シェイブテイルのデフレ脱却実践記

シェイブテイル日記ではデフレ経済研究を行ってきました。今後はこれをデフレ脱却実践につなげます。

国の債務の何が問題か

誰かが「国の債務を、年収500万円の家庭に例えれば…」とやりだしたら、喩え話として前提が根本的に間違っていると教えてあげましょう。

前回 国の債務を全て返済すれば何が起きるのか - シェイブテイル日記 国の債務を全て返済すれば何が起きるのか - シェイブテイル日記 国の債務を全て返済すれば何が起きるのか - シェイブテイル日記を書いた時に、いくつか疑問の声をいただきました。
その中で、代表的なものは次のふたつでした。

1.現在のオーストラリアや1960年以前の戦後日本は国債を発行していないのに、貨幣を発行できているのはなぜ?
2.政府の債務を全て返済すれば中央銀行のマネー創出が止まるだけで、市中銀行からの信用創造は続くのでは?

では、それぞれ考えてみましょう。

1.現在のオーストラリアや1960年以前の戦後日本は国債を発行していないのに、貨幣を発行できているのはなぜ?
答えを一言で言えば、国の債務は国債だけではない、ということです。
 オーストラリアの中央銀行、オーストラリア準備銀行のバランスシートを見ますと、資産には豪ドル債(連邦財務省の固定クーポン債と財務省キャピタルインデックス債と、州·準州政府の財政当局が発行する有価証券)があり、これだけで負債側の豪ドル紙幣とほぼ同額存在しています。 
 現代(2009年)の日銀のバランスシートをみてみますと、国の普通国債(600)、財投債(129)、交付・出資国債(4)、借入金(56)、政府短期証券(142)、地方・公営企業債・交付税特会借入金(198)で合計で991兆円となっています(かっこ内の単位兆円、2009年度末)。
この中で国債とは呼ばれない政府債務だけで400兆円ほどあります(特会借入金はダブリあり)。 残念ながら1960年以前の戦後の日銀のバランスシート詳細を見ることができていませんが、現在の日銀のバランスシートから国債を除いたものにほぼ近いのではないかと思います。
なお、現代の日銀のバランスシートにもわずかばかりの金(GOLD)がありますが、現在兌換紙幣は一枚も発行されていませんから、この金を基礎とした貨幣は皆無です。
不換紙幣については、広い意味での国の債務を基礎に発行されていることは、現代世界ではどこも同じかと思います。



日銀のバランスシート超長期推移
戦後、1960年までは日本には国債が発行されていなかった。
しかし勿論紙幣は流通していた。
当時は国債以外の政府負債が紙幣発行の裏付けだったことになる。

2.政府の債務を全て返済すれば中央銀行のマネー創出が止まるだけで、市中銀行からの信用創造は続くのでは?
 これは現在のように中央銀行市中銀行がそれぞれ信用創造しているところから考えると混乱しますが、まだ市中にはマネーがまるで1円もないところから考えると分かりやすいかと思います。

(1)政府が債券を発行する(政府債務)
(2)日銀が政府口座に預金を振り込む
(3)政府に資金が生まれ、財政資金や政府雇用者の給与などになる
(4)これらの政府資金が市中に出て、市中銀行の預金となる
(5)市中銀行の日銀当座預金に預金が入る
(6)銀行貸出し
(7)別の銀行に預金される 以下(4)〜(7)の繰り返し

前回の思考実験ではこれらの根本となる(1)を政府が増税により返済し尽くす、ということでしたから、市中銀行での信用創造(4)〜(7)の基礎もなくなり、市中には1円のマネーも流通しないということでした。
そもそも、ある銀行が中央銀行とは完全独立に信用創造できるとすれば、換言すればその市中銀行とは、日銀とは別の中央銀行ということではないかと思います。

さて、前回のエントリーでのパックマン議員とエックルズFRB総裁とのやり取り後半を再掲してみましょう。

Mr. Patman: "You have made the statement that people should get out of debt instead of spending their money. You recall the statement, I presume?"(あなたは、人々はお金を使うのは止めて借金を減らすべきといったこと、覚えてますよね?)
Mr. Eccles: "That was in connection with installment credit."(それは消費者割賦払いについて述べたものです。)
Mr. Patman: "Do you believe that people should pay their debts generally when they can?"(人々は債務は支払うべき、とは考えていますか?)
Mr. Eccles: "I think it depends a good deal upon the individual; but of course, if there were no debt in our money system..."(それは相手にもよりけりかと。もし我々の通貨システムに債務がなければ…)
Mr. Patman: "That is the point I wanted to ask you about."(そこですよ、私がお尋ねしたかったのは。)
Mr. Eccles: "There wouldn’t be any money."(お金は存在しなくなります。)

