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1995年以来の「財政危機」の正体

 前回のエントリー内債が破綻する時とは 内債が破綻する時とは - シェイブテイル日記 このエントリーをはてなブックマークに追加で、内債の破綻はあり得るが、日本の現状は、内債破綻3パターンとは大きく異ることをお伝えしました。

図1 内債破綻事例(1970年〜)の分析
1970年以降の42例の内債破綻事例は、1)政情不安(内戦など)25件、
2)実質外貨建て 13件、3)高インフレ対応 4件の3パターンに分類できる。 
日本の現状はこれらのどれからも程遠い。
詳しくは「内債が破綻する時とは 内債が破綻する時とは - シェイブテイル日記 このエントリーをはてなブックマークに追加」参照。

そうはいうものの、日本政府の負債は、2009年末現在で、グロスで994兆円、ネットで526.4兆円です。 *1
この現在の日本国債の状況は財政危機にある程度は近づいているのでしょうか。

 数年前には、「国の借金が家計の金融純資産を上回る時、財政は破綻する」と「予言」する人たちもいましたが、2008年末頃以降国の借金(一般政府負債+財融債)が家計金融純資産を上回るようになっても、国債金利は史上最低レベルに張り付いたままです。

 また、1995年度末の国債残高は、現在の半分以下、グロスで460兆円程度であったのに、当時の武村正義蔵相は国会で「財政危機宣言」を行ないました。
これを受け、翌年発足した橋本政権は新規国債発行停止、消費税アップ(5兆円)、特別減税廃止(2兆円)、公共投資などの政府支出削減(4兆円)を行ない、デフレ気味のなかで緊縮財政を断行し、現在までに至るデフレを決定付けました。武村蔵相や橋本首相は当時の大蔵省官僚の財政危機のご進講に乗せられたのでしょうが、その頃の政府純債務はまだ100兆円にも満たず、今の感覚ではどう見ても危機には程遠かったと言えるでしょう。

 この「1995年以降継続する財政危機」について、廣宮孝信氏は、日本国債に関するもうひとつの重要な示唆を与えるグラフを描いています。*2


図2 一般政府の金融純負債と民間の金融純資産の推移
日銀「資金循環統計」から計算したもの。 

 このグラフを見ると、政府の純債務が急増するのと軌を一にして、民間(家計+企業)の金融純資産が急増を続けています。 これは偶然なのでしょうか。
この図2は、民間貯蓄が、政府の赤字をカバーできている、という見方もできるでしょうが、別の見方をすれば、政府が作った債務によって生まれたマネーがデフレ環境では民間を循環せずに、預金として凍りついていると見ることもできるでしょう。 政府が借金を作って、そのまま民間の誰かの預金口座に振り込んでいる*3、そしてその預金で、借金(国債)を買い入れている、と考えれば、政府純債務の数字は増え続けるものの、実態としては、マネーが空回りしているだけ、ということになります。 日本は経常黒字ですから、民間金融純資産>政府金融純負債という関係が保たれたまま双方の数字はどんどん膨れ上がる姿が図2、ということです。

 国の債務を全て返済すれば何が起きるのか 国の債務を全て返済すれば何が起きるのか - シェイブテイル日記 このエントリーをはてなブックマークに追加でご紹介した、エクルズFRB議長が指摘したように、「国が作った債務を全て返済してしまえば、その国を回るマネーは存在しなくなってしまう」という事実がありますので、現在の野田政権やかつての橋本政権が目指した、「コントロールできる内債を返済するための経済運営」は、経済の縮小を介して、その意図とは逆に、経済危機を招き入れているように思えます。

 

*1:日銀資金循環統計2009年末

*2:廣宮孝信「国の借金新常識」p107

*3:振込先は少なからず公務員の給与口座かもしれませんがいずれにしても民間の貯蓄であることは確かですね。