シェイブテイル日記2

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消費税デフレ環境では、増税で賃金格差はさらに拡大する

【要約】
・賃金の下方硬直性という経済学の常識は次第に非常識化しつつあります。
・その原因の一つは、消費税が会社の付加価値部分にかかる仕組みだからです。
・今後消費税率が高くなれば、正規雇用者と非正規雇用者間での賃金格差は更に拡大が予想されます。


 昨日のエントリーでは、現代日本精神疾患(主にうつ病)が増えたことと’97年のデフレ下での消費税増税との因果関係ついて書きました。*1
以前は、「賃金の下方硬直性」などと言って社員の人件費は簡単には下げられないため、人件費を下げる手段としてはリストラなど従業員数を減らすことが主眼というのが常識でした。
ところが、7月3日のエントリーで示しましたように、’97年の消費税アップ以降、デフレの進展以上に賃金のデフレが加速しているようです。*2 
企業は下方硬直性のあるはずの労働単価を下げているということになります。これはどういうことかを考えてみましょう。

まず、非正規雇用者の比率は「社会実情データ図録」で示されているように、男女とも右肩上がりに上昇しています。*3
]
一度非正規雇用の立場になれば、企業はその被雇用者の賃金を護る側から削減する側になってしまい、日銀デフレの環境では価格競争に曝された人件費はどんどん下がっていってしまいます。 被雇用者が非正規雇用の場合、雇われる側には当然雇用が不安定というデメリットがありますし、雇う側にだって会社への忠誠心が減るなどデメリットがあります。 それなのに、倒産間近でもない普通の企業が敢えて雇用者を非正規雇用にするインセンティブとはどのようなファクターが考えられるのでしょうか。

消費税というものは、企業の売上全体にかかるわけではありません。
企業の売上から仕入分を引いたもの、つまりその企業の付加価値部分が消費税の対象となります。
ただでさえデフレで売上が減少気味の企業としては、出来れば消費税の対象となる付加価値部分を減らしたいというインセンティブがあることになります。
 社員が正社員の場合、社員の給料は消費税の対象となる付加価値部分から支払われます。 ところが派遣社員など、社外の人員に仕事をしてもらった場合、派遣社員などの人件費は仕入物件費扱いであり、同じ人に働いてもらうのでも、正社員ではなく、派遣社員として働いてもらった方が消費税が圧縮できるのです。 そこで、消費税とデフレが相互作用を持ちながら経済を縮めていく中では、企業は正社員を非正規雇用に置き換えていくことになります。 消費税の負担をまともに被れば存続がおぼつかない企業ならそんなこともいっておられません。 こうした事例が増えてくるなか、企業によっては会社に利益を落とすために人件費を非正規雇用に切り替えているところも多く出てくるようになってきました。
 一旦雇用が正規雇用から非正規雇用に切り替わってしまえば、賃金はもはや市場競争で決まる変動的なものになってしまいます。 賃金の下方硬直性とは、いまや減少しつつある正規雇用者だけのもので、正規雇用者と非正規雇用者の賃金格差は消費税率が高くなればますます拡大していくでしょう。

【追記】上記の説明は、コメント欄でerickqchanさまからの指摘にあるように、不正確もしくは贔屓目に見てもデフォルメしています。 消費税全体に潜む問題点についてはすぐ下の「消費税の悲惨な実態を分かりやすく説明した動画」をご覧ください。

 【追記2】このエントリーをより正確にリメイクした「消費税が雇用の非正規化を促進する仕組み」をアップしました。*4

*1:http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110709/1310166936  現代日本でなぜ精神疾患が増えているのか

*2:http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110703/1309704830  デフレになったら消費者物価指数はあまり下がらないのに、単位労働コストはひどく下がる

*3:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3250.html

*4:http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20110723/1311411771  消費税が雇用の非正規化を促進する仕組み

消費税の悲惨な実態を分かりやすく説明した動画

消費税の実態は、給与所得者など部外者には分かりにくいものです。
政府や財務省などは実態とは乖離したキャンペーンを繰り返しています。

自営業者の自殺などの悲惨な結果をもたらす消費税のカラクリを詳細に取材した斉藤貴男さんへのロングインタビュー動画です。 消費税に関心がある方は推進派の方も含め是非一度こちらからご覧ください。(この写真をクリックしてもただの絵です^^;)

