 

 このように貨幣観が、主流派経済学と現実世界では違うことが銀行の信用創造の理解にも影響していて、経済学の教科書では預け入れられた紙幣(本源的預金)を元に別の銀行にその大半を又貸ししていく「又貸しモデル」が記載されています。

この「又貸しモデル」での信用創造は、ウィキペディア日本語版にも記載されています。
ja.wikipedia.org

(また)ところが、現実世界の信用創造は又貸しモデルとは全く違っていて、銀行が貸付をするときに、銀行が借り手の銀行口座に同額の預金を同時に作り出す(銀行員のペン先から貨幣が生まれるため「万年筆マネー」ともいわれる)というものであることイングランド銀行が解説しています(ここ)。その概要部分の和訳はたむりんさんのブログで読むことができます(ここ)。 なお、英語版では正しい信用創造の仕組みが書かれています(ここ)。

 

2.貨幣市場の構造

主流派経済学では中央銀行信用創造するマネタリーベース(MB)と民間銀行が信用創造するマネーストック(MS)の市場は(明示的ではないものの)連続した単一の貨幣市場で取引されているという前提があります。

 

(またまた)ところが、現実の世界ではマネタリーベースが流通する金融市場は日銀ネット内にあり我々家計や企業、いわゆる「非金融部門」は日銀ネット外でマネーストックをやり取りしています。(図表2)

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図表2 現実の金融市場

図表2は一例として企業が銀行借入して見返りに自分の口座に預金を預け入れる信用創造がなされた例を描きました。 ここで重要なことは緑で示した預金市場と煉瓦色で示した中央銀行ネット内の金融市場は直接つながっていないということです。図のように、民間銀行がそのふたつの貨幣市場を取り持つ形になっています。

 

 

3.MMTの骨格とのつながり

1)ストック・フロー一貫(SFC)モデル

簡単にいえば、「誰かの資産は誰かの負債」ということです。従って、現在の政府債務は非政府部門(主に家計・企業)の金融資産とペアになっているということになります。 フローでいえば、例えば安倍政権の掲げるプライマリーバランス黒字化とは民間金融資産赤字化推進ということですね。

 

逆に、意図せず財政黒字となるケースがあり、これはバブル期の日本のように、民間がリスクを取り過ぎて過剰負債を抱えると発生します。バブルは必ず崩壊しますので、意図しない財政黒字は金融危機の予兆と考えられます。

 

 2)内生的貨幣供給論

内生的とは「自発的に」に近い言葉で、民間が使うお金、マネーストックは基本的には民間企業が借入をすることでその見合い資産として生まれているということです(図表2)。従って、例えば日銀の量的緩和で民間銀行にあった国債を日銀当座預金という貨幣に変えても日銀ネット内での銀行資産の持ち替えに過ぎず、企業や家計がいる預金市場には直接影響がないということも了解していただけると思います。

 

長くなりますので今回は割愛しますが、MMTの主張のひとつ、銀行預金より政府支出が先(spending first)を理解するためには、図表2で示した現実の金融市場での会計を順序正しく考えることが必要です。

 

教科書の間違いがMMTの理解を妨げているとの思いから今回の記事を書きましたが、いかがだったでしょうか。 

 

 

*1:マンキューマクロ経済学第6章「貨幣とは何か」

*2:本筋から外れるので敢えて書いていませんが、「信用創造」は民間銀行(マネーストック)だけでなされているわけではなく、中央銀行(マネタリーベース)、それに財政出動マネーストック)でも信用創造はなされています