国債の日銀引き受け報道に見る日本の報道統制事情
大震災の復興財源について、国会でも日銀の国債引き受けを財源とすべきとの議論がなされています。これに対し、市場関係者やエコノミストから絶対に避けるべきという声が上がっている、との報道があります。 この報道を材料に日本の報道統制事情について考えてみます。まず少々長い引用ですが赤字で強調したところ に注目して読んでみましょう。
(以下引用)−−−−−−−−−−−−−−−−−−
3月31日、東日本大震災の復興財源の調達に向け、日銀の国債引き受け検討がとりざたされていることについて、市場関係者の間では財政破綻につながるとして強い危機感が浮上している。都内で昨年4月撮影(2011年 ロイター/Issei Kato)
「国債日銀引き受け」ならインフレ発生と財政破綻、市場関係者が危機感 19時54分配信 ロイター [東京 31日 ロイター] 東日本大震災の復興財源の調達に向け、日銀の国債引き受け検討がとりざたされていることについて、市場関係者の間では財政破綻につながるとして強い危機感が浮上している。 市場から日銀が国債を買い入れる場合と異なり、直接引き受けの場合、市場による金利を通じた国債発行のコスト評価もなくなり、財政規律の崩壊につながりかねない。歴史的にみても高インフレを招く原因になることが知られており、巨額の国債発行残高を抱える日本の現状では、1、2ポイントでも金利が上昇すれば利払いコストの増大から財政破綻をもたらすことになると市場関係者は懸念を隠さない。 <日銀の国債引き受け 与謝野担当相とエコノミストの懇談でも話題に> 日銀による国債引き受けは、30日に開かれた与謝野馨経済財政担当相と民間エコノミストの懇談でも話題にのぼった。与謝野担当相は、国債増発の際の金融市場の反応を気にしていたもよう。与党内には復興のための国債を日銀が引き受ければ問題はないとの意見が浮上している。これについて出席したエコノミストらは非常に危険だとして反対意見を述べた。 BNPパリバ証券・チーフエコノミストの河野龍太郎氏は「副作用があまりに大きい。いったん引き受けが始まれば復興国債だけでは済まなくなり恒常化するのが歴史の常」と主張。JPモルガンのチーフエコノミスト・菅野氏も同様の意見を表明。すでに、現在の国債市場でさえ、発行残高の大きさや価格形成は、日本の財政クレジットコストを十分に織り込んでおらず、国債バブルといってもよい状況だと説明、日銀の国債引き受けはそれ以上に非常に危険だとした。 <高いインフレ率を招く可能性> 政治家の間には、日銀が現在行っているように市場から国債を買い入れることと直接引き受けることの違いが認識されていない面もあるようだ。第一生命経済研究所・主席エコノミストの熊野英生氏は「ファイナンスをどうするかという問題ではなく、財政規律の崩壊の問題だととらえてほしい」と説明する。 日銀が政府にとって便利な金庫となれば、とめどもない流動性供給があっという間にインフレをもたらすことは歴史も証明している。
それがなくとも大震災の影響で、「今後はデフレではなくてインフレ圧力が高まる」(菅野氏)との見方が浮上している状況だ。企業の供給能力が低下する一方で、復興需要や企業の投資増加が順調に発生すれば需給ギャップを縮小させる。貿易・経常収支の赤字転落の可能性は円安を進行させる。
今年半ばには輸入の増加による貿易赤字を予想する声が広がっている。これは経常収支の赤字転落がそう遠くない時期に訪れることを示唆し、円安が加速する可能性がある。これまで簡単には崩れなかったデフレ構造が変化する可能性が高まっている。 さらに日銀引き受けの議論が現実味をおびれば、それをきっかけとするインフレ加速は確実だとエコノミストらは見ている。 <長期金利が1、2ポイント上昇すれば財政破綻へ> インフレに伴って長期金利が上昇すれば、巨額の国債利払いにあえぐ日本の財政はあっと言う間に破綻すると指摘されている。
