シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

アベノミクスとマンデル=フレミングの呪い

 株価が大きく下げています。大きく上げたリバウンドとしては大きすぎるし、6月決算のヘッジファンドの換金売りにしては遅すぎます。 
岩田規久男日銀副総裁の考える物価上昇経路からすると、株価が下落する局面はデフレ脱却を目指すアベノミクスの大きな障害と考えられます。
  ⇒日銀が株価高騰政策を続けなければならない理由 - シェイブテイル日記 日銀が株価高騰政策を続けなければならない理由 - シェイブテイル日記

昨年11月中旬の野田政権の解散宣言がアベノミクスの実質スタートだとして、半年が過ぎようとしている現在、食品・日用品のPOSデータを元にした東大物価指数は全く反転上昇の気配はありません。
 ⇒ CPIはともかく東大物価指数はまだマイナス - シェイブテイル日記 CPIはともかく東大物価指数はまだマイナス - シェイブテイル日記

80年前の高橋財政では、わずか半年から1年で物価が大きく反転上昇したのに比べ、アベノミクスは時間がかかっているように思われます。



高橋財政期(図表1・上)とアベノミクス期での物価変動(図表2・下)
出所:高橋財政期は「1930年代における国債の日本銀行引き受け」(富田俊基)、
アベノミクス期は東大物価指数のウェブサイト月次データファイルを元に筆者作図
高橋財政期の縦破線の間が高橋財政期。
高橋財政期が始まる前から物価は上昇の兆しがあったが、
アベノミクスでは開始から半年過ぎても、POSデータに基づく
東大物価指数は前年比マイナス1%程度のデフレのまま。

実際の物価はともかく、物価上昇への期待、期待インフレ率は上昇しているではないか、と思われる向きもあるでしょうけれど、最近の株価下落に伴うように、期待インフレ率を示すブレイクイーブンインフレ率(BEI)も5月上旬をピークに反転下落し始めています。

なぜ、アベノミクスは物価に効果を発揮しにくいのでしょう。
これはある意味単純な話で、黒田日銀がいくら多量のマネーを日銀当座預金口座に積み上げようと、民間にマネーが出て行くルートが弱ければ、マネーは銀行に貯留したままになってしまいます。

これに対し、80年前の高橋財政では、国債を日銀が直接引き受け、そのマネーを政府が財政政策に使ったので、マネーは政府を介して直接民間非金融部門へと出て行ったわけです。

ではなぜ、デフレの現代日本では、デフレを短期間に脱却した高橋財政は顧みられにくいのでしょうか。
勿論そのひとつの理由は、現行法では国債の日銀直接引き受けが財政法で禁じられているからです。
ただ、法律は国会で変えられるものですから、絶対的なハードルではありません。

以下は筆者シェイブテイルの邪推も入る話です。
私が思うに、日本がデフレ期に突入したすぐ後の1999年、マンデル=フレミングがその名を冠した理論でノーベル賞を受賞したことと関係があるのではないでしょうか。

マンデル=フレミング理論を最も単純に言えば、固定相場制においては、金融政策は無効だが、財政政策は有効、そして変動相場制においては、金融政策は有効だが、財政政策は無効、というものです*1

日本でデフレが顕在化した直後のノーベル賞受賞理論は、今で言うリフレ派の人々の意見にも少なからず影響を及ぼしたのではないでしょうか。

ただ、最近藤井聡京大教授らが指摘しているように、マンデル=フレミング理論がデフレ経済で成り立つのかは疑問があります。

需要が供給を上回るインフレのときは、金融機関から市場への貸し出しが増える状態なので、国債への資金が流れず、金利が上がろうとします。そのタイミングで財政政策のために国が国債を積み上げれば、資金需要は、実需と、過剰供給の国債との間でのせめぎ合いとなり、より金利が上がり高金利により円高をまねくので、マンデル=フレミング理論が想定したように財政政策が無効化される状態となります。

一方、日本のようなデフレ国では、市場に資金需要がなく、金融機関では国債位しか運用先がありません。
そのため国債をいくら発行しても、金利が上がることはありません。(金利が上がる時には民間に資金需要が生まれていて、デフレ・ギャップは解消しているでしょう。) 

 もしデフレであっても財政政策のための国債発行が円高を招く、と仮定しても円高を抑制するような強力な金融政策、例えばアベノミクスの第一の矢と併用すれば、円高は生じないでしょう。

私も広い意味でのリフレ派を自認していますが、狭義リフレ派の方々は基本的に財政政策はお好きではないようです。
ただ、金融財政政策併用の高橋財政はわずか半年から一年ではっきりとデフレを脱却しているのに、金融政策一本槍のアベノミクスでは半年経過後のBEIが下がってきているという事実を見ても、金融政策偏重のデフレ脱却策は高橋財政との比較で、分が悪いのではないでしょうか。

私は狭義リフレ派の皆さんの中にはマンデル=フレミングの呪いにかかっている方もいらっしゃるのではないかと思うのです。

過去に、財政政策を嫌ほどやったのに、デフレを脱却していないではないか、ですって?
そうおっしゃる方はこちらもお読みください。

*1:一般に経済理論にはありがちですが、この結論もある一定の前提ものとで成り立つ話であることを忘れてはいけません。