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英国大不況時と現代日本のデフレの違いは?

 世界の金融史上にはデフレは何度もありました。その中で長かったことで有名なのは、19世紀後半の英国などで生じた、いわゆる「大不況(Great Depression)」です。この大不況は1873年から1896年まで、24年間続きました。 ではこの大不況の24年間が世界金融史上最長のデフレなのでしょうか。  この大不況の期間には英国では既に物価指数の記録が整備されており、英国商務省による卸売物価指数推移を見ることができます*1。図1にその期間の物価推移を示しました。
  
図1英国大不況時の卸売物価指数推移(1900年=100) 図2 英国大不況時の物価下落継続年数
英国大不況時には、24年間で物価は43%も下落した。 ただこの期間の物価下落は連続しておらず(図2のXが物価下落年)、
断続的に4回のデフレが生じている。

 このグラフで見られるように、英国大不況時の物価下落は凄まじく1873年に152だったものが、1896年には88と、43%もの下落を経験しています。ただ、このデフレ、詳しく見てみると毎年物価が下落した、というわけでもなく、IMFが定義するようにデフレを2年以上継続する物価下落、とした場合、1874年-1876年(3年間)、1878年-1879年(2年間)、1883年-1887年(5年間)、1892年-1894年(3年間)というように断続的に4回のデフレが発生しており、その間には1888年-1891年のように、4年連続物価上昇、といった期間も含まれています。

 翻って現代日本のデフレの場合を見てみましょう。指標は消費者物価指数(上方バイアスあり)と、物価下落を正しく反映すると考えられるGDPデフレータを示しました。

図3 現代日本のデフレでの消費者物価指数GDPデフレータ推移、 図4現代日本のデフレでの物価下落継続年数*2
現代日本の物価下落は、19世紀の英国大不況と比べると程度が小さく、
消費者物価指数ではわずかに1ポイントに過ぎない。
ただし消費者物価指数は1%強の上方バイアスがあり、このバイアスがない連鎖方式の
GDPデフレータでは同じ期間に19ポイント物価が下落している。
図4の物価下落年X印)で分かるように、現代日本のデフレの最大の特徴は、その継続年数であると言える。

 物価下落の程度は、英国大不況に比べるとまだまし、と言えそうです。ただ、注目すべきはデフレの継続年数です。英国大不況でさえデフレ継続年数は卸売物価指数で見て5年間であったのが、現代日本のデフレの場合、連続14年です。
 
 水野和夫氏の著書*3によれば、同一指標、GDPデフレータで物価下落期間を比較すると、日本では昭和恐慌時に1925年-1931年まで7年連続物価下落という記録がありました。 1913年以降の米国では物価下落が6回あり、その最長が1930年-1933年の4年間。 世界で最も長く物価統計が存在するのが英国で、その中での最長が上記大不況時の1877年-1880年の4年間だったとのことです。 要するに、現代日本のデフレは毎年の物価下落の程度こそ小さいものの、その長さは世界金融史上ダントツだということです。

 大不況時の英国では、産業革命で著しく生産性が伸びているのにもかかわらず、英国が金本位制を採っていたために、貨幣の供給が十分ではなかったためデフレとなった、とされています。英国大不況時のデフレは当時の経済学の水準が低かったせいで、人為的ではなかったわけです。 4年連続物価が下がったといっても、コインの裏が連続4回出る可能性が1/16ですから、確率的にはそう珍しいことではないといって良いでしょう。
 ところが、現代日本のデフレの場合14年連続ですから、コインの裏が連続14回出る可能性、1/16,384を考えても、偶然であれば奇跡とも言えるほど珍しいことです。
 日銀がマスコミなどの注目度が高い消費者物価指数上昇率を精密に0%にするからこそ、この消費者物価指数の上方バイアス分の1%強、判で押したように毎年GDPデフレータが下がっていく。  現代日本のデフレはやはり「日銀デフレ」としか呼びようのない、世界金融史上に残る愚挙であることが分かります。

*1:B.Rミッチェル イギリス歴史統計

*2:データ出典:IMF World Economic Outlook 2011 Sep

*3:「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」p16