財務省の試算(11年度予算の後年度歳出歳入への影響試算より)では、慎重な経済見通しを前提にした場合、11年度の長期金利が仮に2%とした場合に、国債費は2014年度に27.1兆円となるが、長期金利が1%ポイント上昇すれば14年度の国債費は4.2兆円増加する。これは消費税の2%に相当する金額だ。長期金利が2%上昇すれば8.5兆円の増加となり消費税4%に相当する。 河野氏は「1─2 ポイントの政府の資本コスト上昇が財政破綻をもたらす。復興支援が、新たな危機(財政危機)につながることは避けなければならない」としている。 <政府も日銀も規律をもって対応すべき>
白川方明総裁が何度も国会で答弁しているように、日銀自身が国債直接引き受けの可能性を否定するのは当然だが、一方で、日銀も復興支援に積極的に関わる姿勢を強調しすぎるあまり政府の財政規律が崩れることのないよう、規律をもって対応すべきとの意見も出てきた。
第一生命経済研究所の熊野氏は、日銀が財政支援をしようにも、政府与党自体が規律を失いかけていると見ている。「日銀による国債直接引き受けなど、きちんと詰めていないと思われる議論が表に出てしまうなど、政府与党のガバナンスの足腰が弱く、非常に危うい」と指摘。一方で、日銀についても「資産買い入れ基金で国債を買い入れる際に銀行券ルールとは別枠にした。このアリの一穴が今やダムの決壊につながりかねない状況」と危惧している。 ファィナンスの話ばかりが先行している状況だが、復興支援はまず金額ありきではなく、どのような復興を目指すのかを考え、それを実務的に積算した上で総額が出てくるものであり、そうした規律ある財政支出を行うべき、との批判が強まっている。 (ロイターニュース 中川泉;編集 石田仁志) −−−−−(引用終わり)
さてところで、ここに出てきた登場人物は誰と誰か。
・与謝野大臣、・白川日銀総裁、・多数の市場参加者たち・多数のエコノミストでしょうか?
いえいえ違います。よくみると与謝野大臣、白川総裁以外にはBNPパリバ証券・チーフエコノミストの河野龍太郎氏、第一生命経済研究所・主席エコノミストの熊野英生氏それとJPモルガンのチーフエコノミスト・菅野 雅明氏 しか出てきません。そして、それぞれの経歴は、熊野氏は元日銀マン、菅野 雅明氏も元日銀マン。 唯一河野龍太郎氏だけが元日銀マンではないようですが、タカ派増税派の与謝野大臣に呼ばれてコメントしているように、与謝野大臣と考えが近いことは言うまでもありません。
そうなるとこの記事が言う、「市場関係者」「エコノミスト」とは元日銀マンか与謝野氏同様の増税派エコノミスト3名を指していることになります。 また文面中、国債の日銀引き受けは「歴史的にみても高インフレを招く原因になることが知られて」いるとされていますが、これは以前のエントリーに書いた通り、事実とは異なっています。 この文章を書いたロイターの中川泉とは何者か私は知りませんが、この文章の構造の危うさは戦中の言論統制と何ら変わらないことは指摘できます。
【4月2日追記】
この記事を読んでいただいた方の感想の中で、「単にロイターが偏向した記事を書いたからといって、言論統制とは大げさな」といったコメントもいただきました。ただ私は、このロイターの記事は単に氷山の一角だと思っています。
以前、「経済学者とはどのような人々か」というタイトルのエントリーを書いた際にわずかに触れた話ですが、日銀の政策委員会審議委員には一種の枠があり、日銀関係者以外に経済人が登用されることがあります。 で、日銀以外の審議委員には秘書と課長補佐クラスが調査補助としてつくそうです。ところがこの課長補佐なるものは、日銀の当局の間者のようなもので、非日銀関係者がシナリオにない発言をしないように抑えることも日銀当局から要求されているようです。また、政策決定委員には日銀内に部屋も与えられているのですが、非日銀系の審議委員は日銀当局の盗聴を恐れ電話は日銀の備え付けの電話は使わないとか。−「日銀は誰のものか」(元日銀審議委員・中原伸之著)より−*1
こうした情報を知ってロイターの記事を読めば、外様日銀審議委員への盗聴も、優秀な日銀総裁が物価の指標としてバイアスのないGDPデフレータを使うことなくなぜか敢えて物価が上がり気味に見える(上方バイアスのある)CPIにこだわり、またそれを全マスコミがまるで当然のように受け入れていることも全てつながりを持って理解できます。
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