シェイブテイル日記2

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マクロ経済でマネーが消える時はいつか

マクロ経済は当然ミクロ経済とつながっていますが随分違っていることもあります。
マネーがいつ増え、いつ消えるのかは両者でまったく違っています。

この点が、地方自治体の運営は個人の感覚と似ているのに、中央政府が目指すべき政策はまったく異なる原因となっています。

早速事例別に見てみましょう。 
なおミクロ経済の主体としては、私たち個人や、個々の企業、地方政府(地方自治体)などがあります。
マクロ経済ではこれらはそれぞれ、家計・企業・一般政府としてマクロ経済の一部となります。

1.国内での売買
【ミクロ経済】 マネーが増減する。
【マクロ経済】 マネーは増減しない。

私たち個人や地方自治体がお金をつかえば当然お金は消えます。
ところがマクロ経済の方は日本国内全体を見ていますから誰かがモノを買うなら誰かはそのお金を受け取っているため増減はありません。*1

2.金融機関と貸借する
【ミクロ経済】 マネーは増減しない。
 銀行からお金を借りれば見た目はお金が増えていますが、借金という負のお金も同時に抱えることになるので、増減なしですね。
【マクロ経済】 マネーが増減する。
銀行が保有するお金、マネタリーベース(MB)の一部を民間に貸し出すと、マネーストック(MS)となり世の中の経済活動に回りますから、MSの量は増加します。いわゆる信用創造です。

民間保有のMSと中央銀行・民間銀行など金融機関が保有するMBは同じマネーでも階層が違い、包含関係でもないので、例えばMS+MBという計算は意味がないし、またMS>MBとも限りません。

海外との売買、金融機関での外貨両替など、ミクロ経済とマクロ経済の違いが出る例をあげたらキリがないので今回は上の2つにとどめますが、ミクロという「部分」と、マクロという「全体」では、マネーの消長に関する認識がまったく別だ、という点は重要ですね。

さて、国(中央政府)が国債を償還する場合を考えます。
現在も10兆円以上の規模で実施されているように、日銀が借換債部分を直接引受けた財源で償還する場合には、財源は中央銀行のMBで、一旦中央政府を経てMS(歳入→歳出)になり、返済先の市中銀行でMBに戻るのでマネー(MS)は増減していません。

ところが税収(MS)を国債償還費用に充てる場合、MSを減らして市中銀行のMBに戻るだけですね。

4月から消費税が増税されますが、消費税の増税分使途は安部首相は「全額社会保障費に」というものの、今後実際恒久的に増加する使途の一部は国債費です(図表1)。

税収MSを社会保障費などとして同額MSに戻せば単なる再分配政策になりますが、国債費に充てる消費税増税は、MSを消失させ、死んだマネーMBに戻すというまさに景気抑制・デフレ惹起策ということです。


図表1 消費税増税分使途
データ出所:本文参照。
安倍首相は「想定使途」のように全額社会保障費に使うと明言したが、
現実には「実際使途」のように社会保障費拡充には1/5しか使われない。

消費税増税使途にみる財政危機とデフレ - シェイブテイル日記 消費税増税使途にみる財政危機とデフレ - シェイブテイル日記

アベノミクスでは第一の矢金融政策で、黒田日銀が巨額のMBを積み上げることで、MSを増大させ、最終的には名目GDP(私たちの所得)を増やそうとしています。*2

ただ、第二の矢財政政策では、東北復興でも予算をつけてもこれまでの土建潰しのツケで技術をもつ職人が集まらず予算執行不足などが発生しました。

そこに、2段階で5%もの消費税増税があり、増税分の一部は第一の矢とは逆に民間マネーMSを消して金融機関の死んだマネーMBにしてしまうという積極的な名目GDP(私たちの所得)減らし政策を同時に実施するのですから、わけがわかりません。 この訳がわからない政策ミックスに、経済三団体のトップが揃って大賛成だとか。*3 

地方自治体の首長の場合、ミクロ経済感覚で財政健全化に取り組めば問題はありません。
一方、中央政府の首脳には通称"国"つまり中央政府の財政健全化だけを考えた政策ではなく、全ての経済主体を含んだ国全体の経済発展を考えた政策を目指さねばならないという認識が必要でしょう。

【コラム】
財務省の意を受けた学者やマスコミなどはこぞって財政健全化や消費税増税の必要性を訴えてきましたが、1997年のわずか2%の消費税増税の結果、日本が世界でどれほど異常で悲惨な状態に陥ったかはこちらをご覧ください。

自ら名目GDPを減らす不思議の国・日本 - シェイブテイル日記 自ら名目GDPを減らす不思議の国・日本 - シェイブテイル日記

*1:民間が持つマネーはマネーストック(MS;かつてのマネーサプライ)と呼ばれます。

*2:個人的には流動性の罠があるデフレではこの政策は効果がそう強くないと思いますが、それでも増税なしのアベノミクスの効果は民主党の経済政策と比べれば雲泥の差ですね。

*3:輸出戻し税で実利を得る輸出企業に取ってはこれら全ての政策が一貫してプラスですが、トヨタキヤノンなどの大企業と財務省の利益のために経済運営をするのなら明らかに常軌を逸しています。