これをよく考えると、パックマン議員もマネーがどう生まれるかは重々承知でこの「掛け合い」をやっているように思えます。
つまりふたりはこう言いたいのでしょう。 「家計や企業の債務と、政府の債務は全く別のものだ」と。

しかし、今朝の報道でもスペイン国債の流通利回りは危険水準の7%を超えた、とされています。 
「国の債務はなければないほど国は繁栄」という考えと同様、「国に債務があればあるほど国が繁栄」という理解も全く間違っています。
 
 シェイブテイルとしては、健全な国の債務とは流通する地域内で殆どが保有されていることと、利払い費が国の大きな負担となっていないことだと思います。*1
日本国債の場合、前者はほぼ合格ですが、後者は問題になりつつあります。 
ではどう解決すべきか。 国民から税率を上げて国の負債を解消するは最悪の回答でしょう。 これに比べれば、一旦国債を市中で増発して、財政政策を行ない、自然増収で債務を返済は優る回答かと思います。 ただ、国債を市中で増発する際に、状況は逆に悪化していますから、ベストの解ではないでしょう。
日本国債の場合、利払いが問題となるのですから、政府として利払い不要である日銀に引き受けてもらうか、元来利払いとは無縁の政府紙幣を発行して得た資金で財政政策を行ない、デフレを脱却するとともに、自然増収により国債(もしくは政府紙幣)を消化するのがベストの解のように思います。日銀・白川総裁や何人かの経済学者の方が、日銀による国債直接引き受けや政府紙幣発行論は出口で行ってこいとなるので無意味、という立場を採っていますが、国債を直接引き受けてもらったり政府紙幣を発行したりして得たマネーで民間非金融部門に政府から直接マネーを配る政策を採るならば、早晩デフレは脱却します。 デフレ脱却後にこれらの負債を返済するのですから、長年のデフレ脱却、好景気、自然税収増、株価・地価上昇などのとてつもなく大きいメリットは、「行ってこい」にはなりません。

【2012.07.25追記】
http://www.anlyznews.com/2012/07/blog-post_1112.html
方面から来られた方へ。
あのブログ主が何が分かっていないかといえば、ここ数回の議論で行なっているのが、不換紙幣に関する「思考実験」だということです。
今日の普通の状況で、中央銀行が金なり、株式などの有価証券なりが買えるかどうか。 
当然買えます。 しかしここでは、こんな小学生でも分かる話をしているわけではありません

その思考実験とは、もし一切のマネーがない状態(物々交換状態)に、政府と不換紙幣だけを扱う中央銀行ができた、とします。
まだマネーはありません。 すると金や米などの実物商品には価値はありますが、マネーはないから物々交換しかできません。
ここでもし、誰かが金やその他の実物商品を持っていて、それを中央銀行が買おうとすればどうなるか。
もし買ったとすれば、これはその実物商品の預かり証です。
いま議論しているのは不換紙幣ですから、紙幣価値の裏付けとしての実物資産を持つことはできません。
なぜなら、もし持ったとすれば、紙幣の価値がその実物資産に連動するその実物商品に対する兌換紙幣であり、前提の不換紙幣の議論からは外れます。 

それではこの状態で市場に債券なり、株式が存在し得るか? するわけがありません。市場には全くマネーがないのですから。
存在しない債券や株式は買うことができません。もし無理やり「存在する」としてもそれらの貨幣価値はゼロです。

ただ。政府のみは市場にマネーがあるなしにかかわらず、国債などの債券を発行し、中央銀行に直接買い取らせることができます。
こうして一旦原初的なマネーができ、政府がこれを財政政策や人件費として支払うなど市場で使えば初めて市場にマネーが出現します。
そのあとは、上記本文の2.で書いたように市中銀行にもマネーが渡り、市中銀行自身の信用創造機能でマネーサプライを増やすことができます。

更に進めて、政府が政府貨幣を持てるという前提を置くとまた話は少し変わってきますね。

【より詳しい説明はこちら】 「緩やかな演繹法」でわかる、国の債務とは何か - シェイブテイル日記 「緩やかな演繹法」でわかる、国の債務とは何か - シェイブテイル日記 このエントリーをはてなブックマークに追加 
このエントリー(と7月26日のエントリー)のコメント欄まで読めばよりはっきり分かるかと。
いずれにしても思考実験をまず知らないと議論は噛み合いません。

*1:紙幣自身がそうですが、「利払い不要の債務」であれば、無限に繰延可能で、インフレ以外の財政健全化問題は起きません。