このインタビュー、結構すごい話が出ています。(時間はトータル50:38)
(国会論議
14:20
時々国会で問題になることがあるんです。
一度国税庁の人が答弁にたって、不況の時には消費税を預かれないこともあるんですよね。でも建前というのか、消費税っていうのは預かってもらえないと困るんですよねー、とこういう話です。
(不公平税制)
15:15
(インタビュアー)法人税は上げるのが筋なのに法人税を下げるんですか。
(斉藤)ていうか法人税を下げるのが目的のひとつなんですよね。それが経団連がかねてから主張しているところですよね。ただ単に法人税を下げると税収が減るから、だから消費税を上げるんだと。
(豊田税務署は赤字)
16:10
今大体、輸出戻し税のトータルで1兆円を超えます。この1兆円というのは毎年の消費税として国庫に入る30%位。
それが戻し税になっていって。最も輸出戻し税が多いトヨタ自動車ではこれが3000億円と。だからトヨタ自動車は3000億円の不労所得を貰っているわけで。 だから豊田市の税務署は赤字なんですよ。税収を全部戻しちゃうわけだから。

税務署が戻しすぎて赤字って、事実なら凄すぎます。
(↑どうやら豊田税務署での消費税に限れば赤字、のようです)

消費税のカラクリ (講談社現代新書)

消費税のカラクリ (講談社現代新書)


【関連記事】
 消費税のカラクリ−消費税によりなぜ零細・中小企業主が自殺するのか− デフレ下では消費税を誰が払っているかも解説しました。

消費税の輸出戻し税(解説)

日本商工会議所こそ消費税増税問題のカギを握っている

 消費税のカラクリ−消費税によりなぜ零細・中小企業主が自殺するのか−

【要約】
・消費税論議は、やるか止めるか、やるならいつ、何%かが議論されています。
・消費税には大きな欠陥があり、消費者が負担すべき消費税を、消費税が取れない価格発言力のない零細業者などに負担させています。
・大手輸出業者は払ってもいない消費税が還付されます。
・ヨーロッパのインボイス方式付加価値税などを参考に、現在の欠陥消費税を正さないと、零細・中小企業主は不当にどんどん淘汰されてしまいます。

今後消費税が10%に上がった時の大手自動車メーカーと、弱い納入業者の会話。

大手自動車メーカー購買担当者[以下大]「消費税、また上がったな。」
弱い納入業者[以下弱] 「そうですねー。」
大「こんどの部品、消費税分はお前んとこで持てよな。」
弱「ええー、そんな無理ですよ。そうでなくともデフレで四苦八苦ですよ。」
大「ならいいよ。あの部品扱ってるの、お前んとこだけじゃないから。」
弱「きっついなー。 今回だけですよ。」

といった会話があって、納入業者は消費税分を値引いて、本体価格で部品を販売したとします。左の図で、緑が本体価格、橙色が消費税部分。 本来は一番上のように本体価格に消費税を加えた価格で顧客は買うべきです。ところが、今のデフレでは最終消費者は一円でも安い製品に強い魅力を感じますから、大手自動車メーカー購買担当者でなくとも、消費税分の値引きを要求してもおかしくありません。 現実には、多少は購買側も負担するということになるかもしれませんが、この例では全額納入業者が負担したとしましょう。
すると、年度末に税務署員に、「この部品はお客さんが消費税分を値引きしろといったので、消費税は取っていません。」などという言い訳が通るワケがない。という以前に、何万点という商品をいちいち消費税をねびいたかどうかなどはチェックすることさえ物理的に不可能で、実際にはまず販売した本体価格を全部足し上げ、ここから仕入費用を引いた額に消費税率を掛けた金額を消費税としてとられます。 でもこの弱い納入業者さん、納入先の大手自動車メーカーからも本来消費税を払うべき消費者からも消費税はもらっていません。 結局この業者が自腹を切ることになります。
 一方、この大手自動車メーカーが海外向製品を扱っている場合、弱い納入業者に値引きはさせますが、税務署では仕入れ価格に消費税率を掛けた金額は、海外向け業者は払わなくても良い消費税の払い過ぎと認識して、払ってもいない消費税が還付されます。

 こうした中小零細業者の存続にもかかわるおかしな税制は、田中康夫議員や一部の共産党系議員などを除き国会でも論議しませんし、答弁に立つ官僚は、「税金を取らない業者が悪い。」で答弁終わり、です。
 本来は欧州インボイス方式など、中間業者が不利益を被ったり、輸出業者が不当な益税を得たりしない税制に改革したのちに消費税論議はあるべきです。 ’97年に消費税が5%に上がり、翌年から自殺が急増しましたが、自殺者を職業別にみると、自営業者が増加率では最多でした。*1
 現在の状況がつづけば、国内の価格弱者は消費税によりすべて淘汰され、国内大企業か中国などの企業に置き換わらざるを得ないのではないでしょうか。

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