シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

「緩やかな演繹法」でわかる、国の債務とは何か

池上彰氏といえば、テレビでは軽妙かつわかりやすい語り口でかなり難しい事柄を解説することで知られています。
その池上彰氏の著書のひとつに”伝える力 (副題)「話す」「書く」「聞く」能力が仕事を変える!”というものがあります。
 この中で氏は正しい結論に至る思考方法として、演繹法でもなく帰納法でもない「緩やかな演繹法」を提案しています。
まずおさらいとして演繹法帰納法について書きますと、演繹法とはある事柄を前提として具体的なひとつの結論を得ることです。
具体的には、「バラには棘がある。だったらハマナスはバラ科だから棘があるだろう。」といったことです。仮説を作るには有効ですが、先に結論ありきで、論拠は脆弱なこともあります。
帰納法の場合、「バラを100本観察すると、いずれにも棘がある。だったらバラには棘がある。」という考え方です。実際的情報を集めて結論を構築するので堅牢な結論がでます。ただ、逐一情報を集めるので結論を出すまでに多大の労力を必要とします。

池上氏の提案する「緩やかな演繹法」では、仮説を作るまでは演繹法を、そしてその仮説の検証をするのには帰納法を使います。
この方法では、演繹法により立てた仮説が、現地・現場・具体例で集めた情報で補強されればそれでOKですが、もしも現地・現場・具体例で集めた情報と合致せず矛盾が生じるようならば仮説を組み直すことになります。

 では、この「緩やかな演繹法」を利用して先日来テーマとしてきた不換紙幣とは何かを再考してみましょう。(7月19日以降のエントリーとカブるところが多いことはご容赦ください)

まず、「不換紙幣は政府の債務として生まれる」という前提を置きます。これは不換紙幣定義を「政府の信用以外の裏付けがない紙幣」からみて、紙幣の発生過程については正しいですね。
なお、純粋な兌換紙幣の場合には「兌換紙幣は、正貨に対する債務として生まれる」で、貨幣の価値の裏付けが両者で異なっています。

1.政府債務は返済不要か?
 この前提から演繹的に出てくる「政府債務は返済不要」というクルーグマンの主張 *1について考えてみましょう。
まず政府債務に金利がつかない場合を考えると、債務返済を求められれば更に同額の債務証券を起債して、返済額と同額の中央銀行券を返すだけですから、政府債務は返済不要という主張は正しいとわかります。
一方政府債務に金利がある場合には元本部分は無金利債と同様に返済可能ですが、金利部分は、政府債務の絶対額と金利によっては現在の欧州危機に陥っている諸国のように、返済困難であるケースもあります。 従って、通常の、金利を伴う政府債務の場合、危機が訪れるまでの間は事実上クルーグマンの主張通り「政府債務は返済不要」ですが、危機的状況に陥らないようにすることが重要です。
結論として、政府債務はマネーの源泉であるため、返済することを目的とするのは誤りであり、成長戦略を維持するなどの政府債務をコントロールし続けることが重要、というのが妥当な答えと考えられます。
*2 

2.もし政府債務を全て返済すると全てのマネーが消えてなくなる
こちらは同じ「不換紙幣は政府の債務として生まれる」という前提から、1941年にエックルズFRB議長(1941年当時)が下院銀行通貨委員会の公聴会で証言した内容です*3

今度は思考実験として、もし一切のマネーがない状態(物々交換状態)に、政府と不換紙幣だけを扱う中央銀行ができた、とします。
まだマネーはありません。 すると金や米などの実物商品には価値はありますが、マネーはないから物々交換しかできません。
ここでもし、誰かが金やその他の実物商品を持っていて、それを中央銀行が買おうとすればどうなるか。
もし買ったとすれば、これはその実物商品の預かり証です。
いま議論しているのは不換紙幣ですから、紙幣価値の裏付けとしての実物資産を持つことはできません。「なぜなら、もし持ったとすれば、紙幣の価値がその実物資産に連動するその実物商品に対する兌換紙幣であり、前提の不換紙幣の議論からは外れます。 *4

 それではこの状態で市場に債券なり、株式が存在し得るか? するわけがありません。市場には全くマネーがないのですから。
存在しないマネーによって債券や株式は買うことができません。もし無理やり「存在する」と仮定しても、それらの貨幣価値はゼロです。

ただ。政府のみは市場にマネーがあるなしにかかわらず、国債などの債券を発行し、中央銀行に直接買い取らせることができます。
こうして一旦原初的なマネーができ、政府がこれを財政政策や人件費として支払うなど市場で使えば初めて市場にマネーが出現します。
そのあとは、次のスキームのように、市中銀行にもマネーが渡り、市中銀行自身の信用創造機能でマネーサプライを増やすことができます。

(1)政府が債券を発行する(政府債務)
(2)日銀が政府口座に預金を振り込む
(3)政府に資金が生まれ、財政資金や政府雇用者の給与などになる
(4)これらの政府資金が市中に出て、市中銀行の預金となる
(5)市中銀行の日銀当座預金に預金が入る
(6)銀行貸出し
(7)別の銀行に預金される 以下(4)または(5)〜(7)の繰り返し


更に進めて、政府が政府貨幣を持てるという前提を置くとまた話は少し変わってきますね。

「緩やかな演繹法」は池上氏のような洗練されたネーミングではありませんが、実はシェイブテイルも「当たらずといえども遠からず法」と呼んで、同じ手法を以前から使っていまして、このブログを短時間で書く原動力となっています。*5

伝える力 (PHPビジネス新書)

伝える力 (PHPビジネス新書)

*1:誰も債務がわかっちゃいない」「道草」ブログ

*2:国の債務の何が問題か - シェイブテイル日記 国の債務の何が問題か - シェイブテイル日記
クルーグマン「誰も債務がわかっちゃいない」は伝わっているのか - シェイブテイル日記 クルーグマン「誰も債務がわかっちゃいない」は伝わっているのか - シェイブテイル日記

*3:国の債務を全て返済すれば何が起きるのか - シェイブテイル日記 国の債務を全て返済すれば何が起きるのか - シェイブテイル日記

*4:このことを、「どれだけ説明しても分からない人」は、既に債務を裏付けにしたマネーが循環した結果、既に中央銀行にあり、これで実物商品を買うことを想定しているのかもしれません。この場合、債務を全て返済している前提が忘れられています。

*5: 仕事が速くなるコツ(1) 当たらずといえども遠からず方式 - シェイブテイル日記 仕事が速くなるコツ(1) 当たらずといえども遠からず方式 - シェイブテイル日記でご紹介したことがあります。