日本で法人税引き下げは更に必要か
昨今、経団連などの財界からは、日本企業の法人税等(法人税、地方税)が諸外国よりも高いという批判が出ています。
財務省HPの資料(図表1)を見ますと、確かに諸外国に対して高すぎるように見えます。
図表1 法人税国際比較
ここで示す実効税率は、法人所得に対する租税負担の一部が損金算入されることを調整した上で、
それぞれの税率を合計したもの。*1
そこで、今後は段階的に現在の税率を引き下げる予定となっています。
ただ図表2を見ますと、近い将来の法人税率引き下げを含めてもまだ日本の法人税率は高いように見えます。
図表2 将来の法人税引き下げの予定
将来の法人税引き下げを含めても、将来的にもまだ日本の法人税は国際的に高すぎるように見える。*2
2012年5月15日に経団連が発表した成長戦略の実行と財政再建の断行を求める〜現下の危機からの脱却を目指して〜*3という提言では、経団連は、”成長戦略実行と財政再建に向けて諸外国との競争上、現在の政府方針の法人税引き下げではまだ不十分”だとして、「アジア諸国並み20%台」への法人税率削減を求めています。*4
通常言われている法人税の実効税率は、平成23年度税制改正以前では40.69%(国税27.89%、地方税12.80%)とされています。
ただ、日本の法人税が経団連が主張するように本当に高いのかを判断する上で、元国税庁職員である富岡幸雄中央大学名誉教授が提唱する「真実実効税率」という指標は知っておく必要があると思います。 図表3が資本金規模別の「真実実効税率」です。 *5
図表3 資本金別「真実実効税率」
平成20年度国税庁企画課「税務統計から見た法人企業の実態」を富岡氏が整理したもの。
平成23年税改正以前の法人税国税部分は実効税率ベースでは27.89%。
なお法人税法定税率は30%で、資本金1億円以下の中小企業には
年所得800万円以下部分に対して、22%の軽減税率が適用されている。
この真実実効税率ベースでは、法人の受取配当金を課税対象外とする、多国籍企業の日本の課税権からの離脱、近年の研究開発費減税といった大企業に有利な減税措置があるため、実際支払われる法人税÷企業利益、つまり「真実実効税率」は企業規模により大きな差がつくようになっています(図表3)。 *6
これから推定すると、資本金100億円以上の大企業での地方税を含めた法人税負担は、現在でも28%弱、法人税減税後の2015年度には経団連自身が求めていた25%弱となるでしょう。 これをさらに経団連の主張するように、名目実効税率25%程度にまで引き下げたとすれば、大企業にとっては真実実効税率がもはや約18%と、結構なタックスヘイブンと化してしまいます。
税収不足により、巨額の赤字を国債で補填している日本で、です。
経団連は、「日本経済のために」、近隣諸国との競争上現在低減途中の法人税を更に引き下げよと主張していますが、現実には海外展開する大企業に限ってはすでに法人税負担は近隣諸国と比較しても高くはありません。 これを更に引き下げるのは海外に展開していない中小企業などと比較して著しく税の公平性を欠くと言えるのではないでしょうか。
経団連の中心にいるような日本の輸出系大企業は、日本経済のためと称しながら、実際には社会保障問題に乗じた消費税増税で儲け*7、その代わりに(??)法人税不当減税でも儲けようとしています。
使っている資料の類似性から、その主張は財務省からの入れ知恵によるものかも知れませんが、経団連の提言としてはもう少し企業エゴイズムを抑えて国民の目線に近いものであって欲しいと思うのは私だけでしょうか。
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