日経の消費税価格転嫁促進案は有効か
今朝の日経社説では消費税の価格転嫁について書かれています。
消費増税の価格転嫁を妨げてはならない 2012/7/29付
消費増税関連法案は今国会で成立する公算が大きい。税率を引き上げる2014年4月と15年10月には、企業が商品やサービスの価格に税負担を転嫁できるかどうかも重要な問題となる。
増税後の値決めは企業の経営判断である。だが大企業が優越的な地位を乱用し、下請け企業に負担を強いることは許されない。円滑で適正な価格転嫁の環境を整えるため、政府や中小企業団体は万全の対策を講じるべきだ。
消費税は事業者の価格転嫁を通じて、最終的に消費者が負担する仕組みになっている。しかし大企業が下請け企業の価格転嫁を認めず、自分の会社で負担するよう求めるケースがみられる。
長引くデフレや歴史的な円高に苦しむ大企業の値下げ圧力は強い。「1997年4月の消費税率引き上げよりも、今回の方が価格転嫁が厳しい」とみる中小・零細企業は少なくないという。
中小・零細企業の収益が大幅に悪化するようなら、消費増税と景気回復の両立が難しくなる。下請け企業の不安を和らげるためにも、価格転嫁を妨げる障害をできるだけ取り除く必要がある。
政府の検討本部は価格転嫁対策の中間報告をまとめた。1年半の間隔で合計5%の大幅な税率引き上げに踏み切るだけに、過去の消費増税時を上回る措置を講じるというのは理解できる。
中小・零細企業が価格転嫁を取り決める「転嫁カルテル」を容認する。書面調査などで大企業の下請けいじめを監視し、違法行為を独占禁止法や下請法で取り締まる。税額を含む価格表示の方式についても柔軟な対応を認める。こうした対策を総動員してほしい。
日本商工会議所などの中小企業団体も、政府と連携する必要がある。価格転嫁の状況を調査し、いじめに悩む下請け企業の相談に応じる体制を整備すべきだ。
政府は中小・零細企業の事務負担などを軽減する予算措置や税制措置も検討する。民主党は消費税を導入した89年4月の事例も踏まえ、基金の創設を含む大規模な支援策を要望している。
システムやレジの対応などに一定の費用がかかるのは確かだ。だが中小・零細企業の不満を和らげるため、安易にカネをばらまくのでは困る。本当に必要な支援を精査し、規律ある対策を講じるのでなければ、大幅な負担増を迫られる国民の理解は得られない。
日本の消費税は、支払い義務が消費者にではなく事業者にあるため、デフレで価格下押し圧力がかかれば、購買側下流企業が価格決定権を握っている場合、価格転嫁できないケースが多発します。
日本ではなぜ消費税増税がデフレを持続させるのか - シェイブテイル日記 で見ましたように、中小企業へのアンケート結果では5割前後が消費税の価格転嫁ができていないと回答しています(図1)。
図1 消費税を価格転嫁できない企業の比率
「中小企業における消費税実態調査」による。売上階層別。
消費税を十分に価格転嫁できていないと回答した企業比率。
売買の力関係が弱い中小企業は、消費税を価格転嫁できない
と分かっていても販売せざるを得ないという実態が見える。
では、この社説のような、デフレ下での価格転嫁対策が有効に機能するでしょうか。
中小・零細企業が価格転嫁を取り決める「転嫁カルテル」を容認した場合、購買側がカルテル価格が高すぎると判断すれば、更に海外調達を増やし、国内中小・零細企業の売上は一層減ることになるでしょう。
書面調査などで大企業の下請けいじめを監視し、違法行為を独占禁止法や下請法で取り締まるとしても、第企業側は、デフレが進行中ならば、単純に本体価格を含む価格引き下げを要求するでしょう。
日経新聞が一マスコミとして、デフレが進行するという根幹を放置するどころか、消費税増税というデフレを加速させる政策に大賛成を唱えながら、効果も薄い消費税増税価格転嫁策を社説に書くのは、一種の罪滅ぼしのつもりなのかもしれませんが、見識のなさを示すだけかと思います。