二階ペーパーが日本を救うか?
今年6月30日、安倍内閣で「骨太の方針2015」が閣議決定されました。
政府は30日夕の臨時閣議で経済財政運営の基本方針(骨太の方針)と成長戦略、規制改革実施計画をそれぞれ決定した。骨太の方針に盛り込んだ財政健全化計画は2020年度の財政の黒字化目標を堅持したが、歳出額の上限を設定せず、緩やかな「目安」にとどめた。経済の好循環による税収増で財政を立て直す成長重視の姿勢を鮮明にした。
日経 2015/6/30 歳出抑制「目安」止まり、成長重視 骨太方針閣議決定
来年4月の、消費税10%への増税が明記されているなど、相変わらずの財政健全化を目的とする「骨細の方針」なのかと思っていましたが、舞台裏ではなかなか興味深い動きもあったようです。
激しい攻防が水面下で展開された安倍晋三政権の財政再建への指針「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」。財務省と内閣府の対立が表面化したが、「第三者」による瀬戸際の仲裁で異例の決着をみた。ただ、安倍首相の本音は「成長優先」にあり、外的な経済ショックで成長がとん挫すれば、財政再建が失敗するリスクも内包する。安倍首相のリーダーシップが問われる局面が、いずれやって来る。
ロイター 2015.07.3〔インサイト〕激論の末の「骨太」、首相本音は成長優先 財政再建失敗リスクも
このロイター記事、全体が3,500文字ほどのかなり長文ですが、大変興味深い内容を含んでいるので、ごく簡単にご紹介します。
二階ペーパーと骨太の方針2015
今年1月、京大・藤井聡氏が二階俊博総務会長に藤井ペーパーを手渡し。
藤井ペーパーは直ちに二階ペーパーと名を変え、自民党内で波紋を呼んだ。
その結果、今年6月までの骨太の方針策定をめぐり、従来のPB均衡重視の緊縮財政で財政健全化を図るという財務省派と、
経済成長により財政健全性指標改善を通じて財政健全化を図るという内閣府派に分裂。
主張する内容は、骨太の方針内で両論併記となった。
写真は上段左が二階氏、藤井氏、中段内閣府側が安倍首相、菅官房長官、甘利経済再生相、
下段財務省側が麻生財務相、稲田朋美自民党政調会長。
骨太の方針策定の実務に当たる財務省と内閣府で、今年については意見の隔たりが大きく、6月中旬になっても取りまとめ作業は暗礁に乗り上げた状態だったというのです。
財務省・内閣府間で意見が隔たった原因は、自民党の二階俊博総務会長が自民党内に配った「二階ペーパー」によるところが大きいようです。
<二階ペーパーの波紋>
歳出規模が税収の2倍にも膨れ上がっている国は、主要7カ国(G7)で日本しかない。国際通貨基金(IMF)への返済が遅滞し、事実上のデフォルト状態に陥っているギリシャでさえ、単年度の歳出と歳入の規模は均衡状態にある。 だが、政府・与党内には、経済は生き物であり、単年度の歳出と歳入を単純にバランスさせる考え方は、逆に財政再建を遠ざけるという考え方を支持する声が多かった。
今年1月、「基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)目標は、債務対GDP比(名目)を悪化させている」と題した藤井聡・京大教授の資料に、自民党の二階俊博総務会長は思わず、うなった。全10ページにおよぶ資料は「自由民主党政務調査会・国土強靭化総合調査会会長、二階俊博」と記名が変わり、名実ともに「二階ペーパー」となった。
波紋は早速、政府部内に広がる。「官邸に近い二階さんがそういうなら、総理は、本当はPB目標なんて入れたくないのではないか」、「解散宣言でのスピーチをよくよく聞けば、財政健全化目標の堅持と声高に言うものの、PB黒字化の堅持とは言っていない」との声が漏れ始めた。
2月12日の経済財政諮問会議に提出した民間議員のペーパでは、「黒字化」の3文字が消え、昨年までPB黒字化の後に活用するとされていた「債務残高GDP比の安定的に引き下げ」の目標が、「また」という接続で並列的な存在に格上げされた。
さすがに「黒字化」が消えてしまったことに対しては、首相の周辺からも「昨年11月の消費税引き上げ延期の際の首相の公約を反古(ほご)にしかねない」との批判が出て、5月12日の骨太の論点整理の際に復活した。
ロイター 2015.07.3〔インサイト〕激論の末の「骨太」、首相本音は成長優先 財政再建失敗リスクも
さて、自民党内に根付いていた、財政健全化にはプライマリーバランス(PB)均衡が必須というPB均衡信仰を打ち破った藤井聡氏の資料とはどのようなものだったのでしょうか。
この資料は日本経済復活の会、小野盛司氏のブログからみることができます。
二階ペーパー(藤井ペーパー)の内容
二階ペーパーは、財務省派が主張する、「PB均衡なしに財政再建なし」
という内容を真っ向から否定する内容となっている。
出所:小野盛司氏のブログ
二階ペーパーでは「民主党菅総理の遺産としてのPB目標」、「菅・野田内閣がPB改善を目指した結果、債務対GDP比は悪化」、「小泉導入PB目標で、PBを過激に改善しても債務対GDP比は改善せず(むしろ悪化)」、「PB目標のために財政破綻したアルゼンチン」、「一方!、PBではなく、債務対名目GDP比を改善目標に掲げた米クリントン政権は、成長と財政再建を同時に果たした!」と財務省や財政再建派からみればなかなか「過激」な、正論が並んでいます。
とは言え、安倍首相自身が8%消費税増税にゴーサインを出したことや、PB均衡をこれまでの財政運営の目標にしてきたことから、今回の骨太の方針でもこれをガラリと変えて、2017年4月に予定される10%増税は明記したままになってしまっています。
二階ペーパーで安倍首相らの目からうろこが取れているとすれば、自ら進めてきた10%までの消費税増税は、成長の腰を折るだけでなく、財政再建の障害となることも理解されたはず。
君子豹変すといいます。
安倍政権には、今後は積極財政を含む成長戦略で、クリントン政権同様の成長と財政再建の同時達成をされるように舵を切って欲しいものです。