シェイブテイル日記2

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私が「減価する地域通貨」を諦めた理由

 昨年の今頃、私は消費税増税を目前に控え、いくつかの自治体と連携して、地域通貨を実践する準備をしていました。 ところが調べていくうちに「今の日本では地域通貨はまず上手くいかない」という確信を持つに至りました。

  
 この20年ほどの間に、日本で試行された地域通貨にはいくつもの目的を異にするものがあります。*1

2014年4月の消費税増税で、デフレが悪化するのが目に見えていましたので、昨冬私が目指したものは、デフレに対抗できるような減価する地域通貨でした。 

つまり、物価が下落するよりも速く地域通貨のほうが減価するならば、地域通貨は滞留されることなく、モノ・サービスの交換を促すはず、という発想です。

実際、この減価する地域通貨というものは80年前のオーストリア・ヴェルグルでは大変大きな経済効果があったとされています。

オーストリア・ヴェルグルの減価する地域通貨「労働証明書」
80年前のオーストリアチロル地方のヴェルグルでは減価する地域通貨
「労働証明書」という月に1%減価する地域通貨を導入し、デフレの害悪が
かなり緩和された、とされている。

ただ、日本ではすでに幾つもの減価する地域通貨が試行されていましたが、なぜかはっきりと上手くいったといえる例はひとつもないようでした。

■日本で過去に試行された減価する地域通貨の例
1)ガル(地域人口17万人、利用者87人)

2)Bee(地域人口100万人、利用者不明)

3)ピーナッツ(地域人口600万人、利用者620人)

4)YUFU(地域人口12,000人、利用者75人)

5)全国レインボーリング(日本全体、利用者540人)

6)エッコロ(地域人口700万人、利用者2,000人)

私はひょっとすると、地域通貨の制度設計に問題があるのでは、という仮説を置いて、「これなら機能するだろう」という減価する地域通貨を考案し(制度の詳細は略)、いくつかの地方自治体の関係者にその案を紹介しましたところ、2つの地方自治体では減価する地域通貨に関する担当者を置いていただくなど、かなり本格的に共同検討をするところまで地域通貨プランは進展していました。

ところが。
その後、日本各地での地域通貨の取り組みを虱潰しで検討していったところ、滋賀県で「おうみ」という名前の地域通貨の試行がなされていて、その中に以下の記載がありました。

5.税金
 消費税の場合は、(中略) 

 商店や企業が地域通貨を活用する場合、その扱い方に応じて次のようになる。

1、クーポン券やディスカウント券として受け取る場合、消費税は現金売上部分をベースに計算し、法人税の算出時には地域通貨分を販売費として損金算入することができる。
2、受け取った地域通貨を換金または再利用する場合、消費税は現金と合算した売上金をベースに計算し、法人税については損金算入できない。
3、地域通貨を受け取った企業が、そこで働く社員やアルバイトなどのスタッフに対して地域通貨を手渡した場合、これを所得とみなす場合は、給与・一時または雑所得の課税対象となる。

    地域通貨おうみWeb  地域通貨の課題

要するに、地域通貨が単なる一度限りのクーポン券のようなものなら消費税の対象とはならず、また販売費として損金算入ができるのに、文字通りの地域通貨として複数回流通させるならば、売上金とみなし、受け取ってもいない円貨での消費税を取るという話です。

つまり仮に1おうみ=1円だとして、 100万おうみの仕入控除売上をあげたとしたら、円貨では1円の売上も上げていないのに、税務署に消費税を8万円支払え、というのです。

デフレ対策として減価する地域通貨を考案しても、物量は捌けたとして、いざ年度末になれば消費者から1円も預かっていない消費税を支払わせるというのなら、日本では複数回流通する地域通貨は減価させようがさせまいが、必ず資金ショートに陥りうまくいくはずがありません。

結局、消費税によるデフレの害悪を避けるつもりだった減価する地域通貨構想でしたが、残念かつ皮肉なことに、消費税によりその構想も成り立たないという結論に至ったのでした。

せっかく担当者まで任命していただいた2つの自治体関係者の方には、地域通貨構想に一定の期待をしていただいただけに、お詫びをしなければなりません。*2 

*1:地域通貨に関しては、「地域通貨全リスト」というサイトがあり、2011年1月までに全国で延べ662件の地域通貨が試みられています。

*2:ただ、もしかすると私の勘違いで、消費税の上記規定があるにもかかわらず上手く回っている地域通貨があるのかもしれません。
そうであればその地域通貨についてご存知の方は、ぜひコメント欄でご連絡をお願いします。