理系にこそわかるマネーと国債の関係
マネーと国債の関係は、意外なほど世の中に知られていません。
その関係について、理系なら瞬間的にわかるアナロジーを考えてみました。
図1は、電気を光に変換する半導体、皆さんもよくご存知のLEDの概念図です。電気の実体は電子で、それはマイナス側からプラス側への流れですが、LEDのような半導体の中では電子の抜け跡である正孔が、電子の流れとは逆向きのプラスからマイナスに流れているとも言えます。
図1で、赤丸で表現された電子が右から左に動けばその跡である正孔は左から右に動いていくわけですね。 LEDではこの過程で電気の一部が光に変換されています。
一方図2は、現代マネーの概念図です。電池に相当する、マネーの駆動力は銀行が提供します。現代マネーがある向きに世の中を巡る時、商品・サービスが反対向きに流れていきます。
【ちょっとコラム】
現金とは過去に提供した商品・サービスが姿を変えたものと考えれば、現金買いとは過去に提供した商品・サービスと現在の商品・サービスの交換に他なりません。
また企業では当たり前である買掛けとは、将来提供するであろう商品・サービスと現在の商品・サービスの交換に相当します。
また借金とは借り手が将来提供するであろう商品・サービスと貸し手の過去の商品・サービスの交換に相当します。
いずれにしましても、マネーが商品・サービスの交換媒体であるからには、マネーと、姿はともかく何らかの商品・サービスが逆向きに流れているわけですね。
ところが、もし図1で、LEDの回路をスイッチ切り替えし、アースにつなげば、電子はそちらに逃げてしまいLEDは光りません。当たり前の話です。
同様に、図2で、マネーと商品・サービスの循環回路をスイッチ切り替えして、政府債務の返済消却に使えば、そのマネーは消失して、商品・サービスの交換ができなくなります。 理系なら一瞬で解る話ですね。
それにもかかわらず、日本では政府は消費税で増える政府歳入の一部を図2のスイッチングと同じように国債費の償還財源としようとしています。 償還財源が必要ならば、今までずっとそうしてきたように、日銀が借換債を直接引き受けて、マネーを創出すればいいだけの話なのに。
民間で商品・サービスの交換にこれまで使われていたマネーを引き抜いて財源にすれば、景気は当然中期的に損なわれるでしょう。
政府が「消費増税の対策はしました」というように、ただ単年度で5兆円の景気対策をすれば済むというものではありません。
財務省やマスコミ、あるいは相当な数の経済学者たちでさえ、1000兆円を超えるという政府債務の金額の巨大さを問題にし、それを消費税増税を一部財源として消すことを妥当と考えているようです。
しかし現代のマネーは昔の金(gold)を価値の裏付けとする兌換紙幣ではなく、債務を価値の裏付けとする不換紙幣です。
債務の返済とは、マネーの消失と全く同じことなのです。
では1,000兆円の政府債務を前にして、どうすれば良いのか。
健全な経済環境では、最大の債務の引き受け手は企業です。
企業がリスクをとれる経済環境であれば、企業は積極的に投資をし、雇用を拡大して商品・サービスを生み出そうとします。
一方、デフレでは、実質金利が高い上に、わずかな経済変動でも、通貨高株安となるため、企業が将来への投資をするためのリスクが高く、デフレが続いてきたここ15年以上に渡って、企業は債務の返済に努めてきました。
企業がマネーの裏付けである債務を創ろうとしないのであれば、家計資産というマネーの裏付けとなる負債の担い手は政府と海外しかないことになります。 政府債務が急増してきたのは、デフレで企業が債務を負うリスクが取れないために、政府がその肩代わりをして来た、というだけの話なのです。 企業が債務を負えない環境で、政府がその債務を積極的に減らすとすれば、その結果は家計資産の減少につながります。
政府債務を軽減したければ、企業がリスクを取れるように、デフレを脱却する努力が必要です。
繰り返しますが、政府債務を直接消し去ろうとすれば、その意図とは逆にデフレが深化し、企業は一層債務を避け、家計・政府の債務が増えるという結果が待っているでしょう。